絶対零度
久しぶりにシンシアのエクリプスの助手席にのる。
制服姿のシンシアに一瞬、見とれるも気づかれるわけにはいかない。
「悪いな、シンシア」
「いいのよ」
なぜかいつもより機嫌がよさそう。
学校の駐車場に到着、いつもの面々が目ざとく見てる。
「ようよう、今日は一台で仲良く、ご出勤とはやるねー」
「うるさいわね!いろいろとあんのよ!いろいろ!」
そこに控えめにリュウに話しかけるベッキー。
「おはよー、リュウ、昨日はありがとう、クッキー焼いてきたの良かったら食べて」
ベッキーが20プリウス修理のお礼にかわいい包装のクッキーをリュウに渡す。
「ありがとう。お返しなんていいのに」
さっきまで機嫌のよかったシンシアから冷たい空気が感じられる。
教室に移動しようとしたらエミリーに止められるリュウ。
「昨日はありがとう、パウンドケーキを焼いてみたの、二人で食べて」
「あ、ありがとう、気にすることないのに」
「ありがとう、エミリー気を遣わせたわね」
リュウの後ろから絶対零度な冷気を感じる。
あえて振り向かずに教室に入る。
こんな状況、いつもの面々が見逃してくれるはずもなく
「おいおいおいおい、リュウは何人、恋人作るつもりなんだぁ?
1ダースでも足りなそうだなー」
「おーい、ホームルーム始めるぞー、席に就けー」
先生の声にみんな席につく。
残念ながら(?) リュウの隣の席はシンシア。
クッキーとパウンドケーキから漂うほんのり甘い匂いが彼女の怒りを加速する。
なんで美人ほど怒るとこんなに怖いのか。
我慢の限界だったシンシア、リュウを力いっぱいつねる。
声を上げるわけにいかないリュウ、横顔をみても平然としてるシンシア
俺だけに聞こえるようにシンシアが
「鼻の下、伸ばしちゃって。食べ過ぎて太れば」
「伸ばしてねーよ」
放課後、まだ冷気を放つシンシアの横に乗りこむ。
怒るきっかけを与えないようにおとなしくするリュウ
自宅ガレージに到着
ふたりともつなぎを着る。
いつものランサーなのに、なぜか違和感を感じる。
プラグコードを外し、ボックスでボルトを緩める。
――ぱきっ、ボルトが固い、簡単にゆるまない。
プラハンマーとマイナスドライバーでヘッドカバーを開けたいが
固着してなかなか開けられない、
ガスケットとヘッドの間にドライバーを入れて少しずつ開けてゆく
やっとヘッドカバーが外れた。
やっぱり――ピストンが終わってる。




