死の理由
いつでも死んでいい。
その許しは、味わったことのない感情を俺の心に広げた。
人間は産まれたら死ぬけれど、そう決まっているけれど、いつでも死んでいい訳じゃない。
「理由がないと死にたくない」
「へ?」
俺の呟きに、転生が口をポカンと開いた。
「俺は誰かに殺された。そうなんだろ?」
「はい」
輪廻が間髪いれずに答えた。
「それにだって理由があって殺されたんだ。もう一回、死ぬんなら理由もなく死ぬのはごめんだ」
「それは、他人の理由?自分の理由?」
輪廻の無感情な声が暗に、他殺か自殺、どっちで死にたいか訊いてくる。
「輪廻!」
転生も察したのか立ち上がって怒鳴る。
「岸辺はん、輪廻が失礼しました。理由がいるなら考えてもらってけっこうです。確かに、ただ死にたなったいうて死ぬんはあんまり聞きませんな。でも、一応タイムリミットがありまして、この世を騙せるのも限界がありますのんや。岸辺はんがこの世に留まり続けますと、岸辺はんの時間だけ周りとずれてきます。これは避けようがありまへん」
「ずれる?」
「ずれます。すこぉしずつ、ゆっくり。この世の時間は遅いでっから。けんど、確実に岸辺はんはこの世の誰からも認知されんようになってしまいます」
「幽霊になるのか?」
「ゆーれい?」
転生が首をかしげる。
「ふふっ」
可憐に頬をほころばせ、輪廻が笑う。
「幽霊は存在しません。人間の意識が自然エネルギーに憑依したら見たいものが見えます」
「へえ、つまりは人間がプロジェクターで自然がスクリーンてことか?」
「そうなんか?輪廻」
転生が俺の解説に感心したように輪廻へ訊き返す。
「ざっくりすぎますけど、間違ってはないですね。人間はいつも私達の予想を超えます。岸辺さん、あなたもそうです。死んでもこの世を欺いている理由、教えてください」
「え………」
そんなこと言われても、分からない、知らない。
蛍光灯に照らされて、転生の目の中が煌めく。
彼女もどうやら俺の現象に興味があるらしい。
「しかし、こうなってしまったのは天界と魔界統合のせいが大半だと思います。我々、精一杯あなたのサポートをさせていただきます。どうか、あなたの魂が救われる理由をお探しください」
輪廻が目を伏せる。
「岸辺はん、何でも言うてください。なるだけ、希望は叶えます」
六畳の俺の部屋。
机の上の目覚まし時計。
日付がもう変わっていた。