プロローグ
体全体を包み込む清々しい風・・・・・・・・・・。
学生・・・はたまた園児の楽しそうな、明るくもどこか懐かしい会話・・・・・・・。
小鳥のさえずりと虫の鳴き声の上手く混ざったような・・・・・・・・。
自転車をこぐ隣を電車が勢いよく通り過ぎていく・・・・・・・。
つまりは・・・『普通』・・・いつも通りの学校帰り。普通に帰っているだけである・・・帰ってるときは、まだ普通。帰っているこの時だけは・・・・・。
(普通だよ・・・とってもとっても・・・あぁ・・家に帰りたくないよ~)
いたって普通の中学生・・・翠西御郷(すいさいみさと)は自転車をいつも通りこぎながら普通を楽しんでいた。
普通、普通を楽しむ人など普通はいない。普通は・・・・・・。
その唯一の楽しみももう終わりが近づいている。そう、つまりは家に近づいているということだ。
家が嫌な人などよほどのことがない限り普通はない。
(まぁ・・・そのよほどのことが僕にはあるんだけどね・・・)
自転車を片付け、絶対に開いている玄関の扉を開いた。やはり、雑に大量の黒やら白やら・・・中にはこれって模様というか・・・みたいな雑に塗られた?赤色の靴もある。
「た、ただいまぁ・・・・・帰りました・・・・」
「「「「「「「おかえりぃ!御郷さんっ!!!」」」」」」
突然の大声の嵐に御郷もちょっと飛び跳ねる。
そんなこともさておき、「おかえりぃ~みさっちゃん♪」「御郷ぉ~会いに来たぜ~」などとたくさんの人が押しかける。
この人達は普通の人とはちょっと違う。ちょっとどころでもないぐらいに・・・つまりは黒い仕事・・殺人である。でもただ単に殺すわけじゃない。俗に言う「暗殺者」「殺し屋」「掃除屋」などといった仕事をする人たちである。
「あのぉ・・・用事がないなら、帰ってもらっていいですか・・・・・・・」
「冷たいなぁ~御郷はぁ~そんな子にはこうだっ!!」
「えっ!うわっ!ちょ、どこ触ってんですかぁ!!僕男ですよっ!!」
「何言ってんだよ~女みてぇなもんだろぉ~こんな顔してんだからよぉ~」
「それ僕のコンプレックスですよっ!ちょっと顔が女っぽいからってバカにしないで下さいよっ!!」
(もう・・・こんな家やだよぉ・・・・・・)
▼△▼△▼△
これは、今からやく5年前のこと・・・・・・。
「お、おとーさぁん・・・・死んじゃうの・・・・・」
「ハッ・・・何言ってんだよ、俺が死ぬわけないだろ」
「だって・・・とっても危険なんでしょ?今日行くところ・・・普通じゃないって・・・・」
御郷の父・・・翠西準御(すいさいじゅんご)はとある組の組長であった。とっても周りから慕われていた。慕われていたからこそ今日の争いに巻き込まれた・・・。とっても強かった・・・だが御郷は凄く心配だった・・・疑いとは違う。どこか、怖かった・・・・・。
「おらぁ!男が泣いてんじゃねーよ!女かぁ?だからそんな顔なのさぁ~ハハハッ」
「バカにしないでよ・・・・・・」
「よし、じゃあちょっくら行ってくらぁ~土産もん買ってきてやるよっもしかすっと敵の首かもなっ!」
傲慢な笑い方で玄関を出ていった・・・その背中がどこか御郷には悲しくみえた・・・・・・。
その日の夜、御郷の父は病院に運ばれた・・・・・。
争いの途中に一発の銃弾で怪我を負ったらしい。
御郷はすぐに病院に向かった・・・勿論泣き顔でぐしゃぐしゃの顔で・・・・。
「おとーさぁん・・・・・・」
「あっ?あぁ・・・御郷かぁ・・・ごめんな、父さんしくじっちまったよ・・・・」
「ねぇ?ねぇ?大丈夫だよねぇ?死なないよねぇ?」
「死ぬかボケェ・・・・・まだ死ねねぇよ」
「なんで・・・なんで・・・血が出てるよ・・・今まで血を流したことなんてないじゃん・・・・」
「フッ・・・まぁ、そいことだぁ・・・帰れ・・・御郷・・・・」
「帰れるわけないよ・・・」
「帰れ・・・帰れと言っているだろっ!!御郷っ!!!」
「ッッッ!!!・・・・うん・・わかった・・・・」
初めて・・・初めて準御が御郷に怒った。今まで怒ったことなど一度もなかったのに。一人っ子である御郷を準御は男手一人で大切に育てた・・・可愛くてしょうがなかったようだ。
(おとーさん・・・なんで・・・どうして・・・もう・・・・・)
そして、その数日後、翠西準御は息を引き取った・・・・・・・。
御郷は、その日、世界で一番涙を流した。
その準御の遺言が問題だった。その内容とは・・・・・・。
『この命が尽きたとき、わが組の拠点を翠西邸に変更することを命じる。そして、各自行動はもう、縛らない。だが、責任は自分で取ること。最後に、自分の後・・・つまりは次期組長は・・・翠西御郷。とする』
つまり、御郷はボスになったのだ。リーダーになったのだ。頭となったのだ。
あの猛者どもが集まる場「地獄」の頭になったのが女顔の「天使」。
御郷はこの日から、「地獄の天使」となった。
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