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壮とつばめ

壮は口の中いっぱいにオニギリをほおばり、先に家を出た。



壮の中学は俺の高校より遠い。




飲み物が出てなかったのでキッチンへコーヒーを淹れに行く。



コーヒーメーカーなんてのはないので、インスタントのコーヒーの粉をマグカップに入れポットのお湯を注ぐ。




一口飲んだら、やっと落ち着いた。




母さんがテレビをつけて朝の情報番組を観るともなしに眺めていた。




「父さんは?」



思い出したように訊いてみる。




「夜勤」




テレビを向いたまま母さんがこたえる。




「俺、死んだけど」




「え?」




キッチンから眺めたリビングは、朝日を浴びたホコリがダイヤモンドダストのように輝いて、三人分の朝食の残骸とこちらを振り返った母さんに降り注いでいた。




「──今日、遅くなるかも」




「……はいはい」





母さんは壮が残したサラダのレタスを指でつまみ、むしゃりと食べた。






家を出ると、壮がまだ先の交差点で自転車にまたがったままスマホを操作している。



ニヤニヤとして、明らかにまだ掛上を引きずっているようだった。




弟は、落ち込めば落ち込むほどニヤニヤする癖があった。




本当に嬉しい時や照れた時は、泣きそうに顔を歪める。



変な癖だが、俺だけが知っている壮の本当の姿だ。





春休み後半の壮はニヤニヤする余裕もないほど脱け殻状態だった。




壮の友人も心配して、頻繁に遊びに来ていた。



それとなく探りを入れたら、こっそり付き合っていた彼女と別れたらしい、と教えてくれた。




彼女とは掛上つばめのことだとすぐに分かった。





──去年の文化祭の買い出しを、俺と掛上つばめとが任された。



出先の店で壮とばったり会ったのだ。


俺は気安く買い物の手伝いを壮に要求し、弟もまた、暇だったのか渋々ながらも受け入れた。




広いホームセンター、二時間弱の買い物で、壮は掛上つばめに興味を持ったことに俺は勘づく。



彼は良く言えば好奇心旺盛、悪く言えば変わった物好き。



掛上つばめは、良く言えばノリがいい、悪く言えばお調子者だった。




きっと、俺が見ていない所で連絡先を交換したのだろう。




そんな二人が恋人になるのは自然な流れなのかもしれなかった。




壮は掛上つばめとの出逢いから、少しずつ変わっていった。



ガキ臭かった言動が落ち着いて、考え込むことが増え、きっと掛上と何かあったのだろう事は何となく分かったが、いちいち訊くことでもないだろうと放っておいた。






両親も壮の変化にもちろん気づいて、しかし、口答えが減り、素直になったことに内心喜んでいる様子だった。




学校で見る掛上つばめはいつも通りだった。



壮も学校ではそんなものなのかもしれない。



家の中まで外面はしんどいだろう。



もちろん、掛上に対して俺は同級生としての対応を続けた。




掛上の噂は気にしない。



壮が泣き出しそうな顔をしている内は───






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