断罪現場の姫探偵
今回は推理モノに挑戦しました!
僕っ娘姫さまが名探偵として活躍すする話です。
「ウェンディ、いやテトラ侯爵令嬢!お前の所業にはもう我慢ならん!お前との婚約は破棄する!」
とても目立つ集団が、とても目立つ人物の元に集まったかと思うといきなり大声を上げて婚約破棄を宣言しだした。
今僕の目の前で起きている出来事をそのまま語ってみたらそういう事だ。
人前でやる事じゃないとか、婦女子を複数の男性が取り囲んで威圧するのは男らしくないとか、そんな事は一先ず置いておくとしてもこの場にそぐわない事だけははっきりしている。
何せこの場にいる周りの人たちは皆唖然とした表情でその集団を見ているんだから。
なお、僕は唐突に始まった演劇を興味津々、もしかしたら出番がやってくるかもとウキウキしながら見ていたりする。
「お前がやってきた悪行の数々は既に判明している。俺の愛するマリアをよくもやってくれたな。罪を償ってもらうぞ、テトラ侯爵令嬢!」
「王子殿下、それはどのような事でしょうか?」
「ふっ、認めぬつもりか。ならば皆にも聞かせてやろうお前が如何に王妃として相応しくないかを!」
「・・・身に覚えがありませんわ」
「何だと!?お前はここまで言っても認めないのか!」
「そうだそうだ!」
「ふん、殿下に愛想をつかされるはずだ」
「このような女が侯爵家とはな」
「そういわれましても、証拠はあるのですか?」
「ふっ、証拠か。それはこれだ!この投影魔法具に映った映像こそが決定的な証拠!」
「・・・それはあの時の。でも、私はその時に彼女を押してはいませんわ」
「まだ白を切るのか!ええい、もう我慢ならん!お前なぞ、死刑だ!だれか、こいつを牢に放り込め!」
どうやら僕の出番がやってきたようですね。
ふふ、これはやっぱり楽しい時間だったようです。
「ちょっとまったー!」
「「「「「誰だ!?」」」」」
「僕です」
「ユースティア!?」
「「「「姫殿下!?」」」」
いきなり始まったどろどろ恋愛小説ばりの展開でしたが、僕が大好きなジャンルに突入したようですので舞台に上がりましょう。
この国の王子を筆頭に上位貴族の子息たちと貴族令嬢二人がここまで独占していましたが、ここからは僕の時間ですよ。
さあ、始めましょうか、僕の華麗な推理小説を!
「まずは状況確認からしていきましょうか」
「おい、ユースティア。今はお前の遊びに付き合っている場合では」
「遊んでいるのは兄上でしょう。ですから僕にも参加させなさい」
「なんだと!?いくら妹とはいえ俺を侮辱するのは許さんぞ!」
「はいはい、今は黙っていてくださいね、兄上」
兄であるヤング第一王子が何故かいきなり婚約者であるウェンディ嬢に婚約破棄を言い出しましたから恋愛小説みたいなだぁ、とニコニコ見ていたのですがどうも冤罪を吹っ掛けようとしだしましたから介入することにしました。
しかもですね、今は私たちが通っている全寮制の貴族院で行われている冬の舞踏会、皆が楽しみにしていたイベント中にやっているのですからこれ以上は流石に黙ってみてられません。
ニコニコしていただろ、というツッコミはしないでくださいね、僕はボケ担当じゃなくて姫にして探偵ですから。
こんな上位から下位までの貴族の子息令息が集まる会場で晒し者にしようとした僕の兄とその仲間たちである上位貴族の子息な面々。
将来の兄の側近候補な方たちですからもうちょっと醜聞というものを理解してほしかったのですが、やってしまったことは今更取り返しがつきません。
ですのでここは被害者であるウェンディ嬢だけでもお助けしようと僕が登場した訳です。
もうどうせどう転んでも婚約破棄は決定的でしょうから、せめて彼女の名誉だけは守りませんとこの国がダメになりますからね。
この国一番の領土を持つ侯爵の令嬢で、将来は優秀な王妃になると言われていた人です。
この方がもし死刑、そうでなくても何かしらの罪を被せられたとしれたら侯爵が激怒して内戦勃発必死ですし、他国から戦争を吹っ掛けられると予想できます。
なのでウェンディ嬢の無実を証明し、後日侯爵には直接お詫びに伺って大好きな甘いお菓子でも差し上げないと。
そういう事でして僕はここから姫なのに名探偵な実力を発揮する必要があるのです。
「現在、兄上はウェンディ様に婚約を無かったことにしたいとおっしゃられているのですよね?」
「そうだ。それもウェンディが」
「あ、個人的な感情は後でお聞きします。ウェンディ様はこの話をお受けしますか?」
「おい!」
「私自身はお受けしてもよいですが、これは王家と侯爵家で決めた事ですから私の一存では決めかねます」
「俺がそうすると言っているのだから」
「まだ立太子ではありませんから兄上は王家の意向に物申せても実行権はありませんよ。もちろん私にも」
「ぐっ」
「ですので婚約破棄の件は父上とテトラ侯爵家へ正式に打診しましょう。先触を出してください」
「畏まりました」
「おい、ユースティア。お前がなぜ仕切る?」
「感情的になった当事者では冷静な判断ができませんもの。ですから僕が王族の一員として取り仕切ります」
「ぐっ、まあ、破棄できるのならどっちでもいい」
「次にウェンディ様がそちらのマリア嬢への嫌がらせを含めた罪状の件です」
「そうだ。それだけは確実に」
「ですから兄上は黙っていてください。ウェンディ様とマリア嬢はこちらにお越しください」
「おい!」
兄上が本当に邪魔なのですが、一応王子という立場にいますので拘束等できませんからね、私たちが少し移動しましょう。
ウェンディ様は素直に移動してくれたのですが、マリア嬢が周りの取り巻きの方に縋り付いて移動してくれません。
私は王族なのですが、このままですと不敬罪になりますよ?
「ハリソン男爵令嬢、こちらにいらしてください。第一王女としての命です」
「な、なぜ私が」
「そうだ!いくら姫殿下とはいえそんな命令を」
「兄上と同じで私には王家の血が流れているのですが、よろしいのですか?」
「マリアをそんな晒し者のような」
お前が言うな、とここにいるあなたたち以外の皆が思っているはずですよ。
法務大臣の子息とは思えない言葉ですね。
「そうですね。ここは法の専門家であるクルト様にも参加していただきましょう。それならかまいませんよね、兄上?」
「う、うむ。だが俺も」
「兄上はそちらでお待ちください」
「くっ、任せたぞクルト」
「はい、殿下。さあ、マリア。私が一緒だから」
「あ、ありがとうございます、クルト様」
ですから婚約者がいる立場なのにそんなに体を寄せ合っては、というツッコミはもういいですね。
「では、そろいましたので。被害を訴えているのはマリア嬢、あなたで間違いありませんか?」
「訴えるなんて、私は。ただ、怖かっただけなんですユースティア様、もうやめて頂きたいと思って」
「あなたに名を呼ばせる許可を与えた覚えはありませんが、まあ、今は良いでしょう。じゃあ、ウェンディ様には罪はありませんね」
「なぜですか!マリアはやめてほしいと言っているではありませんか。それほどの事をしたのですから」
「お願いをしただけでしょう?だったら罰を与えられません。それとも国法で罪に問われる内容なのですか?」
「い、いえ、別にテトラ侯爵令嬢は国法を犯していません」
「な、なんだと!?ど、どういうことだ、クルト?」
「そ、そうですよ、クルト様。私は傷つけられたのですが」
「そ、それは」
「兄上は勉強が足りませんね」
「なんだと!」
「国法、というよりも貴族法なのですけどね。貴族法では貴族位が下位の者から上位の者へ罪を問いたい場合は正式に届け出なくてはなりません」
「今しているではないか!」
「でもマリア嬢はお願いしただけですよ?それを受けるか受けないかはウェンディ様次第です。ウェンディ様はお受けしますか?」
「私はやっていません。テトラ侯爵家の者として嘘は申せません」
「まだ、言うか、お前は!」
「そうだ、そうだ!」
「恥知らずめ!」
「それで、クルト様。ウェンディ様に罪はありますか?」
「・・・ありません」
「クルト様!?な、なぜ私を」
「クルト様を責めては可愛そうですよ、マリア嬢。この方は法の番人である法務大臣の嫡子として国法に従ったまでです」
「で、でも!」
「マリア、君が訴えると言えば」
「そ、それは・・・そこまでしたらウェンディさんが可愛そうですから」
「ではこれで終了ですね。ウェンディ様、お疲れさまでした」
法上問えないのであればウェンディ様を拘束する必要ありませんからね、これでこの話は終わりです。
でも、この方たちは納得しないのでしょうね。
「ま、まってよ!それじゃあマリアが可愛そうじゃないか!」
「可愛そうですか。それだけで罪に問われる事はありませんよ?あなたは可愛そうだからということで貴族が死刑になるというのですか、コパン様?」
「そ、そんな事は言ってません!ただ謝罪を」
「ウェンディ様はやっていないと言っているのですよ?それなのに謝罪しろというのですか、コパン様。伯爵家ではそうなのですか?」
「ウェンディが嘘を言っているだけだ!」
「コパン様、その発言はテトラ侯爵家に対するものと取ってよろしいね?」
「ち、違う!僕は君に!なぜそうなるんだよ!」
「あなたも勉強不足ですか、コパン様。ウェンディ様はテトラ侯爵家の者として、と言ったのすよ。もうすでに個人の問題ではなく家の問題です」
「え、あ」
「ですから伯爵家が侯爵家に物申した、と言う事ですので。ウェンディ様、どうされます?」
「もちろん正式に抗議いたしますわ、ユースティア様。それに私、彼に呼び捨てされる仲ではありませんもの」
「あ、ああ」
「では、それも私が間に入りましょう。伯爵家からの暴言と令嬢への暴言に対してでよろしいですか、ウェンディ様?」
「お手を煩わせて申し訳ありません」
「よろしいですよ。手配してくださる?」
「畏まりました」
これでコパン様だけじゃなく伯爵家もピンチですがあの家は色々後ろ暗いところがありますから問題ないですね。
さて、次は誰でしょう?
「情けないな、コパン」
「公爵家も何か物申したい事があるのですか、オーロ様?」
「いや、公爵家として侯爵家にじゃない。私はウェンディ嬢がやった事をこの場で審議したいだけだ。従兄がこの場で発言は不敬にあたるか?」
「不敬にはなりませんよ、従兄様。でも、ウェンディ様本人は否定してますよ」
「それは彼女がそう言っただけだろう?」
「それを言いましたらマリア嬢も同じでは?」
「ひ、酷い。私が嘘を言っていると言いたいのですか?」
「それ、ウェンディ様も同じ立場ですが」
「マリア、ここは私に任せろ。ちゃんと証拠があるんだから」
「はい、オーロ様」
「ああ、そうだな。オーロ頼むぞ」
「もしかして証拠とはあの魔法具の映像を言っているのですか?」
「ああ、もちろん」
「あれでは証拠になりませんよ」
「なにっ!?いや、ちゃんと映っているじゃないか。いくらユースティアでも」
「確かに映ってますけど、そもそもこの映像はどうやって記録したのですか?この貴族院には設置されていないはずですが」
「「「「「「「あ」」」」」」」
「くっ。だ、だが映像は」
「まあ、オーロ様お抱えの魔導士でしたら遠隔からでも可能でしょうね」
「そ、そうだ。公爵家の魔導士は優秀だからな」
「事前に許可がなくこの院内を魔法で覗くのは犯罪行為です。ですよね、クルト様」
「そ、その通りです」
「その場合、証拠としての効力は認められていません。ですからこの映像では証拠になりえないのですよ」
「くっ、くそ」
「それはそれとして立派な犯罪ですから国法に従って頂きますからね、いくら公爵家であるオーロ様でも。法務省に手配を」
「畏まりました」
あまりのインパクトでしたから誰も気付いていなかったようですが、盗撮は犯罪です。
これでマリア嬢の取り巻きだった方たちは終わりでしょうが、あとは。
「ええい、役立たずどもめ!やはり俺がやるしかないか。マリア、やはり俺しかいないようだ」
「ヤング様、私」
「任せておけ。これが終わったら正式に俺との婚約を結ぼう、マリア。君のような女性が王妃に相応しい」
「そ、そんな私なんて」
「いや、そんな事は」
「あ、兄上。やめた方がいいですよ、本人の言う通り」
「なんだと?いくらユースティアでもマリアを侮辱するなら」
「マリア嬢は婚約をお受けするのですか?」
「わ、私は」
「受けませんよね、もちろん。それどころか今は逃亡を考えるだけで精一杯では?」
「何を言っているんだ、ユースティア?」
「取り敢えずその件はおいておきまして、ウェンディ様。あの映像の場面についてお聞きしたいのですが」
「何をお聞きになりたいのですか?」
「あれはどういう状況で、どうしてああなったかなど詳細をお聞きしたいのですよ」
「マリア嬢が足を踏み外しましたから助けようと手を伸ばした所ですわ」
「嘘を付け!あれはお前が押したのだろう!マリアが証言したのだぞ!」
「マリア嬢、あなたはウェンディ様に押されて階段を転げ落ちたのですか?」
「そ、その」
「マ、マリア?」
「まあ、どちらかが嘘を言っているのは間違いないのでしょうが、映像がありますから見てみましょう。手配を」
「畏まりました。オーロ様、失礼いたします」
「なぜ私が協力を」
「ここで協力しなければもっと酷くなりますよ、オーロ様。それにちゃんと証明に使った方がいいですよ」
「くっ、解った」
さて、僕が映像に証拠能力がないといったのは、国法で定められたことだけではなく、映っている映像に問題があるのです。
もう一度再生された映像ですが、やはり嘘を言っていますね。
「ほら見ろ!やっぱりウェンディが押しているじゃないか!」
「あ、もう一度流してください。はい、そこで止めてください」
そして止まった映像には階段を落ちようとしているマリア嬢の後ろ姿と、驚いた表情で口元に手を当てたウェンディ様が映っています。
「「「「「「「あ」」」」」」」
「はい、おかしいですよね。ウェンディ様が押したのであれば手を伸ばした状態になっているはずです」
「ちょっと進めてください。ありがとう。そして押したように見えますが、状況的に助けようと手を伸ばした映像になりました。本当に優秀な魔導士ですね、ここまで記録できるのですから」
「な、な、なんだと!?」
「さて、兄上。これでもウェンディ様が嘘をついているとでも?」
「マリアは押されたと言ったのだぞ!だから」
「言っただけですよね?それを映像が否定してますが?」
「この映像事態が間違っているのだ!」
「では兄上たちはウェンディ様を陥れるために偽の映像を用意したと、そういう事ですか?立派な犯罪ですよ、これ」
「なっ!?」
「偽証罪となりますね。オーロ様、どうですか?」
「わ、私はやってない!私はマリアから、あの場にウェンディから呼びだされたと聞いて映像を記録する事にしただけで」
「そうですか。ウェンディ様が呼び出したのですか?」
「私はマリア嬢に呼びだされましたわ、殿下の事で話があると」
「なるほど。マリア嬢、どういう事でしょう?」
「わ、私は」
「今真実を話さないともっと罪が重くなりますが?」
「わ、私は悪くない!」
「どういう事でしょう?」
「だって私はみんなと仲良くしようとしただけで、それをウェンディが邪魔してくるから!」
「邪魔だから排除しようとしたと。それは凄いことを」
「みんな私を愛してるって!でも、みんな婚約者がいるからって、だから婚約者なんていなければ!」
「そう言って皆を誘導したのですか。しかし、まあ、そのあたりはもうどうでもよいですね。彼女を連れて行きなさい」
「畏まりました」
「は、放してよ!私は悪くないんだから!オーロ様、助けて!」
「わ、私は悪くないぞ!マリアが私を」
「コパン様助け」
「ま、巻き込まれただけだよ!これ以上巻き込まないで!」
「そ、そんな!クルト様!」
「すまないが私はもうどうにもできない」
「役立たず!ヤング様、お願い!やっぱり私が愛しているのはあなただけなの!」
「ええい、近寄るな!」
「な、なぜ」
「お前は俺を愛していると言いながら、こいつらにも愛を振りまいていたのか!この痴れ者め!」
「何よ、何なのよ!言い寄ってきたのはそっちなのに!婚約者がいるのにどっちが痴れ者よ!」
「この!」
「兄上、そこまでですよ。正直どっちもどっちですから」
「くっ」
こうしてこの国にとって大事な人物であるウェンディ様の容疑は晴れ、真なる犯人は逮捕されました。
この後は国が処理する事なので僕の役目はここまでです。
この後兄上やその取り巻きだった上位貴族の三人がどうなるとか、マリア嬢がどうなるかは僕がどうこうする問題ではありませんので。
ただ、ウェンディ嬢だけは僕の側にいてもらいたいほど優秀な人材ですから手を尽くしますけどね。
父上や侯爵家当主様に早速連絡を取らなくてはいけません。
「お疲れさまでした、姫様」
「ありがとう」
「姫様の探偵好きも役立ちましたし、侍女としてうれしく思います」
「うふふ、本当にありがとう。あなたに紹介された書物がこうなったのだから分からないものだわ」
「ところで自身を僕と呼ぶのはお辞めください。そこまで真似されても困ります」
僕が進められた小説の主人公は探偵で一人称が僕。
その主人公に憧れた僕は姫なのに一人称を僕としているのです。
そして探偵な僕の出番が終わったので、そろそろ退場する時間ですね。
いつまでも現場に残っていては次の事件に立ち会えませんから。
そう、私は事件あるところに現れる姫なのに名探偵ですから!
「それよりも、中等部の会場にお戻りください。ここは高等部の会場ですよ、姫様。抜け出した事、しっかり陛下に報告させて頂きますので」
「それは嫌ぁあああああああああ」
「嫌も何もこれだけの事に首を突っ込んだのですからどうせバレますよ」
「あ」
「詰めが甘いと名探偵じゃなく迷探偵ですよ、姫様」
「嫌ぁあああああああああああ」
「それと今回ですと、探偵というより弁護士ですよ、姫様」
「ぼ、僕は姫なのに名探偵なんですぅうう!」
「あと、これが推理小説だとしたら間違いなくクレームものです」
「ぎゃふん!」
め、名探偵への道は険しいと気が付いた13歳の夜でした。
お読みくださってありがとうございました。
推理モノじゃないよね、これだと!
それと異世界ファンタジーである必要もなかった!
最初は真っ当な推理モノを考えていたのですが、連載中のネタも考えてましたので浸食されました。
後悔してますが、反省はしていません!
こんなので本当にすみません(