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新世代電気自動車の実用化

父との仕事です。

切りが悪いので今日は短いですが、明日も投稿できるでしょう。

 4月の始め、四つ菱重工構内の一戸建てで、誠司は父と妹洋子との久しぶりの3人で生活していたのもつかの間、今や水谷ゆかりとの甘い同棲生活を楽しんでいた。


洋子はすでに西山大学医学部に合格して入学式を待っている状態であったが、学校が始まるまでの間、久しぶりに勉強に追われない生活を楽しんでいた。当然、誠司はゆかりを恋人として父と妹には紹介していたが、すこし歳の離れた恋人に2人とも少し驚いていたが、お互い子供でもないしということでさほどのリアクションはなかった。


 ある日、誠司は父の出勤と一緒に西山機工の会社に出かけた。会社に着いて、30人位が入れる大きな会議室に通されお茶を出されてしばらく待つうち、作業服に着かえた父を先頭に10人ほどの同じ作業服を来た男女と背広を着た2人の男性が入ってきた。


「皆に紹介します。私の息子の誠司です。西南大学の大学院を卒業して、今は物理学科の助手をしていますが、政府がらみの重要な開発に携わってしています。今日は、わが社の新しい製品の開発のまあヒントをもらうために来てもらいました」

 芳人の紹介に誠司は頭を下げるが、芳人が促すのにしたがって話し始める。


「父芳人の息子の誠司です。今紹介のあった通りですが、父がたいへんお世話になっております。今日は皆さんに参考になる話が出来ればいいがと思っています。よろしくお願いします。

 さて、最近雑誌や新聞に載っている西山大学が開発した新しい高性能バッテリーの話は聞かれていると思います。

 実はこの開発に伴って、国策で一斉に油で走る自動車は全て電動に切り替えられることになります。

 そうなりますと、燃料であるガソリン、軽油の類は使わなくなるので当然ガソリンスタンドは要らなくなるわけです。

 しかし、新しい高性能バッテリー、Super Atomic BatteryということでSAバッテリーと言う呼び名ですが、これは電源から電気を通じて充電するのではなく、工場で充電する必要があります。まあ、充電と言うとやや語弊があって原子構造を変えていわば電気の缶詰にするのです。

 従って、使っているバッテリーの電力が切れれば、交換する必要があります。バッテリー容量は最小のもので100kWhで、この大きさです」


 誠司は、手提げ袋から15cm角ほどのバッテリーの模型を出して見せる。そこで、バッテリーについて知識のある数人から驚きの声が出る。「100kWh!何と小さい」


「これは、この大きさに大容量の電力が詰まっているわけですから、素人が自分で交換するのは事故の可能性が高いわけです。従って、既存のガソリンスタンドはバッテリー交換所になりますので、働いている人々の雇用は守れるということです。また、この100kWhのもので、重さは2kg足らずですが、普通車だと相当燃費の悪い走り方をしても500km程度走れますから、普通はこれの交換になります。

 しかし、大型車には少々足りないので、これが200kWhで、その上はここには持ってきていないのですが500kWhになります。200kWhのバッテリーは、当初はラインに入る予定ではなかったのですが大型車用として作られるようになりました」

 さらに誠司は少し大きいバッテリーを出して示した。


「何で、こういう説明をしているかというと、このバッテリーはすでに工場の建設がはじまっていますし、自動車メーカーは今大車輪でこのバッテリーと新しいタイプのモーターを使って新型車の設計を始め、ラインの改修も始めています。

 おそらく5年から6年で日本にある自動車は全てこの電池を使った自動車になるでしょう。従って、今の給油スタンドは、その間にこのバッテリーの交換の機能を備えたスタンドになる必要があるわけです。

 しかし、いまその交換方法が確立されてないので、そのための装置を開発してもらいたいとお願いしているわけです」誠司が言葉を切る。


「いや、ありがとう。素晴らしい話だ。まさに巨大なマーケットだね」

 白髪の背広を着た人が誠司に歩み寄ってきて手を差し出す。

「西郷三千人、西山機構の社長です。君のお父さんは僕が誘って入ってもらったのだよ。ぜひ、この開発に関しては協力してください」

 誠司は手を握りちゃんと挨拶する。

「父がお世話になっています。今回は、親孝行できるいい機会だと思っています。今後とも父をよろしくお願いします。では、話の本番は今からなので続けさせて頂きます」


 社長が元の席に引っ込んだところで、誠司は続ける。

「しかし、なぜすべての自動車が電気自動車に置き変わるのか?皆さんは不思議に思うでしょう。

 これは、まずはコスト、さらには燃料取得の持続性の問題です。コストの面では、いまガソリンが大体150円/リットルになっていますが、100kwhの電力に相当するガソリンは大体50リットルですから、7500円ですね。

 今のところバッテリーはリースと言うことで、今後バッテリー交換所、これは給油所に変わって呼ばれるようになると思いますが、ここで充電した電池を車に収めて、空になった電池を回収して料金を取ります。

 完全に空になる時点で替えるのは難しいので、バッテリーは2つ設置しており、空になった一つを取り換えるということにする予定です。料金は現状の予定では100kWhの場合で3500円位、200kWhで5000円位を考えているようですので、ガソリンよりだいぶ安くなります。

 その上、この料金は原価が人件費と設備費及び電気料金ですので、電気料金はいずれわかりますがずっと安くなって安定しますので人件費が上がらない限り上がらない予定です。

 すなわち、まず動力費が半分以下になって安定するということですね。それから、このバッテリーは100kWhのもので売価は5万円、200kWhで8万円に設定される予定だそうです。

 

 しかも、モーターについては、これはもう発表がありましたのでご存知だと思いますが、大容量のものが従来の半分くらいの価格でできます。従って、自動車そのものが従来のエンジン車より安く出来るわけです。

 また、持続性と言う点では、いまはまだお話しできませんが、枯渇のあるいは急激な価格の上昇と言うことには無縁になります」

 とんでもない話に皆は半信半疑で聞いているが、誠司は皆を正面から見つめて言い切る。

 

「皆さん。信じにくいかもしれませんが、これは真実です。こうした条件が揃えば、油で走る車はコスト的に圧倒的に負けるわけです。従って、経済原則に従えば、出来るだけ早くエンジンで走る車は電動車に更新すべきですのでそうなるでしょうし、政府も最大限の後押しをするはずです」

 誠司は一旦言葉を切って、さらにバッテリー交換のために実際の必要な開発すべき機器のコンセプト、その備えるべき性能を述べる。


「このバッテリーは、大容量であるだけに電極部は家庭の電気どころではない高電圧、高電流がかかっていますので、家庭で交換などはとんでもないということになっています。それが専門の交換所が求められるゆえんです。交換所で必要な機能は…………」

 誠司は順次必要な機能、1)工場からの受け入れ、2)充電済バッテリー貯蔵、3)取り付け部への移送、4)安全な交換、5)空バッテリーの回収と移送、6)空バッテリーの貯蔵、7)空バッテリーの車両への積み込み、などをプロジェクターを用意してもらって説明した。

 さらに具体的な車のバッテリー収納部の図面、電極接続の図面、移送コンテナのイメージ、貯蔵庫の構造イメージ、移送装置のイメージ等を示した。


 2時間以上に亘る説明で出席者は内容を殆ど理解した模様であるが、自分たちで装置化することを考えて細かい質問が多く出された。

 この説明会の後、社長室に父と共に招かれて、部屋に入るなり、社長が誠司に深々と頭を下げる。

「いやあ、誠司君ありがとうございます。この通りです」

 

「いえ、これも父のためですから。頭を挙げてください」

 それから、3人で応接セットに座っての会話である。


「今日、誠司君から話の中で、非常に貴重な資料、電池収納部と電極接続部の図面まで提供されましたが、良くあんなものが手に入りましたね」

 社長が聞くのに誠司が答える。

「ええ、まあ、僕は関係者ですから。自動車メーカー、バッテリーメーカー、さらにモーターメーカーとは何度も協議をしていますから。それに電池収納部については私のサジェッションで統一することに決まっています」


「それで、実際に新型の電気自動車が売り出されるのは何時になりますか?」

 更なる社長の質問に誠司も答える。

「発表は7月頭にはされる予定ですが、販売開始は今年の9月ですね。

 その時点では充電工場は、まだ10か所足らずなので限定された地域しか売れないのです。また当分既存の電力を使うので原価は少し割高ですが、順次電力費が下がるのでカバーするということで、バッテリー交換費は決められるようです。

 そういうことで、9月までには、この装置はそうですね、せめて500か所分くらいでできていないと困りますね」


「9月で500!」父芳人が悲鳴をあげる。

「そうです。手助けはしますよ。しかし、私も今は無給助手の身分ですからね」

 ニヤリと笑う誠司に父が口をとがらせて言う。


「おまえは、プロジェクトから手当はもらっているだろう?」

「経産省からお手伝いの手当がそんなに多いわけないでしょう?」ヒロトの応酬に社長が笑って言う。


「まあ、誠司君の今日の講演料だけで1000万円でも安いよ。経理に言っておくから講演料として100万円お渡ししますよ」

「ありがとうございます。社長さん、喜んで開発のお手伝いはしますので」

 水谷ゆかりとのデート代が出来たと思って、誠司は満面の笑みで頭を下げる。



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