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藍微塵  作者: 依流かえる
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藤と墨

三人並んで部屋から居間へと外廊下を移動しながら、千秋は幸樹に言った。

「ごめんね、さっき」

どうしても見上げるようになってしまう幸樹の顔を見ると、きょとんとしていた。

「なんで姫が謝るの?」

「だって、私が自分で起きられたら幸樹くんたちに迷惑を掛けないから…」

千秋も我ながら情けないと思っていた。14歳にもなって人に起こしてもらうなんて。

「ぜんぜん。俺も起こしてもらわないと起きられないときあるし。迷惑だなんてぜんぜん思ってないから」

最後に笑顔をつけて答えられると、なんだか悪い気もするが、うれしい気もする。

「直行くんも、ごめんね」

「いいえ。起こしに行くのが遅れたのが悪いのです、姫に非はありません。それに、これも守護者としての職務の内です」

そういうと立ち止まり深々と頭を下げる。先程幸樹に文句を言っていた態度とは正反対、自分の非を謝る態度に申し訳なくなる。直行が頭を上げ、再び歩き出そうというとき、男が二人向かいから歩いてきた。一人は小柄で背丈はは千秋より一寸高いかどうか、白藤色の小袴に南京藤の狩衣を崩したような服装で毛先になるにつれ赤い長髪を後ろでゆるく結わえている。体格に合わせるかの様に顔立ちも可愛らしく、大きな瞳は赤色で神秘的ですらある。もう一人は打って変わって幸樹よりも上背があり、濃藍の色無地に灰色の帯を締め、こちらも長髪ではあるが墨のように艶やかな黒髪であり結わえてはいない。顔立ちも整っており、役者の様だ。二人とも千秋の守護者でありそれぞれ最年少と最年長である。

清雅きよまさが横を歩くと僕が小さく見えるから、お前は砂利を歩きなよ」

「それは、理不尽な」

背の高い、清雅は微笑を湛えたまま横を歩き続ける。

「いや、お前のその背の高さの方が理不尽だね」

どうやら小柄な少年が一方的に文句を言っているようだ。

清雅が千秋たちに気づき落ち着いた声音で「お早う御座います」と言い、緩やかに会釈をした。

小柄な少年――梓門しもんも気付き

「おはよう。遅いから呼びにきたよ」

と言った。千秋たちもそれぞれに挨拶をし、少し早足で広間へと向かった。


「おう。今日はいつもより少し遅かったな」

居間に着き用意されていた膳の前に座ると、上座の穂高が声を掛けてきた。

「すみません」

千秋が謝ると、謝ることはない、とにこやかに言った。

「さて、そろったところで。今日は客を招いての宴会もあるからな。皆、いつも以上に精進してくれよ」

穂高が音頭をとり、口をそろえて「いただきます」と言った後それぞれに朝食を食べ始める。

「そういえば旦那様」

女中の一人が思い出したように穂高に声をかけた。声をかけられた穂高は何を言われるのかときょとんとした顔を女中に向けた。

「今朝、宴のために用意していた皿を持っていかれたでしょう?」

「あ、そういえば」

「もっていかれるなら今度から一声かけてくださいね。大騒ぎだったんですよ。皿がない!って」

やや大げさに言った女中の声に周囲の者達がどっと笑い出した。穂高もすまんすまんと言いながら笑った。それからしばらくは談笑しながらの朝食が続いたが、女中達が宴の準備があると言って席を立った事を皮切りに、それぞれが仕事をするために散っていった。

「さて、私も食事の準備を手伝ってきますね」

雪乃がそういって席を立つと居間には千秋と穂高と守護者だけになってしまった。

居間といってもそれなりに広く、6人だけになると空しさが漂う。

「穂高様」

唐突に清雅が声を掛けた。

「ん?何かな」

「本日の宴の余興、やはり私どもにやらせて頂けないでしょうか」

穂高は突然の申し出に驚いたようだがすぐにうれしそうに「頼む」と言った。

「困っておったのだ。どうも雪乃の舞踏だけでは時間が持たぬ」

助かった助かった、と笑いながら期待しているぞ、と付け足された

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