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うっかり正体がバレて、腹黒王子に私物化されそうになっている阿呆(魔女)は私です

作者: いか人参
掲載日:2026/09/08


ー 二百年に一度、白き魔女が現る。その者救世主なり。


この国に伝わる伝承だ。

それは、この国が王権国家となる遥か昔、まだ神と精霊が世界を統べていたと言われる神聖時代の話。


その時代、神同士の争いに巻き込まれて窮地に陥ったこの土地を、一人の少女が救ったらしい。その者はなぜか神をも超越する絶対的な力を持ち、容赦なく力を振る姿はまるで魔女のようであったと。


しかし、助けられた側はその者の偉業を讃えた。



『二百年に一度、白き魔女が現る。その者救世主なり。』


圧倒的な力で神々を制圧すると、少女は一つ言葉を残し、塵のように消えていったという。


その後、その少女はこの地を救った英雄であり、初代白き魔女様として名を残す。赤眼に白髪という苛烈な少女の容姿と共に、代々語り継がれていったのだ。



国の伝承によれば、二百年に一度似た風貌の者が突如現れ、皆この国の窮地を救ってきたとか。白き魔女と呼ばれてきた歴代の彼女達は皆、十代半ばでいきなり容貌が変化したらしい。

それを持って力が覚醒すると言われており、白髪赤眼になると同時にすでに力を使いこなしていた。


そのため、その二百年後が近づくと、国は伝承と同じ年頃の少女を集め、王宮に住まわせるのが慣わしであった。覚醒する前に囲い込み、その絶大なる力を確実に王国の物とするためだ。


そして今年、その二百年に当たるらしく、国中ちょっとしたお祭り騒ぎになっている。連日王都には出店が立ち並び、王宮関係者が多く行き交い、年頃の少女を見つけては片っ端から声を掛けていた。


その様子に少女達は浮き足立ち、あわよくば見目麗しいと評判の王子とお近付きになれるのではないかと、花を飛ばして浮かれまくっていた。



「私には関係のない話だわ。」


そんなことを考えながら私は、外の世界に広がる賑わいから目を逸らし、窓掃除を終わらせた。


無駄に高い窓はとてもじゃないけれど手が届かず、一々踏み台を横にずらしながら作業を行うのが大変だった。



ここは自分の邸だというのに、私は使用人と同じ制服を着て早朝から深夜まで仕事をさせられている。同じハドソン伯爵の娘だというのに、母親が違うせいでこの扱いだ。


母親の死後領地にあった別邸から本邸に引き取られ、最初こそ豪華な邸に喜んでいたが、無言で制服を投げ渡された瞬間理解した。


『ああ、私はいらない子なんだ。』


使用人部屋に住まわせられ、最低限の食事と睡眠だけで朝から晩までこき使われる日々。この歳の貴族は学園に通うことが義務付けられているが、私の母親が平民の出身だったからという理由で、通わせてもらえない。毎日同じことの繰り返しだ。


腐っても貴族籍だからと使用人からも疎まれ、一緒に仕事をすると迷惑そうにされる。仕事をしないとお義母様に折檻を受けるのに…。歳の近い姉からは毎日のように嫌がらせを受けていた。



掃除を終えて時計を見ると、そろそろ姉のメアリーが帰宅する時間だった。私は仕方なく彼女の部屋へ向かう。



「お嬢様、お手紙が届いております。」


メアリーが学園から帰宅したタイミングで、部屋に彼女宛の郵便物を届ける。それが最も嫌な仕事の内のひとつであった。姉のことを『お嬢様』と呼ぶことにも地味に抵抗がある。


許可をもらって入室すると、私は差出人が見えるように銀のトレーの上に封書を並べて、頭を下げたまま差し出す。メアリーが手に取るまで、決して顔を上げてはいけない。



「!!」


その時、突然足元に鈍い衝撃が走り、驚いた拍子に手にしていたトレーを床に落としてしまった。当然のように手紙が乱雑に床に散らばり、その横に花瓶が投げ捨てられていた。



「まぁ、エリーヌ。貴女って本当にどんくさいのね。ただの荷物運びも出来ないなんて。その鴉のように黒くて無駄に長い髪のせいで、動きづらいのではなくて?」


「も、申し訳ございませんっ…」


「謝らなくていいわ。私は貴女のためを思って言っているのよ?なんて言っても、貴女はたった一人の可愛い私の妹だもの。」


ド派手なドレスに身を包み、豊かなブロンドヘアをかきあげ、メアリーがにっこりと微笑んだ。白く細いその手には、似つかわしくない無骨なハサミが握られている。

きらりと光を放つ刃を見せつけてきた。



「これで毎日の手入れが楽になるわよ。あぁ私はなんて優しいのかしら。」

「お、お願いしますっ…どうかそれだけはっ……」


目の中を嫌悪で真っ暗にしたメアリーが口元だけ笑みを浮かべて近づいてくる。それがあまりにも人間離れしていて恐ろしくて、私は思わず尻餅をついてしまった。


その隙をついて、真っ暗な笑みを浮かべたメアリーが一歩近づき、容赦なく私の髪にハサミを向けてくる。



(神様っ……お願いしますどうかっ…)



「なんてね。」


私は小さく呟くと、軽く息を吸って両の手のひらに瞬時に力を込めた。力…というより願いに近いかもしれない。それは私が覚醒したあの日に手に入れた特別な力…


頭の中でイメージを具現化して、今目の前に実現させたいことを強く詳細に心で想う。


ーー ((結界))((爆音))


その瞬間、私にだけ見える白い光が発生して、特別な力が施行された。ひとつはメアリーの足元に四方型の結界を作り、もう一つは爆音と共にその中で爆ぜた。とてつもない音がする…はず。結界の中に入っていたメアリーだけだから、私には無音だ。



「きゃああああああっ!!!な、なによ今の音は!一体何が起きたのよ!」


「外で馬車が事故を起こしたのかもしれませんわ。早急に確認して参ります。」


「は!?外!?そんなわけないでしょうか!今私の足元で音がしたわよね?ねぇってば!」


私は錯乱するメアリーを置き去りにして、慌てた様子で部屋を飛び出した。無論外を見に行くつもりもないし、この部屋に戻るつもりもない。



「あー楽しかったわ!貴女が私を虐げようなんて百万年早いのよ!」


人気のないところまで走ると床に座り込んで顔を隠し、笑いを堪えた。

メアリーのあの顔を思い出すとおかしくて堪らない。もう何度も反撃を繰り返しているのに、未だ新鮮な反応をしてくれるからやめられないのだ。



これにはきっかけがあった。


私がこの家に来て二年後、夢を見た。

真っ白な世界の中に、白き魔女と名乗る少女が現れたのだ。



『私が先代の白き魔女、そして貴女が当代の白き魔女よ。おめでとう。』


上下の区別のない真っ白な空間の中、腰までの真っ白な髪と真っ赤な瞳を持つ神秘的な女の子が、私に笑いかけてきた。この時点ですでに訳が分からなかった。



『私が…白き魔女…?あの伝承の?』


『そうよ。でもね、この国はもう平和だわ。だからもうお役目は果たさなくていいと思うの。うん、もう大丈夫。』


『もう大丈夫って…そんなふうに決めてしまっていいものなの?』


『いいのよ。私は国を救った救世主だもの。でもね、塵になって消える女の子はもう私でお終いにしたい。これからは力を隠して…ううん、自分のためだけに力を使って、今まで命を落とした彼女達の分まで幸せになる!うん、それがいいと思う!』


『その気持ちは分からなくもないけれど…でも私もいつか白髪赤眼になるのでしょ?そしたらすぐに見つからない?』


『それなら大丈夫よ。貴女の力で目の色は封印できるから。あ、でも髪の毛は染料で染めてね。毎日伸びる髪の毛の色を変えるって結構難しいのよね。だから黒髪の貴女を選んだのよ。染めやすいでしょ?材料も安価だし。』


『え、そんな理由で…』


『あとはね、貴女がこんな境遇にも負けずに頑張っていたから。前回の伝承をいじったから少しは猶予があるはずなんだけど、でもあと数年もしたら王宮で捜索部隊が発足されると思う。それまでに家の人に仕返ししながら力の使い方を学んで。そして、捜索活動が落ち着いたら、好きなところに行って好きなことをしてね。』


そこまで一気に話すと、少女の身体がぽわぽわと発光し始めた。表情が、輪郭が、姿が、次第にぼやけて存在自体記憶から消え去ってしまいそうに虚ろいてくる。不安に襲われた。



『待って!私、力の使い方なんて分からないし、一人じゃまだ何も……』


『ああ、これで覚醒したから貴女はもう大丈夫よ。今の会話で継承成立ってこと。それに、短時間だけど、これから毎日夢で会えるから、さよならじゃないわ。じゃあまたね!』


『あ、はい!また!』


こうして私はやや一方的過ぎる白き魔女との初対面を果たし、無事特別な力を手に入れたのだ。


それから数年、王国での今代の白き魔女探しが本格化する頃には、私はすっかり力を使いこなしていた。彼女の助言通り、毎日のように仕返しをしていたおかげだ。


そしてこの力はいくら使っても枯渇しないのだ。恐ろしいほどになんでも出来て、恐ろしいほどに疲れない。

先代曰く、力を尽くして一国を滅ぼすなど規格外のことをしない限り、この力はほぼ永久不滅らしい。だから神殺しは避けてねと言われたけど、どうやったら神に会えるのかすら分からないから大丈夫。


それにしても、改めて考えると恐ろしい能力だ。


ちなみに、『貴女の次の白き魔女も、この子にしあわせになってもらいたいなって思う子を選んでね』と言われた。どうやらこの先も、この特別な力は私的使用して良いらしい。と、先代が決めたと夢の中で話していた。本当に大丈夫なの?不安だわ。



こうして特別な力で適度に憂さ晴らしを続けていると、ある日、とうとうこのハドソン伯爵家にも王宮からの使いの者がやってきた。聞くところによると、十代半ばの少女がいる家を片っ端から見て回っているらしい。


そして我が家の娘二人は、メアリー19歳、私エリーヌが16歳。どう考えても私の方が本命に近いのだが、案の定この日は屋根裏での軟禁を命じられた。


力を行使する対象もおらず、暇を持て余す。


(この待遇、バレたくないからちょうど良いわ。この騒ぎが落ち着いたら国を出よう。伝承と関係のない国でゼロから居場所を作って、私だけの日々を暮らすの。)


私は狭くて暗い屋根裏部屋の中で、輝かしい将来に思いを馳せた。この力があれば、後ろ盾がなくとも、どんなことでもお金を稼げる自信があった。どんなことに力を使えるかなと、色々な使い方を考える。とても有意義な時間の過ごし方だ。


ー ドンドンドンドンッ

その時、乱暴にドアを叩く音がした。


「奥様がお呼びです。」

「…………はい」


呼びに来たのは使用人頭だった。

いつもの仏頂面で連絡事項だけ伝えると、踵を返して自分だけ先に戻って行ってしまった。


(馬車の音がまだしてないわ。来客中になぜ私を…?)


嫌な予感がしたが、行かないわけにはいかなかった。変に隠れて反抗心と捉えられても後から面倒なことになる。私は使用人の制服姿のまま下に降りて、恐る恐る客間へ向かった。


ドアの隙間からそーっと覗くと、中には煌びやかな服を着た青年と御付きの者が数名、そして惚けた顔のお義母様とメアリーがいた。



「やぁ、素敵な黒髪だね。」


この中で最も高位の立場にあるであろう、品格ある青年が一番に私に気付き声を掛けてきた。たったのその一言に高貴さが滲み出ている。


青年は金髪碧眼の見惚れるほど整った顔立ちで、どこからどう見ても王子様のそれであった。



「あ、いえ、あの…」

「申し訳ございません!ザフィル王子殿下。この子は使用人同然、教養も何も備えてないのです。お恥ずかしい限りでございます。ほら、貴女も頭を下げて謝りなさい!」


たじろぐ私にお義母様がすっ飛んできて私の頭を抑え、無理やり頭を下げさせてきた。まさかとは思ったが、本当に現役の王子様だったらしい。言われた通りに頭を下げた。



「ザフィル王子殿下、申し訳ございません。」


「いや、いいんだ。僕が君に用があって声をかけたのだからね。」


「私に、どのような御用件でしょうか…」

(こんな使用人同然の私に用事って…?やはりこの年の女の子は全員王宮に連れ去られるのかしら…。身動きが取りにくくなるのは避けたいわ。)


ザフィル王子殿下が私に優しく微笑むたびに、メアリーが横から律儀に殺気を飛ばしてくる。それも微笑んだままやるのだから、器用なものだ。


でも、さすがに今あの力は使えないから控えて欲しいわ…。あとでたっぷりとお返ししてあげましょう。



「僕のそばで働いてみないかい?」

「………………はい?」


(私が王子様のそばで働くってどうして?お給金はどのくらい貰えるのかしら…じゃなくて、なぜ私が?王宮で働きたい女の子なんて捨てるほどいるのに、わざわざ呼び出して私に声を掛ける意味が?白き魔女の候補を王宮入りさせる口実かしら?)


私が棒立ちのまま考えを巡らせていると、ザフィル王子殿下が後ろ手に組んだまま、スッとそばに寄ってきた。そして、ぐいっと顔を近づけてくる。


目を見張るぼどの美しいかんばせが間近に迫り、嫌でも胸が高鳴る。人の脳は美しいものに正直らしい。ザフィル王子殿下が私の肩に軽く手を乗せ、耳元に唇を寄せてきた。



「君、この家で虐げられているのだろう?僕のそばに来るといい。悪いようにはしないしない。高待遇でもてなそう。」

「え」


小声で呟くと、何事もなかったかのように元いた椅子に戻って行った。深く腰掛けて長い足を組む。そして私に向かって、それはそれは美しい顔で微笑んできた。どうやら私からの色良い返事を待っているらしい。



「ザフィル王子殿下!それならばわたくしが!ぜひおそばにっ…」

「君には話しかけていない。慎め。」

「……………っ」


エリーヌを見つめる甘い空気の中にメアリーが突っ込んできたが、その瞬間ザフィルの温度が急激に低くなり、ゾッとするほど低い声で牽制してきた。王族の凄みに、さすがのメアリーも顔色を悪くして黙り込み、震えている。



「お試しでも構わない。一度王宮に来てみないかい?」


お試しで王宮勤め…悪くないかもしれない。嫌なら辞めてもいいってことだし、その頃には白き魔女の話も落ち着いているはず。何より、あのメアリーを震え上がらせてくれて、御礼をしないわけにはいかないわ。



「こんな私でよければぜ」

「ありがとう。嬉しいよ。では早速馬車の中へ。ああ必要なものは全てこちらで揃えるから、荷物は何も持たなくていいよ。では行こうか。」

「え、えっと、あの!」


口を挟む間もなく、食い気味に話をまとめられてしまった。


エスコートというのにはやや強引過ぎる力で腕を取られ、制服姿のまま引きずるようにして馬車の中に連れ込まれた。豪奢な馬車の中には、ザフィル王子殿下と自分しかいない。


(これは大丈夫なのかしら…?)


不安なまま、促されて馬車に乗り込むと、ザフィル王子殿下は当たり前のようにすぐ隣に腰掛けてきた。初対面の距離感ではない。



「あの〜…」


気まずそうに隣を見るが、当の本人は自信満々に獲物を狙う熟練の狩人の瞳をしていた。瞳の奥が爛々と輝き、血が湧き立っているように見える。


(なによこの状態…………)


とりあえず身体を引いてみるが、狭い車内では意味をなさない。大して距離を空けることは出来なかった。



「君に聞きたいことがある。」


真顔でそう言いながら、ザフィルは上着のポケットに手を伸ばした。そこから取り出したのは、真っ暗な液体の入った見覚えのある小瓶であった。


(それは私の染料………!!)


彼は私の動揺した様子を見てニヤリと口角を上げ、見せつけるように小瓶を振ってくる。



「どうして白き魔女の君が、髪なんて染めているのかな?もしかして秘匿するため?それは大罪だな。」


窓枠に肘をつき、確信を持った物言いで眼光鋭くこちらを見てきた。彼の雰囲気が一変し、宝石のようだと思っていた綺麗な青い瞳が鋭利な刃物に見えてくる。



「は、ははは」


的確過ぎて、私はもう笑うしかなかった。

毎晩夢で気楽に話し過ぎて、先代の楽天主義が少し移ったかもしれない。


一層のこと、この馬車ごと吹き飛ばしてやろうかと思ったけど、やめた。そんなことをしたら、国の騎士団に追われて国相手に一線交えることになる。一国を滅ぼすことになったら、力を使い果たして塵になりかねないわ。



「まさか君、その力を自分のためだけに使おうなんて思っていないよね?」


「…そんなまさか。微塵も思っていませんわ。」


「安心したよ。絶大なる力は国のため民のためにあるべきだ。君もそう思うだろう?」


「ええ本当に。」


「良かった。僕も同じ思いだよ。それでは僕の為に尽くしてくれるかい?」


「はい、………って、え?殿下のため?」


「ああ。時期国王として実権を握るのがこの僕だ。国益のため、言うなればこの国の王太子である僕のためだと言っても過言ではないだろう?」


「それは少し話が飛躍し過ぎているような…」


「エリーヌ、君が白き魔女であることは僕たちだけの秘密にしよう。」


「え…良いのです?今、秘匿は重罪だと言ったばかりでは…」


希望の光に心が軽くなってパッと顔を上げると、真摯な眼差しで自分を見ているザフィル王子殿下と目が合った。なんて誠実な眼差しなんだろう…まつ毛もあんなに長くて…美し…



「ということだから、結婚しようか。」

「は……………い……………!???」


あまりに美しい顔面にうっかり見惚れていたら、とんでもない提案をされてしまった。


(なんで今け、結婚!?け、結婚ってまさかあの愛する者同士がというアレのこと!?いや、そうではなくて利害一致の政略結婚ということ?でもそれでも結婚に変わりはないわけで、だからええと…)


状況と言葉が全く関連せず、頭の中が混乱する。今求婚されている意味が分からない。


その様子を見たザフィルがさらに笑みを深めた。その様子はまるで、奈落の底の前に立ち、手を拱いている悪魔のようであった。怪しい雰囲気が漂っている。



「君のことは、『白き魔女様』それとも『愛しの婚約者殿』、どちらの呼称で呼ぶのが望ましいだろうか?好きな方を選んで良いからね。」


にっこりと微笑むザフィルは天使の如く、この世のものとは思えないほどの完璧な美しさがあった。有無を言わせぬ圧に、私の選択は一つしかないのであった。



「……………………後者でお願いいたします。」


こくんと頷くと、頭上から満足そうな笑い声が聞こえた。




「交渉成立、だね。」


ザフィルは満ち足りた顔で私に微笑むと、軽く身を乗り出して窓の外に声をかけた。



「全隊、帰還を許可する。こちらには最低限の護衛だけで構わない。」

「ハッ」


威勢の良い返事と共に、とてつもない数の馬が走り去る音が聞こえてきた。地響きが鳴り渡り、窓の外に砂嵐が見える。


「えっと、今のは軍隊…」

「君はとんでもない力を持っているのだろう?この僕が丸腰で会うわけがない。良かったよ。平和的に解決出来て。」

「は、はは…」


(私はとんでもないことを選択してしまったのかもしれない…)


私は既に後悔に襲われていた。


(大人しく白き魔女として国に尽くした方がマシだったかもしれないわ…この王子一体何を考えているのやら…)


横に目を向けると、思いきり目が合ってしまった。



「いきなり連れて来られて不安だよね。君のことは必ず僕が守る。だから安心して欲しい。式も、君の望みを最大限に反映させよう。」


「………いえ、別に私たちの関係はそういうものではな」


「ん?しろきま」「ご配慮ありがとうございます。式もとても楽しみですわ。」


「ああ、僕も君のドレス姿が楽しみだよ。まだ仕事着しか見たことがないからね。そして、これからは四六時中君といられる。なんて素敵な毎日なんだろうね。」


「本当ですこと。」

 

とても良い笑顔で笑い合う二人。

車内の空気がぴりついている。


国をも滅ぼす力を持っているというのに、私はこの目の前の男に勝てる気が全くしない。生物的に負けている感じがして、恐怖心が邪魔をするのだ。力を発動する前に負ける気がする。



こうして私は、出会って僅か数分で王子様との結婚が決まってしまった。それも彼のために力を振るうという暗黙の了解の元で。


私の夢見た悠々自適の生活は、木っ端微塵に砕け散ってしまったのだった。今晩夢で先代の彼女と会えたら、誠心誠意謝罪をしよう。あわよくば、助言をもらえることを祈って。



読んでくださりありがとうございます!

勢いで描きましたが、とても楽しかったです(´∀`)

反応があれば長編化もいいなと…笑


他にも超短編(注 とてもくだらないです笑)をいくつか描いているので、良かったらよろしくお願いします!


読んでいただき本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
強かな主人公めちゃ好きです! 王子が気になりすぎるので続編!待ってます!
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