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「さっさと行けよ」



壮に追いつき、俺は自転車の後輪を軽く蹴った。



「うっせー」



相変わらずのニヤけ顔で壮はスマホをカバンにしまう。




「おまえ、まさかさっきの女と……」



スマホの画面に写っていた保母を思い出す。



あんな、普通の可愛い女、絶対に壮の趣味ではない。



「うっせーな。手なんか出してねぇよ」



真顔で弟は言い捨てて自転車をこぎだした。



後ろ姿を見送りながら、胸の奥がざわつき始める。



未来の手触りを先取りで知ってしまったような、不本意な予感。


俺は心の準備をするように登校しながら弟の過去を思い出す。






弟の初恋は、駄菓子屋の奥にいつも居た市松人形に似た病弱なお姉さんだった。




壮は毎日通い、お姉さんの具合の良い日は奥へ入れてもらって、なにやらヒソヒソと小さな声で話し込んでいた。



一度だけこっそりと店番の婆さんが電話の対応をしている時に、戸の隙間から中の様子を盗み見たことがある。



弟がお姉さんの青い頬をつねっていた。



色褪せたネグリジェから伸びた骨ばった両足に、壮はまたがって、上半身をお姉さんに預けていた。



「ほっぺが赤いと元気にみえるから」



弟はそんなことを夢うつつに呟いていた。


その表情は、苦し気で、でも、気持ち良さそうでもあった。


思い出すだけでも吐き気がするのだが、記憶写真は今でも、死んだらしい後でも、しっかりと俺の脳みそに焼きついている。



お姉さんが壮をどう思っていたのか知らない。

駄菓子屋の婆さんが死んだ後、店をたたんで、忽然と姿を消した。




壮は閉めきった駄菓子屋の前で、ただニヤニヤとしていた。





そんな、妙に変態じみた弟の様子は俺の思い出の核になってしまう。


自分自身の思い出なんて、何のへんてつもない誰もが経験したことがある事ばかりなのだ。



具体的に説明すると、弟の友達は皆、元いじめられっ子ばかりだ。



むごい目に合っている所を弟は率先して助けに行って、いじめられなくなると途端に素っ気なくなるが、元いじめられっ子達は気にならないようで、今でも友達でいてくれている。




弟の次の好きな子は少女のような少年で、同じそろばん教室に通っていた。


女じゃなかったことにニヤついた弟は、オモチャの引っ込むナイフを執拗に少年の背中へ突き刺して、計算の邪魔をしていたのを俺は見ていた。



このように、俺の弟は、大変に俺の個性を埋没させる存在なのだ。





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