転移
十分な休息をとり体調を整え、labyrinthに向かう事になった。
リナとリーシャも回復し、魔素の影響を受けやすい2人は持ってきた物資の魔素中和剤を服用している。
labyrinthに行く時は必需品らしい、俺たちは使った事がないから必要なものは2人に任せて良かった。
オーリアから来た馬車を使い、アランドルフに残っていた人々は全て回収された。
残っているのは俺たち5人だけだ。
最後に王都を出た馬車の後ろ姿を見送る。
「行っちゃったね」
「人がいなくなった街でやってみたいことがあったんだよね」
「ん?」
マヤは大きく息を吸い込み。
「わーー!!!!!」
大声を出した、うるさい。
「やってみたかったんだよねー、誰にも迷惑かからないからいいでしょ」
「俺に迷惑はかかってる」
「ノリ悪ー」
「気持ちはわかりますよ」
「さすがリナ!リナもやろ?」
「えーっと…遠慮しておきます」
俺たちは王都を出発してlabyrinthに向かう。
labyrinthはさほど遠くなく、半日も歩けばゲートにたどり着いた。
ゲート…と、呼ばれていたそれは黒い渦となり全てを吸い込む、そんな雰囲気を醸し出していた。
「…不安定」
「魔素か?」
「ううん、ゲート」
「だよな、変質してるし」
「でも行くしかないよね」
意を決して全員でゲートに飛び込むといきなり宝珠のあるエリアに繋がった。
「あれ?はやくない?」
「こんなに狭いlabyrinthがあるんですね……奥に反応はあります。狭いが故にlabyrinthの暴走が起こったのかもしれませんよ」
「…リナ頭いい」
「残念ですがそれは違います」
宝珠の台座の横から1人の人間が現れた。
一目で分かった、こいつがジーニスだ。
見るからにフロント、前衛だ。
鍛え上げられた肉体、大盾を背中に担ぎ全ての攻撃を防ぐ、そんなオーラが確かに感じられる。
勝てないとは思わないが。
「あんたは…」
「ジーニス、名前くらいは聞いたことがあるとは思いますが」
「あんたはここで何をしているんだ」
「アランドルフを陥落させようとしているんですよ、まぁ私の負けになりましたがね」
「なぜだ…?」
「復讐です、ですがあなた達相手では私に勝ち目はありませんから足掻くつもりもありません、殺しなさい」
俺たちがジーニスの強さを測れるように、彼もまた俺たちの強さを評価していた。
「あんたは外の状況を知らないのか」
「ええ、どうなっていましたか?」
「アランドルフは消滅したよ、全国民がオーリアに亡命して跡地に銀龍が居座ることになった」
「銀龍?実在したんですか?」
「ああ、ここを安住の地にするってな」
「そうですか、であれば私の目的は達成ですね、満足です」
「復讐って…何があったんですか?」
「あなた達にも同じことが起こるかもしれませんからね、後学のために話して差し上げましょう」
「私は国と人々を守るためにlabyrinthに挑んでいました、あなた達と同じように」
何か言いたげな、鋭い眼差しを向けられる。
「私が何と呼ばれているか知っていますか?」
「北の守護神ジーニス」
「私は10年以上もこの国を守り、パーティが変わっても第一線に居続け、いつの間にか守護神と呼ばれ、人々からの期待が集まり応援されるようになりました」
「今の所いい話だな」
「これからが最悪ですよ」
苦虫を噛み潰したような顔になり、奥歯を噛み締めている。
「とあるlabyrinthで黒龍が現れ、私は全ての攻撃を防ぎ仲間を守り、無傷で討伐を果たしました。すると王の側近が言いました、あなたのおかげで国があると、パーティの仲間は面白くなかったでしょうね、私は守る事ができても攻撃する手段はほぼ皆無です、それなのに全てわたしの手柄になってしまうのですから」
「否定しても謙遜と取られ、仲間からは嫉妬され、パーティメンバーが変わることは少なくなかった、そしてある時1人のメンバーが言ったのです、お前1人で国を落とせそうだな、と」
「王はその言葉に真に受け長年国を守ってきた私に不信感を持ち、財産の没収、屋敷の没収、長女は人質に取られました」
「俺たちと交流があればよかったな、俺たちなら助けてやれだだろうな」
「私は国を信じ、すべて従えば分かってくれると思っていました、貴方達と知り合っていても手を借りなかったと思います」
「ついにはパーティメンバーもいなくなり、一人でlabyrinthに行くよう指示がありました」
「ギルドマスターは何をしてるんだ?そんな要求飲まないだろ」
「アランドルフのギルドは王家の言いなりなんですよ、金回りが良かったんでしょうね」
賄賂か。
「私は素直に従いlabyrinthに向かいました、倒す術はなくても倒されることはない、その自信があったので敵から逃げつつ宝珠の回収まで一人でこなしました」
「史上初じゃないですか?あ、いえ、勇者が居ましたね」
「そして私が家に帰った時、何者かに妻と次女は嬲られた後に殺されていました」
「…」
「辺りからは汗と性液の匂いがしたので間違い無いでしょう」
「冷静だな」
「もちろん沸騰していましたが最初に行動に移したのは長女の元へ駆けつけることです、居場所は知っていましたから」
「どこだ?」
「王城、第一王子の召使いですよ」
「…まさか」
「想像出来ますか?王子の部屋に飛び込んだ時、娘は全裸で王子に犯されていました。目の焦点は合ってませんでした、恐らく薬で脳を壊され性奴隷のような扱いを受けていたんでしょうね」
「王子は殺したのか」
「もちろん、私の大盾で押し潰せば簡単にペシャンコになりましたよ」
「泣きながら娘に抱きついた時耳元で囁かれました」
「…パ…パ、ころ、し、て…」
「辛うじて意識を保っていたのか、私の幻聴なのか分かりませんが、私は次女を手をかけ、楽にしました」
「あとは宝珠を使って魔物を生み出し王都を襲わせた、そんな所です」
「宝珠は創造系か」
「ご名答、さすがです」
「あなた達は信頼し合った素晴らしいパーティだと見て分かります、誰一人として話を聞きながら私への警戒を解いていない」
「真実かも分からないからな」
「信じようが信じまいがどっちでも構いません
、私の王都を滅ぼす目的は達しました、あなた達は上手くやれるといいですね」
ジーニスは盾を構え後ろのリナとリーシャを狙い真っ直ぐ突っ込んできた。
俺とマヤとミヤはジーニスを素早く取り囲み、三方向から殺す気で攻撃する。
「これで…愛する家族のもとへ行けます…」
直前に盾を捨て全ての攻撃を受け入れたジーニスはそのまま息を引き取った。
「これで良かったのでしょうか」
「本人の望みだ、これでいい」
宝珠を回収して王都に戻ると空から銀龍が降りてきた。
「これが終焉最古の龍…」
リナとリーシャは初めて見る、圧倒的は力の差を感じているのか震えが止まらないでいる。
「愚かな人間ってそういうことだったんだな」
「…」
銀龍がゆっくりと口を開く。
「悪いが、お前達にはここで消えてもらう」
「なぜだ」
俺は短剣を構え、みんなも合わせて武器を構える。
「我は未来を見ることができる」
「それで?」
「遠い未来、お前たちの子孫が我を殺す」
「俺たちを消せば未来が変わると?」
「そうだ」
「何故それを伝える?何も言わずに殺せば良いだろ」
「頭は切れるようだが…殺すわけではない、簡単に説明するなら別の世界に行ってもらう」
「俺たち全員か」
「そうだ」
「拒否権は?」
「ない」
「理由は本当にそれだけか?」
「…命令だ」
「誰の?」
「後は会って話すんだな」
俺の意識はそこで消えた。




