悪魔
口の中がジャリジャリする。
足元に唾を吐くと真っ赤だった。
「……何なんだよ……」
今さら殴られた事に疑問と怒りが沸いてくる。
──大丈夫だよ、ここにいるからね
心がささくれる寸前に掛上の言葉が降ってきた。
朝とはうって変わった掛上の俺をなだめた声は、一生懸命に優しかった。
俺は制服についた土を手で払い、自分のリュックを拾い上げる。
「あれぇ?これは忘れ物ちゃいます?」
聞き覚えのある関西弁に顔を上げると、転生が輪廻と並んで目の前に立っていた。
「ほら、これ、つばめはんのリュックですやん」
橋の支柱の下に、紺色のくたびれたリュックが置かれている。
転生は嬉しそうにリュックを指差して俺に微笑んだ。
輪廻は無表情に視線を泳がせている。
「だから?」
俺は落ち着いてきた怒りがまた込み上げてきて不機嫌に言い放つ。
「いや……このままここに置きっぱなしっちゅうわけには……」
俺が怒っていることに転生が動揺して微笑みを強ばらせる。
「俺に届けろって?」
「………」
転生が輪廻の後ろにサッと隠れた。
そこまで怯えなくても、と少し八つ当たりを後悔したが輪廻の無表情を見ていたらどうでもよくなった。
夢じゃなかった。
殴られた頬がちゃんと痛い。
だったら俺は……
「掛上つばめ。両親に捨てられて祖母の家に身を寄せている」
「………」
輪廻の抑揚の皆無な声が橋の下で反響する。
何を言っているのか最初、理解できなかった。
「桃果……本名、真下尊我は兄弟から虐待を受けて掛上つばめの祖母宅で居候中」
頭が俺の意思とは関係なく輪廻の言葉を理解しだした。
「………やめ……ろ……」
「掛上つばめ、真下尊我は幼なじみで………」
「やめろ!聞きたくない!」
破けそうな俺の声が耳を突き刺す。
たまらず両手で耳をふさいだ。
「輪廻……やめたり」
転生が輪廻の後ろから顔を出して俺に哀れみの眼差し向けた。
「転生、彼は掛上つばめの事を知りたがってる。彼の望みを叶えて早く死んでもらわないと」
「輪廻……あんたほんま悪魔やな」
「……彼の不具合は掛上つばめが原因だって分かったことだし、心の準備とか転ちゃんはすぐ言うけれど、ちゃんと死んだらそんなの関係ないわ」
「そんでもな……岸辺はんはまだ人間やねん!現在進行形の人間やねん!悪魔でもな人の心を傷つけるんは罪やで!」
転生が輪廻の両腕をつかみ、必死で言い聞かせていた。
泣き出しそうな震えた声だった。




