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03-2

結局、急いで買い物に行く事になった。女の子をパンツ無しで長時間つれ回す、とか、そんな性的趣向は持っていない。

駅まで歩いて向かい、電車に乗る。

隣のノーパン美少女は窓に張り付いて大興奮だ。


「昨日は夜だったからわからなかったけど、速いね!街並みも私の世界と全っぜん違う!あ、昨日も見た車みたいなのが走ってる!!」

「車だよ。あと、できるだけ静かにしゃべってね。」


土曜日の午前中、ということもあって、下りの車内にはあまり人はいない。だが、怪しげな会話を車内でして、悪目立ちすることは避けたい。


「洋服買いに行く場所って、近いの?」

「すぐ着くよ。」


二つ隣の駅の駅前にある量販店だ。午前中から開いている服屋なんて限られている。

女性向け下着を買わなくてはならないのだが、その量販店にも売っているのだろうか?

もし無かったらデパートの下着売り場に行かなくてはならないだろう。それは、俺にはハードルが高すぎる。

念のため店の営業時間を調べようとスマホを取り出した。


「あ、それ、昨日も使ってたよね?何をする道具?」

「えっと、電波を介して、情報を見たり、他人と連絡をとったりする道具、かな?」

「電波力!素敵!そんなの持ってるなんて、さすが機械鎧騎手様!」

「そんな怪しげな職種についた覚えはない!グラフィックデザイナーだってば。」

……本気で黙っていて欲しい。


興味津々に覗きこんでくるノーパン美少女を牽制しながらスマホをタップし、ロック解除する。


「……あ、高橋さんからメールきてるぞ。」


タイトル【無題】

本文【買っちゃった】

添付ファイルあり


なんだ?

早速添付を開く。じわじわと表示されていく写真を見て、俺は急いでスマホをポケットにしまった。


「タカハシ博士からの連絡なの?ねぇ、なんて?私のこと?」

「博士!?いつの間にヤツは博士に?えっと、関係ない間違いメールだったよ。」

「ふうん?そうなの?ね、その道具で博士に連絡とってみてよ、早く会わなきゃだよ。

……でも、やっぱり博士って忙しいんでしょうね。きっと、世界の平和を守ってたりするんだろうし……。」


ノーパン美少女の脳内設定ではどんなことになっているのか、一度、人のいない場所で問い詰める必要があるだろう。

そして、高橋さんは今、世界の平和を享受し、快楽の中心で何かを叫んでいる。

具体的には、冬の一大イベント2日目ゲームデイの壁ブースで俺の描いた薄い本をゲットし、俺に嫌がらせメールを送っている。


俺の職場にはイラストが描けるデザイナーは当然、大量にいて、ほぼ全員がオタないし隠れオタだ。

中にはその筋では有名な方もチラホラいて、その内の一人でもある別チームの先輩に、冬の新刊への参加を誘われた。

チームが修羅場だった為、4ページのみのゲスト参加となってしまったが、

『某錬金術のパンツじゃないから(CER●的にも)大丈夫!な少女が錬金術で失敗してあら大変!』

な修羅場のストレスとテンション、それからあふれるリビドーを正面からぶつけた変態エロマンガが出来上がった。俺、正直どうかしちゃってた。

先輩に会社で原稿を渡したときの微妙な表情は今でも忘れられない。

直後、コスプレでの売り子を何人もの先輩たちに、パワハラに近いのりで進められたが必至で辞退した。

何が悲しくて自分でエロシーンを描いたキャラクターのコスプレをしなきゃいけないんだ。どんな変態プレイだ。

そして、その薄い本は無事印刷され、ご丁寧にも特にオタじゃないはずの高橋さんはわざわざ現場まで行って購入し、写メして送ってくれた、という訳だ。


「どうしたの?変な顔だよ?」

「なんでもないよ?うん。いつもどおり。うん。」

「?そう?」


ノーパン美少女は再び窓から景色を見ることにしたようだ。アレだけど案外素直な子で良かった。


さて、こうなってくると問題は、高橋さんをどう呼び出すか、だよな。

別にオタではない高橋さんがイベントで、会社の人関係のブースにいる、ということは、会社の皆さんに引っ張って連れて行かれている、ということになるだろう。となると、夜は飲み会の予定かもしれない。

それをキャンセルしてもらって、尚且、俺の描いた薄い本は家に置いてきてもらって、高橋さんと俺とノーパン美少女の三人だけで会う、というのはなかなか難しいだろう。

しかし、あまり話は大きくしたくないし、できるだけ早く会わなければ……。

とりあえず直球でいこう。


再びスマホを取り出し、高橋さんに返信メールをうった。



タイトル【Re】

本文【夜、一緒に夕飯どうですか?荷物置いて一人で来てください。】



電車が目的の駅に到着する。車内にいるほとんどの人がこの駅で降りるようだ。

俺も、ノーパン美少女を引っ張って電車から降ろした。


「さ、行くよ。この階段登って。」

「え、え、ちょっと待って!私、ちょっと、今、階段は!」

「この駅、階段しかないから。」

「えー!?」


ノーパン美少女は、顔を真っ赤にしてスカートを押さえ、後ろを気にしながら階段を昇る。

あー、いーながめだなー……。


「その顔でそんな表情しないで!」


顔は仕方ないじゃないか。

仕方なく、ノーパン美少女の後ろにピッタリくっつき、守るように階段を昇り、量販店へと向かった。




ノーパン美少女が買い物をしている間、特にすることがないため、店内をぼんやり眺める。


……クリスマスセール。


そっか。

今日はクリスマスイブだった。


……ゲーセン行ってネットワークカード書き替えたら、キャラクターのサンタコスチュームとか貰えるかもな……

ネットでもイラストSNSは大盛り上がりなはず……ああ、俺もサンタ娘描きたいなあ……

どうせ描くならサークルの新刊にあわせて、錬金術娘をサンタアレンジしたあんな格好で…アングルはあんな感じにして……それから買ってくれた方むけのお礼と……

ノーパン美少女を置いて先に帰って絵を描くとか、ダメだろうな……。


とか考えていると、スマホが揺れた。



タイトル【Re・Re】

本文【クリスマスイブになんの釣りですか

それより夜カラオケ行くのでサンタの格好で来なさい

お土産に好きそうなBL買ってくよ】



高橋さんからのメールだ。やっぱり、カラオケか。

イベント後のいろいろ臭い男の集団の中にノーパン美少女を連れて行くのは危険だし、やはり、高橋さん一人に相談するべきだろう。



タイトル【Re・Re・Re】

本文【BLいらないです。むしろ百合よろしくお願いします。でも、会社で受けとるので、持ってこないで下さい。

高橋さんだけと会いたいので一人できてくれませんか?ご褒美の事です。

あと、ちゃんとシャワーあびてから来てください。】




送信っと。



送信してすぐ、またスマホが揺れた。

今度は電話のようだ。


「はい、もしもし?高橋さん?」

「ね、篠田くん、俺になんの嫌がらせ?おかげでこっち、大変な状況になっちゃったんだけど。とにかくカラオケおいでよ。

●●のディレクターとかキャラデザの※※さんとか、有名な人も結構くるからね?」

「後ろ、騒がしいっすね。お疲れ様です。お誘いありがたいんですが、どうしても今日は高橋さんと夕飯に行きたいんです。

ご褒美について、いろいろ聴きたい事がありまして、夕飯だめだったら夜、ほかの人無しで会ってくれたらそれでもいいんですけど……。あ、臭いの嫌なんでシャワー浴びてきて下さいね。」

「ちょっまっ!ナニソレ大胆!なんでシャワー!?え?俺覚悟決めるべき!?篠田くんそういう子だっけ!?」

「……?何言ってるんですか?後ろ、騒がしいっす。」

「うわっケータイか……っユーキちゃん!?もしもし、石川だけど、高橋くんの毒牙にかかっちゃダメ!あんな変態よりもぼっ……っ石川D、返してくださいよ!あ、ご褒美って昨日のアレのこと?何かっ……もしもし!中村だけど、篠田くん、ご褒美ってな……っ返せって!まともに話できないじゃないか!」


高橋さんは電話口で携帯の奪い合いをしているようだ。

石川ディレクターはまだ30前半のディレクターでポッチャリ眼鏡。仕事に関してはかなり厳しい人だが、ふざける事に対して貪欲な人だ。中村チーフは高橋さんと同期のデザインチーフでおっとり眼鏡。俺をキャラデザに推してくれたチャレンジャーな人だ。前プロジェクト、今プロジェクトともに同じチームになって開発をした。

高橋さんを含め、全員眼鏡なのは、そういう職場だからしかたない。

どうやら、本当にチーム員勢揃いでイベントに参加しているようだ。ま、俺も行く予定だったもんな。


「石川ディレクターと中村チーフもいるんですね。聴きづらいんでメールにしまーす。失礼しまーす。」

ずいぶん賑やかだったなあ。イベント楽しそうだ。


スマホが次々とメールの着信を告げる。

石川ディレクター、中村チーフ、他にもサウンドプログラマーさんや、同期のプログラマー、何故か全員、俺の貞操を心配している。

意味がわからない。

男同士で飯喰うだけじゃないか。


全員に返信するのは面倒なので、高橋さんにまとめて返信する。




タイトル【店お願いします】

本文【とりあえず、個室のある店、いいとこ知りませんか?俺、店よくわかんないんで任せます。ダチョウ的な意味ではなく、ちゃんと一人で来てください。

周りの皆さんに、よろしくお伝え下さい。】



送信。


個室の店なら、ノーパン美少女があっちの世界の事を話す事もできる。高橋さんは、なんだかんだ面倒見の好い人だから、きっと店を見つけてくれるだろう。



「ん、博士と連絡ついたの?」

ふと見るとノーパン美少女が籠いっぱいの服を持って立っていた。ずいぶん沢山選んだな……。


「欲しいものが沢山あって。下着も選んだし、えっと、お金、大丈夫だったらお願いしたいんだけど……。」

自慢じゃないがゲームと画材以外使い道のない俺の財布には案外余裕がある。


「いいよ、ボーナスも入ったし。高橋さんとは連絡とれたから、夜会いに行こう。」

ノーパン美少女は驚いたような、嬉しそうな表情でニッコリと笑った。つられて俺も笑う。


「ありがとう。ほんと、ユーキの前に召喚されてよかった!」

「さあ、レジにいこう、ノーパン美少女!」

「ノーパン美少女!?何その呼び名!?最悪!!」


一転して怖い表情になったノーパン美少女に誤魔化したり謝ったりしながら買い物を終えた。

そして、高橋さんとの待ち合わせは夕方七時半に中目黒駅、となった。


待ち合わせまでだいぶ時間があるのでノーパン美少女改めリズと生活用品を買いに行き、ファーストフード店で朝兼昼ご飯を食べた。

もて余した時間をどうするか、リズに尋ねたところ、こちらの世界で遊びたい、のだそうだ。やっぱり子供だ。


クリスマスのデジタル景品でも貰おうかと、ゲームセンターへ向かう。

カードの書き換えを行い、いくつかの体感ゲームで一緒に遊んだ。


「ねえ、こういうのって、デートみたいだね。」

先ほど撮影したプリクラをタブレットに貼り付けながら、リズが弾んだ声で言う。……会社の備品にプリクラ貼らないでくれ。


「……デート??」


何を言ってるんだ、この子は。どう考えても、これはデートじゃないだろう。それとも、『あなたなんかとデートだと思われたら恥ずかしい』という意味合いの警告か?


「……ごめん。気を付けるよ。離れてるね。デートだと思われたりしたら、やっぱり気持ち悪いよね。」

「っなんでそうなるの!?私、デートとかしたことなかったから……。」

「相手がこんなんで嫌だろ?俺もデートなんてしたことないですから。デートの仕方もしらないっす。」

「こんなんって?なんでそんなに卑屈に!?それと……あの、樹里さんとは、デートしなかった、の?」

「うん。」


樹里さんとは、デートする機会なんて無かった。リズが小さく「よしっ」と呟いてガッツポーズをした気がした。


「ね、ユーキって何歳なの?」

「24になったとこ」

「あれ?意外と上なんだね。私、15歳だよ。もしかして、一年の長さが違うのかな?

でも、24と15なら全然、アリだと思うけど。」


……もしかして、俺、今モテてる?でも、24と15は犯罪だと思うけど。

少しだけ顔を赤らめ、決意したような表情をしたリズが、俺を真っ直ぐ見つめ、言った。


「ユーキは私にとって、理想のタイプなんだよ?……性別以外は。」



性別がダメならなんの理想なんだよ!




謎の告白はとりあえず聴かなかったことにして、ゲームセンターを出た後、家に一旦帰ることにした。歩きながらちょこちょこ買ったリズの荷物が、結構な量になった為だ。

生活用品を所定の場所にしまい、リズの新しい服をハンガーにかけてやる。リズも何やらゴソゴソと、荷物を整理しているようだ。


「ユーキ!ユーキ!ねぇっ、ここ座って!?ここ!」


リズが俺のPC座椅子を指差しながら言う。


「へ?何?」

「だから、とにかく座って!?」


訳がわからないが、淹れたてのカフェラテのマグカップを一つリズに渡し、自分用のカフェラテを持って着席する。

リズの分はだいぶ甘めに作った。


「リズ、どしたの?何かあった?」


カフェラテにゆっくり口をつける。


「ユーキはそこでのんびりして?こっちの事は気にしないで!」


そういってリズはタブレットの表面を叩きながら小さな声で何やら呟く。

と、俺の座椅子の下から光が溢れ、俺自身までも光が飲み込んでいく。


「ちょ、リズ!これっ」

「全智なる女神ルイーナに願う。この者に新しき 身体を!女たる性を与えたま……」

うをっ!危なっ!!


「ぅあちっ!!」

座椅子ごとひっくり返り、魔方陣から逃げたはずみにカフェラテをぶちまけてしまった。

床のコード類は生クリームの海に浸かり、座椅子には薄茶色の斑点が不規則な模様を作る。下手するとキーボードやPCにもかかってしまったかもしれない。


「あーあ。逃げたりするから。魔方陣べちゃべちゃ。」

「普通逃げるよ!だから人の性別を勝手に変えようとしないでください!」

「ほんと、さっさと女の子になっちゃえばいいのに……」


リズが性転換の魔方陣を座椅子の下に引いていたらしい。

年下の女の子と過ごしているのに貞操の危機に恐怖するとは思わなかったよ!


カフェラテでべちゃべちゃになった部屋の大掃除をしている間に、高橋さんとの待ち合わせに行く時間になった。


リズがすまなそうに言う。

「お部屋、お掃除大変そうね。浄化の魔法、使えばすぐ綺麗になるよ?ユーキは魔法、使えないんだっけ?」



心の底からイラッとした。

数時間費やしてようやく綺麗になりはじめたカフェラテのシミは、リズの魔法で一瞬で分解された。


「……行こうか……。」


高橋さんに会う前に俺はすっかり疲弊してしまった。

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