天より
こういうのを「藪から棒」といいます。(テストに出るよ!)
眼下に青く輝く地球があった。
星くずと無重力ばかりの宇宙空間に、もちろん体をその場に留めるものなどないのに、リトル・ミスはまるっきりベッドにでも寝転がっているような態勢で、大気と水の星を見下ろしている。
重ねた両手の上に顎を乗っけている彼女の隣で、同じように寝そべるもうひとりの少女は、両肘をついて顔を支えていた。
瓜二つである。
双子でもここまで顔の造形は似るまい。
しかし、ふたりに共通するものと言えばあとは背丈くらいで、食い違う部分の方が多い。リトル・ミスが短い髪で、青と白を基調としたセーラー服と紺色のスカートを身にまとい、ローファーを履き、キャスケット帽をかぶっているのに対し、隣の少女は膝裏まで伸びる長髪で、赤と白を基調とした巫女服を着ていて、素足で、頭から翼が生えていた。
鳥のそれと同じ形状の、腰に届くほど大きな翼であった。
「今回はどう? うまくいってる?」
翼の少女が聞く。リトル・ミスは「う~ん」にも「むう~」にも聞こえる音をのどで鳴らして、
「……びみょう」
「どうして?」
翼の少女は、見る対象を地球からリトル・ミスに移した。少し上から見る彼女の顔は、見るからに困った時みたいな下がり眉になっていた。
「なんだか、最初っから、かみ合わないの」
「彼?」
「うん」
短い会話がぽつりぽつりと続く。
「それだけじゃない。はじめて会った時から、なぜかいつもと違うと思ったの。死んでるはずなのに、生きているような気がする。どちらでもないような気もする。ふしぎで、ふしぎで、しょうがないのに。きっと、彼自身も、そのふしぎの正体がわかってないの」
「歯がゆいね」
無言で首を縦に振った。
「これじゃあ、まだ紅暁は、赤くなりそうにないね」
再び首を縦に振る。
「でも、わかろうと、努力はしているんでしょう?」
三たび彼女は首を振った。
「今は、彼の記憶を探して歩いてる。ちょっとずつだけど、思い出すこともあるみたい」
「いい調子じゃない」
「そうでもないよ」
翼の少女は怪訝そうな顔をした。
「最初はね、うれしそうだったよ。だけど、広瀬の話を聞いてた時、一回我を忘れてしまって。その時聞こえた言葉の断片が、ぐっちゃぐちゃだったんだ」
「謎だね」
「謎だよ」
ここでリトル・ミスはごろりとあおむけになった。彼女が顔をしかめて伸びをするところを、翼の少女はおかしげに見つめながら、
「そのあと、彼はどうなったの?」
「まだ起きないよ。このまま消えちゃってもおかしくないと思う」
ふたり同じように眉をひそめて、
「難しいね」
「難しいよ」
掛け合いじみたその言葉を最後にふたりの会話は途絶えた。どちらも思い思いの格好で、転がったり、下を見つめたり、うたた寝をする時間が、ひどく緩やかに流れた。
「そろそろだよ」
翼の少女がそう言って立ち上がった時には、果たして現実世界ではどれほどの時間が立っていたのだろうか。
「じゃあ、頑張れ。待ってるから」
まだ転がっていたリトル・ミスに手を差し伸べて、翼の少女は両手で彼女を引っ張りあげてくれた。
手をつないだまま、リトル・ミスは虚空に立つ。ちらりと足元の地球を一瞥してから、もう一度彼女は翼の少女を見やり、にこりと笑った。
「任せて」
視界が暗転する。




