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輪廻転ちゃん

「え、誰?」



俺はドアノブを握ったまま廊下まで身を引いた。





二人は立ち上がり、「まあまあ」と、僕を部屋の中まで招き入れようとする。




「誰?誰!」



二人に両腕を捕まれて、俺は軽くパニックを起こす。



白と黒のスーツ姿がまた胡散臭さを増して、声が自然と大きくなった。





「やめろよ!誰だよ!」




「………輪廻、やっぱり夢にした方がよかったやん」




白のスーツを着た女が面倒くさそうに腕を離す。



「いや、でも、迅速な対応が急務ですから」




黒のスーツを着た女がしつこく俺の腕を引っ張る。




「あーしんどぉ。私らの責任ちゃうやん」




「転ちゃん、そんなこと言わないで、この方に説明を」



転ちゃんと呼ばれた白いスーツの女は、大袈裟にため息をはき出し、腰に手をあてた。




「……わかったわ、でも、この兄やんめっちゃいやがっとるやん。だから出直そ、夢にしよ。聞く耳持ってないのに説明したって意味無いわ」




「……転ちゃん」



黒いスーツの輪廻が、ドスのきいた声をだす。



転ちゃんと俺の背筋がほぼ同時に凍った。



なんちゅう迫力だ。



「あ、あは、あはは!冗談や!冗談!ちゃんと仕事します。させてもらいます」




思いっきりびびった転ちゃんは真っ青な顔で輪廻にひきつった笑顔を見せた。



輪廻はさっきまでの禍々しい雰囲気をころっとひるがえし、安堵したように転ちゃんへ僕の腕を渡す。



まだびびった様子の転ちゃんは、輪廻の動きに肩を跳ね上がらせながら俺の腕を受け取る。



一つ咳払いをして、転ちゃんは口を開く。



「おい、兄やん。私らはあやしいもんやいっさいあらしません。天使と悪魔、いわば、あの世の使者ですわ」




「はあ?」



「私は天界から来た転生、こっちが魔界から来た輪廻や」




「なんのドッキリだ!警察呼ぶぞ!」




俺は力の限り精一杯、脅かす。



しかし、二人はただ困ったように俺を見るだけで、いっさい動揺しなかった。




「兄やん、いや、岸辺時雨さん。あんた死んだんや。ほんまならもうあんたの魂、私か輪廻が回収……」



回収という単語に輪廻の禍々しい雰囲気が刺さり、転ちゃん━━転生が口をつぐむ。




「……まちごうたわ、堪忍や。旅立ち、旅立ったはずやったんですぅ」



「………」



そういう設定、珍しくない。



漫画や小説、ドラマ映画、歌の歌詞までにそんな設定が登場するから、受け入れ耐性は十分に整っている。




「間に合ってます」



俺の口からは冷静な対応が適切に出た。




「ちゃいますやん!フィクションじゃないんや!ほんまのことや!あんた、橋の下で死んだんや!」




「っ……」



橋の下、という言葉に俺の動きが止まる。




「ほら、心当たりありますやろ?それです。それなんです。よう思い出してください」



転生が腕を引っ張ると俺の足は踏ん張る力を解かれ、部屋の中にすうっと入って行く。




ドアが輪廻に閉められる瞬間、こんなに廊下で騒いでいるのに、家族が誰も出てこないことが不自然に思えた。



しかし、抗えない力にドアは完全に閉められるのだった。





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