表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/74

太陽系内探険へ

夕べは某国でウオッカを飲まされ、更新できませんでした。

 西山大学技術開発研究所が四菱重工で建造していた、宇宙船『きぼう』と『おおぞら』が完成した。

 これは、航宙型護衛艦の『むらくも』『さいうん』『らいうん』3艦とほぼ同時の竣工であり、いずれも潜水艦のそうりゅう型をひな型にして、10万kWの核融合発電機を2基積んで、無論重力エンジン駆動である。全長85mで径は約10m、満載重量は3,000トン、乗組員最低10名、乗客を30人乗せることが出来る。

 行動範囲は陸上を車輪で走ることこそ出来ないが、水中は無論大気中、宇宙空間も入っている万能艦である。護衛艦と違いミサイルは積んでいないが、レールガンは大口径1基、小口径2基を設置している。

 武装していることもあって、研究所が費用をもち運用方法は決めるが、実際の運用は自衛官の艦長と半数ずつの自衛官及び研究所の職員で構成された乗り組み員で行っている。この2艦は護衛艦の灰色の塗装と違って、白と空色で塗り分けられて、海上保安庁の巡視船を思わせる塗装になっている。


 ちなみにこの時点での日本や内外の状況は、日本は昨年末ですでに9基のレールガン基地によるミサイル防衛網を完成させており、これは首相声明で世界に向けて発表された。

 このミサイル防衛網は、当然のことながらその基地から半径250km以内の空襲についても、さらには地上部隊の撃破にも有効であり、この防衛網に守られた地域は事実上無敵になる。これらは、アメリカ、ロシア、ヨーロッパはNATOとして続々と建設中であり、これらは、今年末にも概ね完成すると言われている。


 こうして、人類は核による攻撃に対して防衛する手段を手に入れたことになる。しかしながら、この防衛網は半径250km以内の攻撃手段としても使えるわけであり、このレールガン基地設置のルールとして隣国の国境から250km以上自国側に入った地点に設置されるということになっている。

 また、核融合発電機は10万kWのものは続々と完成しており、100万kW機も工期が10カ月程度に短縮される見込みで夏ごろには20基が完成する。電動車は各自動車メーカーから一斉に発売されたが、エンジンやラジエターに比べSAバッテリーとMMモーターの組み合わせは大幅に安くなるため、販売価格は2割ほど従来のものに比べ安くなっている。

 これらを駆動するMMモーターの出力が200kWから50kWまでの50kW刻みで作られて、それに合わせて自動車メーカーによって様々な乗用車が作られているが、モーターがどのメーカーのものも出力特性はほぼ全く一緒であるため前のようなエンジンの特性が無くなって面白味がないとマニアを嘆かせている。

 しかし、従来のようにラジエターを含めたエンジン部に大きな空間が必要なくなり、またモーターの効率があがったために運転による排熱が非常に小さくなったことから、その構造は以前に比べて著しく自由度が増し、スタイルは非常に多様なものになっている。

 これらは初の発売後、半年以上が過ぎてもまだ長い予約待ちの状態であり、すでに500万台が売れ、発売後1年には乗用車で1100万台、トラックは150万台になるだろうという予想である。

 また、乗用車に比べシャーシーが比較的高価なトラック類は、エンジン部のみを電動化する改修が広く行われるようになってきた。


 SAバッテリー工場やMMモーター工場、さらにSAバッテリーの充電工場は続々と建設されており、当然給油所にはバッテリーの貯蔵庫と交換機が続々を設置されている。

 西山機構はセイザンチェンジャーという名前でこれを売っており、生産能力を全力で増加させて来た。さらに据え付けのため数多くの業者を使っており、それを監督するためにも、すでに従業員は昨年に比べ2倍以上で、この売りあげが会社の全体の8割を占めるまでになっている。数多くの特許に守られたセイザンチェンジャーに匹敵するバッテリー交換設備はいまだ開発されておらず、まだ1年以上は独占状態が続くと言われている。


 SAバッテリーとMMモーターの組み合わせは自動車に限らず、すべてのエンジンを用いる設備でその交換が始まっており、このため、日本の産業界全体で大きな需要が生まれ、人手不足とそれに伴う賃金上昇が顕著になってきた。

 昨年は久々に日本のGDPが2%の上昇を見せ、物価上昇率も1%強になったが、今年のGDPの伸びは7%程度になり、賃金上昇はその率を上回るのではないかという経済企画庁の予想である。

 

 一方で、原油価格は、画期的な核融合発電機の開発と普及、及び自動車の電動化が世界的に大幅に進むこと明らかになってきたことから、急激な価格上昇の傾向を見せていたのが止まりすでに落ち着きを見せている。

 世界的には、核融合発電機はアメリカ、欧州等の先進国では100万kWのものの建設がすでにはじまっているが、実際のところ10万kW機と100万kW機では比べても占有面積的には有利でもコスト的には規模の効果がでないことから、国内で10万kW機のパッケージタイプの大増産を行って積極的に輸出しようと言う動きになっている。

 今年の生産は500基、来年には年間1000基程度の生産量にして、6割程度を輸出に回そうと経産省がかじ取りをしている。また、電動自動車についても、日系の自動車メーカーは海外工場を有効に活用するために、自社工場のある国や地方にはSAバッテリーの充電工場を建設して、生産車の多くを電動車に切り替えつつある。


 現状のところSAバッテリーとMMモーターの生産は先進国に限っており、他は日本からの輸出によっている。無論、現状では他に相当するものがない西山機構のセイザンチェンジャーは、アメリカ工場ではすでに生産を始めているが、他の国には大量の注文に応じて日本からは輸出されることになって、すでに西山機構の生産担当副社長になっている牧村芳人に悲鳴を挙げさせている。


 ちなみに誠司と水谷ゆかりは10月に結婚して、ゆかりは牧村ゆかりとなった。西山市で行われた結婚式は盛大なもので、ゆかりの上司の佐治所長はもちろん、山科教授ほかの大学関係者や友人たちは無論、阿賀首相と佐川防衛大臣まで出席して周囲を驚かせた。彼らは警護のことを考えて、新婚旅行は東北の秋を楽しむ旅に3日行ったのみであり、新居はやはり警備の都合上で四菱重工の構内の2DKのアパートに住んでいる。


 史上初の、ロケットによらずまた30人もの一般人も載せることのできる宇宙船は、その完成が大々的に発表され内外から数百人の報道陣が詰めかけた。

これらの報道陣を前に、広大な四菱重工の構内のヤードに置かれている『きぼう』と『おおぞら』をバックに山科教授、西山大学技術開発研究所長の挨拶があった。

 なお、現在西山大学技術開発研究所は西山市から20km離れた山麓に10km2の広大な宇宙港を造成しており、半年後には第1期工事が完成の予定である。


「皆さん、ご覧の宇宙船がこの度完成した『きぼう』と『おおぞら』です。これらはすでに発表したように重力エンジン駆動でありまして、空気や重力の無い宇宙空間はもちろん、大気中もまた海中でも運動できます。

 核融合発電機及び環境循環設備を積んでいますので、20人程度の乗員であれば1年程度の連続した行動ができます。この最大加速度は10Gですのでこの加速をずっと続けると、光速に達することになりますが、光速付近で実際に何が起きるのかこれもわが研究所の研究課題の一つでもあります。

 これらは、私どもの西山大学技術開発研究所に属し、今後当面は太陽系内の資源探査に従事することになりますが、当然殆どわかっていない金星の表面の様子や、土星や木星の実際の姿を見ることにもなります。また、『きぼう』と『おおぞら』はすでに最低限の試験飛行は済ましておりますが、今日から月と火星への1週間程度の試験航海に出発することにしています」


 その後、『きぼう』はジャーナリストの求めに応じて2時間の内部の公開を行ったのち、2隻とも10人の定員の乗り組み員に加えて各10人の関係者と選ばれた学者によって、試験航海を兼ねて月と火星及び木星を探査することにしている。

 これには、誠司もどうしてもと押し切って科学者枠で乗り込み、ほかの科学者19人には全部で5人の女性科学者も加わっている。ちなみに、ゆかりも行きたがったが、妊娠が判って断念している。


 かっての潜水艦の中は、臭気など居住性は極めて悪かったそうだが、このきぼう型宇宙船の船内では誠司も気合を入れて改善した環境装置が設置しており、酸素も2酸化炭素を分解して回収しており、適度に窒素と混合した空気を合成して調整された水分も含むようにしているので、空気は爽やかである。

 また、使用した水及び空気中から回収された水分は全て循環使用されることになっている(無論トイレで使った水、あるいは人が排出した水分も同様)が、これらは一旦蒸発させて回収しており他成分のガスを完全に排除できるようになっているのでほぼ完全な純水で回収して、適度にミネラルを混ぜて使っている。

 しかし、自分あるいは他人の出したものから取った水分を一旦蒸発させたとはいえ、飲み水にまで使うということに感覚的についていけない者もいるようだ。


 試験飛行は月から始まった。飛び立った時点で月まで100万kmであったが向かい合う形で飛行したので、実際の飛行距離は50万kmであった。月は自転と地球を回る公転時間が一致しているため、常に同じ面を地球に向けている不思議な天体だ。

 地球からは見られない裏側の写真はすでに取られており、表では20-30%を覆っている痘痕がほぼ全面を覆っているだけの違いだ。月の資源としてはヘリウム3が有名であり、核融合に使えるとされ貴重な資源として注目されていたが、皮肉なことに、ただの水素を使った核融合を実現した結果、余り意味の無い資源になってしまっている。

 また、チタンとアルミニウムを高濃度に含む鉱石が見つかっているが、低い濃度で広く広がっていたるのであれば、資源としては使えない。また、月に限らずチタンやアルミと同様に他の資源も同様に地殻の活動や水または生物による濃縮作用で凝縮されていないと鉱物資源としては使えない。

 太陽系の他の惑星は水の存在は望み薄で、生物の存在も殆ど可能性が無いので鉱物資源を見つけることは望み薄と言われている。


 今回の資源探査は、山科教授が中心になって開発した資源探査機を使って行う。これは、宇宙船の専用ハッチから突き出した探査機からレーザー光と電磁波を発してその反射光及び波を分析して鉱物資源を探るもので、高い探査機能を持っている。

 その初の実用のために多忙な山科教授に代わって、『きぼう』には准教授の狭山京子と院生2名、『おおぞら』には助手の桧山悟と院生2名がそれぞれが乗り込んで観測をうけもっている。


 空気のない月面では3万mの上空からの探査で十分であるが、その場合の速度は時速で最大2千km/時で探知範囲は幅5kmである。くまなく探ることは今回は出来ないので、試験的な運用として時速2千kmで『きぼう』と『おおぞら』はそれぞれ5kmの間隔を置いて1周しようと言うことになった。

 月の周長は約1万kmであるので5時間の飛行で、幅10kmで月1周の範囲を探れるわけである。

 月の赤道に沿って5時間に亘る月1周の飛行が実施され、その結果の解析が直ちに行われたが、乗組んだ者たちは太陽に照らされた地上の様子をじっくり見ることができた。

 誠司も、最初こそはこれが月かという物珍しさでじっと地上の様子を眺めていたが、なだらかな平原や、次々に出てくる隕石がぶつかった跡であるクレーターによる険しい崖などそれほど特異な地形もなく1時間もすれば飽きてしまった。


そこで、探査の状況を見守るスタッフの所に行って、探査結果を解説してくれる内容を聞く。

「あ、これはアルミだ。だけど大した濃度ではないね。これは、鉄、でも規模が小さい。………」


 結局、探査の結果はアルミニウム、鉄、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、チタン、ニッケル、クロム、チタンなどがある程度に見つかり、なかでもアルミニウムの存在が最も多く見つかったが、地球上のボーキサイトに比べ含有量が低く、商業的には採取は無理であろうと判断された。

 しかし、マンガン、チタン、コバルト、ニッケルは鉱床がそれなりの規模であり、地球上でも資源量は多くなく開発の可能性はあるということであった。いずれにせよ、資源探査機十分は機能することが確かめられたわけであり、小型のドローン的な探査機を作って計画的に飛ばせば、地表をくまなく探査することも可能である。

 これらの生データは、当面保存されることになった。電送することも出来たが、近い将来探査機の技術はその解析ソフトウェアと共に公開する予定なので、他人にデータを保存されると探査の結果を利用される恐れがあるので基本的には持ち帰ることになる。

こうして、月の資源探査を終えた『きぼう』と『おおぞら』は、直ちに火星に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ