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日本の試練

日本を取り巻く試練が語られます。

 ある日の首相を含めた国を動かす人々の会議である。

 首相の阿賀清太郎を囲んで、官房長官 佐治良兼、経産大臣 生山清、防衛大臣 佐川良治に副官房長官 村田健吾をメンバーとして非公式の会議が持たれている。

「首相、今日は経産省から、新しい技術開発についてお耳に入れておきたいという話がありましたのと、防衛大臣からこれも技術開発の話と言うことでお時間を取って頂きました。まず経産大臣お願いします」官房長官が切り出して、経産大臣の生山を促す。


「今日は、以前御報告しました核融合発電の件と、それの派生技術だという高効率バッテリーとさらに新しいタイプのモーターについてご報告させていただきます」生山が始める。


「核融合発電機の開発ですが、先般よりご報告したように、技術的確立は済んでおりまして、何人か学会の権威にも確認しましたが間違いないようです。皆さん、あまりに画期的な成果に驚いておられました。 さらに、いま取り掛かっていますのが10万kWのプロトタイプの建設による実証ですが、当省から20億円の新技術開発援助金を適用しまして現在すでに詳細設計は終わりました。

 さらに、機材の発注もほぼ終わり製作にかかっておりまして、あと2カ月位で組み立てにかかる予定です。試運転の予定は当初1年後と言っていましたが、だいぶ早まりまして8月初め頃の予定です」


 生山大臣の説明に防衛大臣の佐川がコメントする。

「実は、その核融合発電機の完成をわが防衛省も持ち望んでいる次第でして、いいですか私の方から話をしても?」

「ちょっと待ってください。その件は私にも耳に入っていますので、まずこっちの重要な話を概略済ましておきます」生山が言う。

「そうですね。まあ、順番です」と官房長官が合意する。


「では説明します。実は現在のものを圧倒的に超える超バッテリーの話が当初からありまして、これは核融合発電の派生的な技術だということなのですよ。

 これはSuper AtomicバッテリーということでSAバッテリーと呼んでいます。要は化学的に充電するのではなくて原子の配列を変えて電子の形で電力を取り出すもので、従来に比べ大容量電池が段違いに小さく安くできます。

 いま標準化しているのは100、500、1000kWですが、100kWのもので5万円位で売れるようですね。

 しかも、少なくとも1000回は充放電できるそうですので、1回の充放電のコストは50円です。その上、これの本体はアルミでできていますので、電力が下がってアルミの値段がさがるとコストはさらに安くなります。ちなみに、今の100kWのバッテリーは車に積めないほどの大きさですよ。


 このSAバッテリーもも西山大学発ですが、西山大学はさらにですね、モーターまで改良してくれたようです。今までコイルを巻いていたのが、その必要がなく一体成型で出来るのです。このために、今までは

国内産では競争力がなかったのが、国内でも十分コスト的に成り立つようですよ。

 コストは半分以下でやはりアルミを多用しているようです。まあ、そういうものがすでに完成しておりまして、いま実用試験をしています。従って、核融発電機により電力の発生を水素で出来るようになる。 さらに、その充電と言うか処理のためにはある程度は電力は使いますが、SAバッテリーと新型モーターによって車のみならず走行するものはすべてこのバッテリーから取り出した電力で動きます。従って、我が国は燃料として化石燃料は要らなくなるのですよ」

 余りに重大な生山の話にしばらく皆は黙る。


 しかし、官房長官が気を取り直して口を開く。「大変いい話で、気持ちが明るくなりますね。では次いで防衛大臣のお話を聞きましょうか。どうぞ、防衛大臣」


 防衛大臣はコホンと咳をしておもむろに話始める。「実は、わが防衛研究所において、電磁砲、レールガンの開発にかかったのはご存知だと思います」

「ええ、予算に認められていましたよね」官房長官が言う。


「実はあの開発は大体実装置化を3年後と見込んでいたのです。それも、性能としては米軍が開発をしたもの程度のものを目指したもので、弾は150mm、射出速度が2km/秒程度のスペックを見込んでいました。

 しかし、外部からの助けがあった結果、設計がすでに終了しており、予算さえあれば2カ月で完成するという所まで来ています。さらに、そのスペックが砲弾は口径100mmですが秒速10kmの射出速度というのです。

 これですと、射程はらくらく100kmを越えますので、我が国のレーダー連動した射撃制御システムと組み合わせると弾道ミサイルでも撃ち落とせます」


「なに!そんな技術的ジャンプはあり得ないだろう。ちょっと信じられん。なんですか、その外部からの助けとは?」官房副長官の村田が言う。かれは防衛技術には詳しいのだ。


「ええ、なんでも核融合発電の技術的な中心になっている大学院生の牧村というものが、基本コンセプトを示したらしいのです」

「なに、牧村!それだったら信じられる」と佐川の言葉に村田は声を出して笑って、「いやこれは失礼、これは説明が必要ですな」そう言ってかれは、そもそも彼が核融合発電の件のつなぎをしたそのいきさつを説明し、そのあとにさらに佐川が続ける。


「まあ、そういうことで、防衛省もその能力のレールガンが出来るということで、いろいろ作戦を考えている訳ですが、みなさんもご存知の朝鮮半島と中国を取り巻く問題において、この弾道ミサイルを撃ち落とせるレールガンがあると無いでは話が全く変わってきます。とりわけ、すでに核を積んだ弾道ミサイルを北朝鮮が開発済とみられること、及び韓国情勢を見るとですね」


 一昨年暮れの韓国においては、大統領のスキャンダルによって、国会で弾劾が成立し、その後3カ月後には異例の速さで最高裁判所もその弾劾を認めた結果、前大統領は収監されて様々な告発に対して裁判を戦っている最中である。

 その後行われた大統領選挙によって、予想通り左派の大統領が誕生して、かれは慰安婦に係る日韓合意の無効を宣言し、ソウルと釜山の慰安婦像の撤去は断固拒否する、加えて日米との軍事情報協定も破棄するとの宣言も行った。


 しかし、THAAD問題ではこれを拒否すると米軍が撤退するのは明らかであるためこの拒否は当初打ち出せなかった。日本はこの宣言に対し当然再協議を認めず、この合意に伴ってアメリカに押し付けられた通貨スワップに関しても拒否の姿勢であった。

 韓国側の通貨当局は、外貨準備高が、3,700億ドルあって心配ないと対外的に公言していたが、これには短期借款も含まれており、なおかつサブプライム関係の殆ど価値の無い債権もかなりの割合で含まれている。結局実際に使える金は少ないということは、彼ら自身もわかっており、だからこそ日本にスワップを求めたのだが、北朝鮮と中国の息のかかったプロ市民グループによる釜山の慰安婦像の設置により、日本にはっきりスワップ協議そのものを拒絶されてしまった。


 しかも、愚かなマスコミに踊らされた国民が日本に対して激高している状態では、責任逃れが本質の韓国公務員にとって、慰安婦像の撤去などの手段も取りようがなかった。

 しかも、日本が断ったことがきっかけで、もともと薄かったその国際的な信用がますます下がり、一旦は10ケ国ほどとスワップを結んでいたものがすべて更新を断わられる状態になった。

 一方で、GDPに対して輸出入が50%以上を占める貿易高がどんどん下がっていき、中国からはTHAAD問題で締め付けられる苦しい経済情勢にあった。

 そこにアメリカの利上げによる通貨のアメリカへの還流、毎年の年中行事である春の海外からの投資に対する配当の形の大量の外貨の支出が重なり、遂に左派大統領が選出された直後に、耐えられずデフォルト寸前になってしまった。

 しかし、IMFに助けを求めることに対しては過去その支配下に入りその厳しい管理と結局民族資本が駆逐されたことから韓国には強いトラウマがあり、結局IMF行きは選ばず、結局THAADを含めて中国の言い分をすべて飲む形で中国の融資によりデフォルトは逃れた。さすがに最悪の時に最悪の選択をする韓国人の面目躍如たるものがある。IMFはさすがに物理的に属国化は求めないが、中国はそうではない。


 正にその通りの結果になり、中国は甘い相手ではなく、見返りに技術、軍備すべてを剥ぎ取られる形で取りあげられつつあるのが現状である。韓国人は中国人に対して、古くからの支配者として恐れる気持ちと一方で経済面や文化の面において、自らより劣る存在と見ており馬鹿にするところがある。しかし、これで明らかに中国の下につくことが決定されたわけであり、そのことは彼らマスコミと国民のプライドにいたく触った。

 韓国人の常として自らを反省することはなく、他に責任を求め、悪者にすることで自らを攻めることから逃れるが、この場合いつものように、結局矛先が向いたのは日本であり、韓国民からするとすべてが日本の責任だということになった。

 この時点では、アメリカも韓国を見放しており、すでに在韓米軍は撤退していた。おかげで日本に対韓国で妥協を迫ることも無くなったので、日本側も無視を貫いている。そのためもあって、大使館や領事館に対する定例のデモはどんどん激しさを増して、さらには日本人観光客への暴言、暴力が多数生じるに及び、とうとう渡航自粛勧告が出され観光客が離れるのは無論、企業は順次脱出している。この際に例によって、解雇された元従業員がそれなりの補償を貰ったにもかかわらず、日本に乗り込んで抗議行動をしたが、かってと違い日本人に韓国人の身勝手なメンタリティは知れ渡っているためマスコミも殆ど動けなかった。

 こうして、在韓日本人が減り、観光客もよほどの物好き以外はいなくなり必要もなくなったことからソウル大使館を除き領事館はすべて閉鎖され、合わせて韓国人のノービザは停止された。

 

 このなかで、北朝鮮が弾道ミサイルを完成したと宣言したが、巧妙なことに、これはアメリカには届かないと合わせて発表し、この技術的根拠も示したため、ビジネルマン上がりの大統領になって内向きになったアメリカは北朝鮮に関心を失ってしまった。

 しかし、このミサイルは当然日本には届くわけであり、韓国側が憎き対日本と言う意味で関心を持ち始めて、左向きの大統領と議会ということもあって、軍事的に一体化しよう動いているという情報が入っている。さらに、アメリカは対中国に関しても軍事的な歯止めになるつもりがないことを匂わせており、日米安保も解消を考えていることは公言し始めている。


 そう言うことからも、当然安全保障上の問題は日本にとって頭の痛いところではあって、現在日本は非常に高いリスクを抱えているということは確かである。


「そう、そのようなレールガンが作れるのならそれは欲しいよ。それで何とかなりそうなのかね?」

 阿賀首相が真剣な顔で言うが、こういう背景があれば当然のことだ。

「ええ、それが、発電機にかかっているのです。今のところ今言った初速を出すのに8万kWの電力が必要です。むろんこれは電力グリットからでもいいのですが、まことに脆弱な電力網に頼るような兵器では話になりません。

 それが、さっき話の出た10万kWの発電機でしかも、まことにコンパクトらしいじゃないですか。それでしたら、護衛艦に載せられますからね。出来たら全国に3基、欲を言えば5基これがあれば、中国のミサイルにも対抗できます。さらに一編成の護衛艦4基に載せたいですね。

 それと、それだけではなのですよ。電磁カタパルト、これもできます。

 これの設計も済んでいるのですよ。これを載せれば、現在の「いずも」は正に空母として使えます。しかし、これも10万KWの電力を食うのですよ」

 皆が生山を見つめるので、彼は笑う。


「私を見たって、どうにもなりませんよ。いまでも予定を前倒しにしているでしょう?これ以上という無理は言えませんよ。しかし、こういうことは言えるのじゃないですか。今のプロトタイプが出来て、その成功を見てその後発電機を作り始めると、プロトタイプのものが実用に耐えるとしても当面使えるのは一台のみです。

 ですから、例えば10台分の構成機器を一斉に発注しておけば安くもなるだろうし、プロトタイプの完成後そう時間がかからず、一斉に完成するでしょう。それと考えるべきは、完成後時をおかずに日本の発電システムをこの方式に変える必要があるでしょう?」


 そう、それはそうだ。例の近く石油の生産量は需要に追い付かなくなるというレポートの発表以来、石油の値上がりは顕著なものになっている。原発があまり動いていない今、我が国のとっては泣きっ面に蜂という所だ。


「まあ、そうだよね。当然そうでないとその移行期が問題になるからな。場合によって余計に原油の値段を吊り上がられたりしてね」村田が賛同する。


「実は、電力会社向けの実用機として100万kWの装置の標準設計を続いてやっているのですよ。だから、今から人を集めて訓練しておいて、プロトタイプの成功が確認されたら一斉に建設にかかるのですよ。当然こうなると、秘密は保てませんけれどあれの本当の秘密は励起装置と電磁銃そのものとそれらの制御に仕方のソフトに本当のノウハウがあるのです。ですから、それらの秘密を厳重に守ればしばらくは外国では作れないでしょう」


 生山の言葉に首相が大きく頷く。

「そうですね、生山さんの言うことに賛成です。まず、小型と言っても10万kW7級ですか、防衛省で求める数の必要な発注をかけてください。これは、防衛費から出しておいてください。必要に応じて補正予算を組みますからそのレールガンそのもの、またカタパルトについても進めてください。よろしいですか。防衛大臣?」佐川防衛大臣はにこにこして答える。

 

「わかりました。無論、発電機については経産省さんの協力が必要ですが」

 首相はさらに言う。

「その大型発電機に関して、生山さんはその方向で動いてください。必要に応じて私の意向ということで他の省も協力も仰いてください。官房長官及び副官房長官、そのあたりの調整はお二人で入ってやってください。

 この件に関して、まだプロトタイプの試運転をやっていませんので、100%うまく行くとは限りませんが、我が国はこれに賭ける以外の道はいずれも狭く険しいものです。

 私はうまく行くことに賭けると腹をくくります。皆さんも腹をくくってください」

 首相の強い眼光を見返して皆は力強く頷く。


「加えて、その牧村君ですか。かれが、一連の動きのキーマンのようですが、本人並びに近親者のセキュリティは大丈夫ですか?万が一誘拐などされると大変なことになりますが」さらに続けた首相の言葉に官房長官が答える。


「はい、実は妹さんが一度誘拐されたこともあって、本人と妹さんはすでにカードしやすい四菱の社宅に入ってもらっていますし、すでに内閣調査室から現地に警備チームを送り込んでいます。

 また、母親はすでに病気で亡くなっており、父親がアメリカに長期出張をしていたので、現地大使館を通じてガードをつけています。ただ、現地での仕事も大体けりがついたようですから、会社を通じて早急に帰ってもらいます」

「わかりました。よろしくお願い致します。期待していますからね」

 首相の言葉を最後に協議は終わった。


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