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触媒の代金はラーメン

リュウとシンシアが駐車場に駆けつけると、 リュウは濡れたアスファルトに片手をつき、


プリウスの下を覗き込んだ。


「……完全にやられてる。切り口が雑だ。夜中に急いで盗ったんだろうな」


ベッキーは肩を震わせ、唇を噛んでいる。


「昨日まで普通に走ってたのに…」


シンシアは怒りを隠さず、拳を握りしめた。


「最低ね……こんなことするなんて」


リュウは深く息を吸い、爺ちゃんとあった冬の出来事を思い出す。


雪でスタックした車をワイヤーでけん引して救出。


“困ってるやつを助けられるなら、迷うなよ” 祖父の声が胸の奥で響いた気がした。


「大丈夫だ、ベッキー。直せる。……いや、俺が直す」


その言葉に、ベッキーは涙をこぼしながらも、少しだけ表情を緩めた。


そこへマイクがやってきて、指を鳴らす。


「あ、そうだ! 親父の店に事故で廃車寸前の20プリウスあったわ。 触媒もO2センサーも生きてたはず。

使うならタダでいいって言うと思う」


リュウの目がわずかに光る。


「本当か、マイク」


「おう。放っといたらスクラップ行きだしな。誰かの役に立つなら親父も喜ぶさ」


ベッキーは小さく息を呑む。


リュウはそっと彼女の肩に手を置いた。


「部品さえあれば直せる。じいちゃんとやってきたDIY……こういうときのためにあるんだ」


「リュウ……ありがとう……」


シンシアは腕を組みながらも、どこか誇らしげに微笑んだ。


「あんたのそうゆうとこ……嫌いじゃないわ」


マイクの親父の店。 油と古いタイヤの匂いが混ざった、アメリカの中古車屋らしい空気。


奥から出てきたのは、腹の底から笑うような声を持つガタイのいい親父さん。


「おう、マイク。今日は友達連れてきたのか」


事情を聞いた親父さんは、事故車プリウスを親指で指しながら言う。


「触媒か。あれならまだ生きてるぞ。……ただしタダってわけにはいかねぇなぁ」


リュウは覚悟を決めて言った。


「小林屋のラーメン……3杯でどうですか」


親父さんの目がギラッと光る。


「3杯だぁ? お前、小林屋の旨さ知ってて言ってんのか」


マイクが苦笑する。


「親父、小林屋の話になると強気になるからな……」


親父さんは腕を組み、わざとらしく唸った。


「……5杯だ。味噌3、塩1、醤油1。それで手を打つ」


リュウは吹き出しそうになりながらも、深くうなずいた。


「……わかりました。5杯で」


親父さんは満足げに笑い、事故車の触媒を指差す。


「よし、持ってけ。若いのが車直すってのは気持ちいいもんだな」


マイクが肩をすくめる。


「ほらな、リュウ。うちの親父、ラーメンには逆らえねぇんだよ」


シンシアは呆れたように笑いながらも、 リュウの横顔を見て、どこか嬉しそうだった。


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