前衛職の仕事
「俺の名前はカイトだ、この中に魔物と戦ったことがある奴はいるか?」
全員が手を挙げる。
これなら話しやすいな。
「君は何と戦った?」
「アブロスです」
「蜂の大群か、どうやって戦った?」
「…逃げ惑ってる間に魔法で倒してもらいました」
「君は?」
「ピポットです」
「短剣を振り回す小人だな、どうやって戦った?」
「剣で切りました」
その後も話を聞くが小型の魔物が多いな、D級でもガルフとくらいは戦ったことがあってもおかしくはなさそうだが、
「魔物の多くは前衛だけで処理できる、というか処理をしなくちゃいけない、処理できて当たり前だ、少年理由は分かるか?」
さっきの少年に質問する。
「魔法は無限に使えるわけじゃないからです」
「半分正解だ、もう半分はわかるか?」
「うーん…」
「正解がわかったらCクラスに上げてもらえるように取り合ってやる、間違えたらE級に降りてもらうが、わかる奴はいるか?」
誰も手を挙げない、自信がないみたいだ。
「後衛は体が弱いからだ。例えばガルフに突進された時、前衛は受け止めることができるだろうが後衛はまず吹き飛ばされて骨が折れるだろうな上手く自己防衛ができたとしてもそれに魔法を使うのは勿体無い」
「効率よく戦うならガルフやピポットのように前衛が処理しやすい魔物は処理し、アブロスのような小さく数の多い魔物は後衛に処理してもらう、大体8割の魔物は前衛が処理するべきなんだが、前衛は勘違いする、俺たちばかり魔物を倒して後衛は大して仕事しないと、この中にもそう思った奴もいるはずだ」
「ようは役割分担だ、前衛だけで倒せない時に後衛に倒してもらう、その間の時間稼ぎをする、感謝こそすれど下に見るのは無知の証拠だ」
生徒達は真剣に話を聞いている。
こんな感じでいいのか?
「君、前に出てきてくれるか?」
別の少年を壇上に上げる。
「前衛の役目はわかったな?」
「はい」
「君は魔物役として、このナイフを俺に向かって全力で投げてくれるか?」
「分かりました」
少年の投げたナイフを俺は手のひらで受け止める。
しっかり刺さって血がどんどん溢れてくる、それを見た少女達は高い声を出す。
「どうして声を上げる?魔物との戦闘じゃこれぐらい普通だ」
「だって…血が…」
「痛そうに見えるか?」
「はい…」
「もちろん痛いけど耐えられる、君は耐えられるかい?」
少女は激しく首を振る。
「前衛はナイフで切り付けられても、鈍器で殴られても、攻撃は絶対に後ろに通してはいけない、守ってくれる人悪く言うのは違うな?」
「…はい」
「自分より体の大きな魔物の前に立てる?」
「…できません」
「何をしてくるかもわからない見たこともない魔物の前に立つ勇気がある?」
「…ありません」
「じゃあ次は俺が魔物の役をしよう、君たちは恐怖を克服しないといけない」
「分かりました」
少年が少女の前に立った時、俺は2人を殺すという殺意を明確に示した。
少女は震えて腰を抜かしその場に座り込んだが少年は震えながらも俺の目をしっかり見ている。
少年に向けて軽くナイフを投げつけると同じように手を伸ばしてナイフを止めようとした。
偉いな。
俺は素早く動いて先回りし、投げたナイフを自分で掴んだ。
「合格だ」
殺意を消した時少年はその場でへたり込んだ。
「勝てる勝てないじゃない、仲間を守るために身を挺して前に立つのが前衛だ、死ぬなら守って死ね、行きたいなら強くなれ」
「なんで立っていられるのか…分かりませんでした」
「心の強さが大事なんだ、例えば地龍と戦うとしよう、ドラゴンの中では下位だが腐ってもドラゴン、前衛だけで倒すのは難しいかもしれない、そんな時、強大な体を持つドラゴンを前にして前衛は耐えるか、倒すか、全員が逃げる時間を稼ぐ必要がある」
「怖くて震えているだけじゃ逃げることもできないからな、後衛は状況を判断しなければいけない」
リナは俺に駆け寄ってヒールをかけ手の治療をしてくれる。
「お前たちが戦いを舐めていることがよくわかった、魔物との戦闘は命の奪い合いだ、相手も生きるために必死だ、そんな時に仲間内でくだらない喧嘩をするな、わかったな」
とくに拍手も起こらなかったが生徒達の顔つきが少し引き締まったように見える。
今までバカにしていた相手を見直せるようになってくれればいいんだが。
「お二人は付き合ってるんですか?」
唐突な質問にリナは顔を真っ赤にしてアタフタする。
そんなに動揺することじゃないだろうに。
「わ、私はそんなんじゃなくて、カイトさんはリーダーで私の知らないことをたくさん知っていて、判断が私よりも早いすごい人です!」
「可愛い先生だろ?だから仲間として、男として守ってあげなきゃいけないんだ、男なら分かるだろ?」
この空気どうしようとリナはアタフタしている。
そんな時いいタイミングで講義が終わるベルの音がした。
「ん、終わったな」
「カイト…と言いましたね、この後地下で訓練があるのですが参加していただけませんか?」
「なんでだ?」
「私どもは肩書だけのB級です、B級に上がってすぐに冒険者を離れたので教えるにしてもあなた達の方が良いと思うのです」
講師の面目を潰されて悪いことをしたなと思ったが逆恨みされるどころか頼まれてしまった。
「あんたらの上司がいいって言えばな、俺たちも仕事でやってるからな」
「ぜひお願いします」
いつの間にかシェンが後ろに立っていた。
「願ってもない話です」
「じゃあカイトさん、地下に行きましょうか」
「リナも行くのか?」
「お手伝いできることはあると思うので行きますよ」
そのままの足で地下訓練場に向かった。




