北の国
「手を貸して欲しい」
「まずは、事情を説明してくれ」
急な召集がかかり、実力を見込んでと俺たちは集められた。
カトラスとメルは不在で連絡がつかず、アシュルは今どこにいるかも分からなかった。
いつもみたいにそのうちふらっと出てくるだろう。
「北の国から市民の受け入れの要請、魔物の討伐要請が入った」
「アランドルフから?あそこは守護神ジーニスがいるだろ、何があったんだ?」
ジーニスはアランドルフのS級冒険者。
俺は会ったことはないがカトラスが一度対面したことがあるらしい。
第一印象は「負けることはないが勝つこともできない」だった。
それほど守りに特化した冒険者、故についた呼称が守護神。
英雄と名高い彼がいても負けたのか。
「ジーニス殿はlabyrinthの攻略に向かいそのまま行方知らずらしい、その後誰がラビリンスに行くか決めあぐねている間にlabyrinthから大量の魔物が現れたと報告を受けている」
「labyrinthの暴走って本当にあるんだ」
「多分歴史上初めてじゃないか?年単位で放置しないとそんなことにはならないと思うんだが」
「2ヶ月だ」
「…2ヶ月?」
「labyrinthの発生から2ヶ月で暴走が起こった」
あり得ない、ということはないのだろう。
labyrinthはいまだに謎が多く何も解明されていない。
暴走するというのもご先祖様がそう言ったからとしか知られていない。
「国を離れやってくる市民はできる限り受け入れるつもりだが問題は…」
暴走したlabyrinthか。
通常の魔物の処理だけなら何とかなるかもしれないがlabyrinth内の性質が外にまで影響するとなれば話は別だ、一言でまとめるなら世界の終わりだ。
俺たちでもどうすることもできないだろう。
「で、俺たちだけで何とかしてくれってことか?」
「我々ができることは限られている、西の国がこれを機にアランドルフの侵略やオーリアへの侵略を企てていることは確実、我々はその対応もせねばならん」
「オーリアのS級に行かせれば良いんじゃないか?この国は俺たちが守るってのでも良い」
「国民の信頼を勝ち得ているのは彼らの方だ、民を安心させるためにも彼らに残ってもらう方がいいだろう」
実際そうだ。
それに俺たちが行く方が勝機はあると思う。
「アランドルフにはもう耐える余力も殆どない、何とか力を貸して欲しい」
全員が立ち上がり俺たちに頭を下げる。
この人たちは人の扱いが上手い、引き受ける以外の選択肢は今完全になくなった。
「みんな、いいか?」
「困ってるなら助けなきゃね」
「報酬はもらう」
「簡単には帰って来れなさそうですね」
「何とかなればいいけど」
賛成しかいないみたい。
みんなお人よしだなぁ。
「これを持っていってくれ」
淡く光る水晶玉を手渡された。
「これは遠く離れていても連絡を取り合うことができる魔道具だ、状況は逐一連絡をして欲しい、何か必要なものがあればすぐに届けさせる、君たちが通ったルートなら安全性が高いだろうからな」
「リナとリーシャで必要なもののリストを作ってくれ、準備が出来次第出発する」
「物資は全て我々が用意しよう、無事を祈る」
行動を起こすなら早い方がいい、モタモタしていると本当に取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
俺はマヤとミヤと作戦会議を始める。
「2人はどう思う?」
「何が?」
「もう少し具体的に聞きたい」
「すまん、助けられると思うか?」
「実際に見てみないと分からないかなぁ」
「それはそう、だけどlabyrinthみたいな環境で戦うってなったら多分無理」
「だよなぁ」
「どこまで魔物が溢れているかにもよるけど王都がギリギリ耐えてるなら南の方は安全そう」
地図を広げて確認して見る。
アランドルフは山間部に王都があり、魔物は二方向からしか攻めることはできないと思われる。
かろうじて耐えられているのは立地のおかげかもしれない。
「でも飛行生物もいるだろうなぁ」
「赤龍ならいいけど黒龍がたくさん飛んでたら即撤退だよ、絶対無理」
「カトラスがいないのがきついな」
「兄さんどこ行っちゃったんだろうね」
街の北門に集まり出発の準備をする。
リナが物資を積んだ荷馬車の前にのり、俺たちは後ろに乗り込む。
見送りに来たのはシェンだけだった。
「無茶はしないでくださいね」
「今無茶しないと本当にどうにもならなくなりそうだからな、出来るだけ頑張るさ」
「あなた方に押し付けてしまうことが心苦しいですが…よろしくお願いします」
後ろからの援軍も期待できない中、俺たちはアランドルフへ馬車を進める。




