届ける愛
六畳一間のアパートはいつも夢を与えてくれた。
ろくな給料ももらえずに帰ってきた夜も、隣から卑猥な声が聞こえた朝も、なにもすることがなくて空腹に耐えていた昼も。
ここにいれば、何かが変わるんじゃないかって。
夏は畳の上に寝転がって、暑すぎる夜は扇風機だけで凌ぐ。(昼の間はもちろん図書館で涼んでいる)
冬は布団にくるまり、新聞紙を拾ってきては上にかぶせ、ダンボールなんかも温かいことを知った。
しかしやはりこの部屋で一人で過ごす時間は寂しかった。でも、遠い遠い場所ではいろんなひとが頑張っている。畳の上には娘が小学校に入学する際に撮った写真が写真立てにおさめられている。笑っている自分と可愛い娘、愛する妻がいつもそこにいた。
会社が倒産しなければ、自分がもっと貯金していたら、後悔ばかりが募った。
それも一ヶ月前、あんなに愛していた娘が自殺したからだろう。
もう耐えられなかった。
あの入学式の時のように、スーツを着た。
ちゃんと髪型もセットした。
ネクタイも準備した。
いつも夢を与えてくれた六畳一間。
次の夢はまた娘を愛せますように。