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地球防衛軍設立

 西山市での記者会見の結果は、その夜には世界に広まり大騒ぎになった。

 なにしろ、ファースト・コンタクト!しかも、地球の属する宙域は暴虐な種族が支配する空域であり、明日も強力な艦隊に襲われるかも知れないという。

さらには、映像の数々、宇宙船内の巨大惑星人の姿、翻訳機からでる英語、薄暗い木星を背景にしたゆらゆら姿を変える宇宙船の姿、そして破壊しつくされたかっては壮麗だったと思われる都市と大地。普通だったら、木星軌道に人が行ったということが大ニュースであるのが、これは話題のてんこ盛りである。


 この情報については、日本政府からも各国政府に正式な形で通知され、さらに状況から日本としては直ちに侵攻艦隊に対する軍備に全力でかかることが宣言された。さらに、日本政府はこの内容を国連大使を通じて国連にも通知すると共に、首相自らがG7諸国の首脳に対して電話して、実務者で対策会議を緊急に開くことを申し入れ、各国から合意を得た。場所は無論日本の東京で3日後である。

 その間にも、日本国内の「侵攻艦隊対策会議」は当初55人の実務者が集まって始められ、最終的に残った22人によって2日かけてようやく骨子と大項目行動予定表と大工程表が出来た。詳細行動予定と工程表は実施していく中で概ね1ヵ月で詰められる予定になっている。


 骨子としては以下としてその行動予定表と工程表が作成された。

 1)まず、日本国は「地球防衛軍」を設立する。そして今後のラザニアム帝国侵攻への準備はその地球防衛軍としてものであると世界に向けて宣言することになった。


 2)1週間をめどに超緊急、1ヵ月をめどに緊急、3ヵ月をめどの中期、6ヵ月をめどの中中期、1年をめどの中期、3年をめどの長期装備計画と訓練計画を整える。


 3)超緊急装備は航空自衛艦である『むらくも』『さいうん』『らいうん』の3艦、それに『きぼう』と『おおぞら』に、比較的簡単に作れる斥力装置を取り付け、『きぼう』と『おおぞら』にはレールガンを自衛艦と同数になるように2基増設する。加えて、タンデムである改F4の気密性を高め、酸素呼吸装置を増強することで亜宇宙航行を可能にして、試作されている小型レールガンを取り付けた機を20機整備する。

 訓練計画はこれらの乗員を自衛隊から選抜し、直ちに飛行訓練に入る。


 4)緊急装備は5艦の宇宙船に斥力装置を複数設置して電磁バリヤーも装備し、さらに改F4及び改F15各10機を改修して亜宇宙航行を可能にして、大口径レールガンを装備する。さらに、これらの乗員に徹底した飛行訓練射撃訓練を施す。

 また自衛艦1艦については、重力精密検出装置を装備して、ジスカルの話から推測してラザニアム帝国の艦艇が来ると想定される方面に海王星程度の距離までパトロールに出ることになった。もし、飛来を検知したら、重力通信装置によりアラームを出すことにしている。


 5)中期装備は、先の5日に現存の自衛隊の潜水艦16艦のうち、比較的新しい12艦について、核融合発電機2基を積み重力エンジン駆動として、レールガン4基に斥力装置に加え電磁バリヤーを装備する。

 さらにそれぞれの艦は改14の翼を外して2機づつの母艦機能を備える。それに伴って、改4が20機は改F15は20機について深宇宙での戦闘機能を備えるように改修する。なお、既存の5艦及び改修する8艦については熱線砲を2基ずつ設置する。なお、母艦機能を含めた宇宙戦闘の訓練を強化し、太陽系の境界付近のパトロール艦は全部で3艦とする。


 6)中中期装備では、会議の後にすぐに着工する、改良型のむらくも型の航宙艦を3交代勤務で建設し10艦を完成する。これらには当然、電磁バリヤー、多数の斥力装置、レールガン8基、熱線砲2基を備える。また、深宇宙戦闘機になる改F4及改F15を30基収容できる母艦(長さ120m幅30m高さ20mで満載重量2万トン)を2隻建設する。さらに、既存の艦についてもその後の研究成果を活用して装備を極力改善する。さらに、軌道上の敵を攻撃できる口径200mmの地上設置型の大口径レールガンを10基建設する。この時点では日本の運用する「地球防衛軍」の人員は5万人以上になると想定されている。


 また長期計画は、中中期までの整備の状況を見ながら中身を確定することにしているが、確定しているのは、100万kW級の核融合発電機を2基積んだ大型の航宙艦を完成するために、中期計画の終わりころには設計を終了して、建設に着手するとしている。これは、超空間ジャンプが可能な艦で長さが180mで満載重量が5万トンにもなるが、超空間ジャンプには100万kWの出力は必須であるため、残念ながらこの「銀河級」の航宙艦ができるまで、他星系への旅行はお預けである。

 

 緊急の作業は、すでに様々な新開発の機器の製作を行った西山市の四菱重工で、他の仕事は止めて斥力装置の製作が始まっている。無論、『きぼう』で製作方法を取りまとめた技術者は皆加わっている。改4Fは、同じ工場に降ろされ、これは改修に係った誠司の妻のゆかりがすこし大きくなった腹を抱えて改造の指揮をとっている。全体的には、誠司がマドンナを駆使して細かいところまで面倒を見ている。


 阿賀首相は、『きぼう』と『おおぞら』が着陸して、ラザニアム帝国の件が世界に広まった翌日に国内のみならず世界へ向けて声明を出した。

「世界の皆さん。皆さんもすでにご存知の通り、人類はついにファースト・コンタクトを成し遂げました。しかし、それは必ずしも喜ばしいものではありませんでした。

 確かに実際にコンタクトをした、巨大惑星人に敵意はなくそれどころか、我々の地球に危機が迫っていることを教えてくれ、さらにはその機器に対抗するための様々な技術も教えてくれました。

 今から申し上げることは、すべてファースト・コンタクトの相手の伝えてきたことです。中には、映像の証拠もありますが、それが事実であるかどうか我々自身が確認することは、自分自身で恒星間の旅を出来るようになってからになるでしょう。しかし、お断りしておきますが、私は信じており、私も、わが日本もそれが真実として行動をとります。


 まず、我々もその一種である酸素呼吸生物に適する惑星は比較的少なく、相当に生存競争が激しいということで、弱肉強食の世界であるそうです。

 そこで、この地球が属する太陽系はラザニアル帝国という星間帝国の版図の端にあるそうで、この地球はラザニアル帝国によってすでに調査されただろうというのです。問題は、この帝国は我々のような酸素呼吸生物が住む惑星を見つけた場合には相手を絶滅させて奪い取る、ということを繰り返しているということなのです。

 具体的には、まずその帝国は10隻ほどの巨大宇宙艦を派遣して、発見した生物が住む惑星の航空機に対する防衛体制を打ち破ります。そのため、まず脅威になりうる航空機、迎撃装置などを破壊してしまいます。それから、防衛するすべをなくした惑星に対して、近くの衛星または惑星から岩石を大量に運び、軌道上からそれを落として都市及び住民が住んでいそうなところを破壊しつくします。その後、しばらくしてから、ラザニアル帝国人による植民を行ってその過程でその惑星の元からの住民の絶滅させるのです。

 もう、ご覧になったかと思いますが、今から5分ほど、先ほど申し上げた巨大惑星人から提供された、そのようにして破壊された世界の映像をお見せします」

 

 映像が、ジスカル3世に提供された画面に切りかわり、その惨たらしく破壊された世界の映像が終わったのち、画面は再度阿賀首相を映す。

「どうでしょうか。我々の住む地球をこのようにしてはならない、そう思うでしょう。

 しかしながら、もし明日、その攻撃が行われたら、残念ながら我が国の持っている5隻の宇宙艦で多少の抵抗は出来るでしょうが、まず破られ、先ほどの映像のような地球の姿になるでしょう。 そうしないため、とりあえず我が国では、抵抗するための装備を準備するために、すでに今現在懸命の作業が行われています。

 また、当然世界の様々な国々の援助があって、一か月あれば、たぶん申し上げた10隻の侵攻艦隊を跳ね返すことが出来る可能性が高くなります。しかし、それを跳ね返せば終わりではないのです。

 要は、ラザニアル帝国にしてみれば最初の10隻を撃退するのが種として生き残る最低の資格条件ということらしく、その後数百隻の艦隊が押し寄せ圧倒されて降伏すれば、ラザニアル帝国の奴隷種族として生き残ることができるということなのです。


 こうなってしまえば、もう自分で運命を決めることも出来なくなり、他の種族に命令され生きるのにぎりぎりの生をいつまでも繋ぐことになります。

 私と、私と協議した人びとはこの押し付けられようとする運命、滅びることもまた奴隷になることに逆らおうと決心しました。日本の国民の皆さんもそうであると信じていますし、世界の人々全てもそうであると信じています。

 私は、ここにこうしたラザニアル帝国から突き付けられた脅威を跳ね返すため『地球防衛軍』を設立することを宣言します。

 今後、わが日本は国力と人々の英知のすべてを傾けて地球防衛軍の名の元に宇宙からの脅威に立ち向かう軍備を進めていきます。

 本来は、この設立は世界の国々の賛同を得て設立するべきでしょう。しかし、先ほどの申し上げた侵攻は明日起こるかも知れないのです。ですから、これはやむを得ないことであったと信じています。

 地球防衛軍は、その性質から国単位での世界の人々の加入をお待ちしています。

 明後日、私ども日本政府が呼びかけて、G7の実務者会議が東京で開かれることになっています。その席で、G7のすべての国がこの防衛軍に参加して頂けると期待していますし、国連においてもその呼びかけをする予定になっています。

 みなさん、私どもはこのような形で否応なく宇宙の脅威に向きあうことになりました。今こそ私ども人類が一致団結してこの脅威に立ち向かい、それを克服しようではありませんか」

 この首相の声明は、すでにマスコミに流した映像等が繰り返し世界で流されていたのもあって、昨日から今朝にかけての騒ぎ程ではなかったが、やはり驚きの声で迎えられた。


 第2次世界大戦では、世界を敵にまわす形で戦ったものの、その後はどちらかというとおとなしく人畜無害という印象のあった日本が、自ら200からの星系を統べるラザニアル帝国への抵抗軍を設立するとは、という驚きが多かった。

 それに対して、ネガティブな反応を示したのが、例によって隣の3国である。「日本は、自分が世界の支配者になろうとして戦争の準備を始めた」と正式に世界に向けて非難声明をすぐに発したほどであり、これに対してはいくら何でも偏見にもほどがあると世界からあきれられた。


 さらに、問題であったのが国連であり、「この件は、抵抗軍を形成するかどうかも含めて国連主導で行うべきであり、日本が自ら地球防衛軍なるものを設立するのは越権行為である」との事務総長声明をだして、これまた世界からあきれられた。

 これに対しては、「どうやって?」「国連のどこにそんな技術と、金と、人員が?」「いつまでに?10年後?」などとインターネットを通じてコメントと嘲りの嵐を浴びた。


 実際のところ、必要な技術に係る情報、ノウハウ、人材、さらに金を持ち、少なくとも今直ちに抵抗のための装備と組織の設立を実行に移せるのは日本のみであることは少しでも事情を知っているものには自明の理であった。

 G7及びそれなりに国力の国では、阿賀首相の声明の後、直ちに国内で緊急会議を開いてこの件が協議されたが、日本に対して含むことのある国であっても、日本が直ちに抵抗のためのこうした装備と組織形成に乗り出したので妥当な判断だと認めるしかなかった。


 そうした国力がもともとない北朝鮮はともかく、中国と韓国にしてもこの点は内部的に認めてはいたが、いまさら日本に頭を下げて謝る訳にもいかず、この地球人が絶滅するかもしれないという騒ぎで、政府に対する激しい抗議と抵抗がひと段落したので一息ついているところであった。

 しかし、そうすることで日本とその他の国が戦って地球を守り切ったとき、その能力があったのに何もしなかった自分たちがどういう立場に置かれるかと言う点に、指導者は気が着いてはいたが無視していた。しかし、両国のこころある人は、当然気が付いて抗議の声を上げ始めた。



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