アシュル
ミヤは精神的に安定してきた。
これでまたしばらくは大丈夫だろう。
あれからしばらくミヤは俺にべったりで周りは気を遣って距離を置いてくれた。
デートを何度かした事で気も紛れてきたのかマヤを誘ってダンジョンに向かった。
「ふぅ…」
「兄さん、ミヤがいなくなってあー疲れたみたいな声を出すのは失礼ですよ」
「アシュルか」
しばらく姿を見ていなかったアシュルが声をかけてきた。
工房に籠っていると思ったんだが。
「そういうわけじゃない、ミヤが落ち着いたみたいでやる事がなくなったから何しようかなって所だ」
「そうですか、私も一通り魔法具の新調が終わったので息抜きをしようと思っていた所です」
「いつもすまないな」
アシュルの頭を撫でるがすぐに払い除けられる。
こんな態度だけどアシュルは俺の子供を身籠もっている、どうデレるのか想像もつくまい。
「相談とお願いがあります」
「お願いはいつものだと思うが相談は何だ?」
「新しい魔法具の開発でどう言ったものがあれば良いですか?」
アシュルが作る魔法具には付与魔法が込められており様々な効果を発揮する。
単純なものだと【力な指輪】や【体力の指輪】その名の通り力が増したり、疲れにくくなる指輪。
先日見せてもらった【解毒の指輪】も効果としてはわかりやすい。
着眼点も良く、アシュルの支援魔法【アクセラ】は苦手な部類で付与しても大した効果を発揮できない、故に反重力制御魔法【アンチグラビティ】を付与し、体を軽くする事で素早い動きを可能にするなど、常人には調整できない様な付与を施すことにも成功している。
下手な調整だとただ動きづらいだけになるだろう。
「収納袋の強化は出来ないか?」
「今以上の効率を求めると魔力に耐えるだけの素材が必要になります、ギルド会館に見にいきますか?」
「そうだな、売りたいものもあるしたまには行くか」
ギルド会館はギルドに隣接する商業施設で冒険者がダンジョンやlabyrinthで手に入れた物を販売している所だ。
もちろん本人が売るのではなく、ギルドに取り扱ってもらって何割かをギルドに収めることになっている。
「売りたいもの、先日のlabyrinthの戦利品ですか?」
「あれはアシュルに渡したもので全部だ、A級ダンジョンで手に入れた大量の魔法具があるからな」
「誰がそんなゴミを買うんですか?」
「やめろ、A級が泣くぞ」
「粗悪品」
「みんなアシュルみたいに付与できるわけじゃないからな、そう言ってやるな」
ちなみにアシュルが作る魔法具は全てが国宝級と言われる、素材の値段もぶっ飛んでるから作って売ることで儲ける事は難しい、欲しいという人はたくさんいるがそれだけの金額を出せる人はほぼいない。
「お願いは素材か金だろ?」
「はい、いつものです」
アシュルの魔道具はパーティにとって必要不可欠、生命線だ。
labyrinthやダンジョンで手に入れるものは素材としてアシュルに渡すか売って金にして素材にしてアシュルに渡す。
「無駄遣いは減らせないのか?」
「無駄じゃない、失敗は成功に繋がる」
「まぁそうなんだが…」
アシュルが作るのは魔法具や小物、武器や防具はダンジョンやlabyrinthで手に入った物を使用している。
自由に魔法を付与した物を使用できればな…。
「早く見よ」
アシュルはひと足先に販売フロアに向かって駆けて行った。
売るものあるって言っただろ…。
「すいません、販売用に装備を納品したいのですが」
受付のお姉さんに話しかける。
「あらカイトさん、いつもありがとうございます」
もはや顔馴染みだ。
「今日は何を?」
「いつものです、値段はそちらで自由に決めてもらって構いません」
そう言って一つ目の収納袋から大量の魔法具を取り出した。
指輪、アミュレット、ブレスレット、金属が多いのは魔法の付与がしやすいのとダンジョンで手に入るものが貴金属が多いからだ。
「あらあら、今日はいつもより多いですが…あまり質は良くありませんね」
鑑定士である彼女は一目見ただけですぐに把握できる実力は持ち合わせている。
「A級ダンジョンで狩られた冒険者の遺品がほとんどです」
「それは…失礼しました」
「誰も聞いてませんよ、実際冒険者のレベルは少し落ちているとは思いますけどね」
「より良い物を手に入れるというよりは程々で良いという人も増えましたからね」
「武器と防具もあるのでダンカンさんを呼んでいただけますか?」
「もういるよ」
後ろから現れたドワーフの女性、鍛治士のダンカン。
「カイト坊が見えたからね、また大量に持ち込んだのかい?」
「そんな所です」
二つ目の収納袋から大量の装備を出す。
「なんだい、防具はボロボロなものばかりじゃないか、こんなもん買い手もつかないよ」
「使えるものだけで良いですよ、あとは処分してください」
「ん、これは…」
一本の剣を手に取った。
俺が見ていない間にカトラス達が倒した巨大蠍がドロップした物だ。
「魔剣だね」
「魔剣ですか」
「カトラス坊はカリバーンを使ってるんだろ?あんたが使うかい?」
「重い剣は邪魔なので販売に回してください」
「良いのかい?毒の魔剣は珍しいから良い値がつくと思うよ」
しばらく談話してその場を離れる。
アシュルは…いた。
「何見てるんだ?」
「竜の鱗…でも地龍だから質が悪い」
「飛龍なら良かったのにな」
「ね」
「欲しいものはあったのか?」
「オークウッドの枝とプラチナム鉱石、あと魔剣」
「魔剣?」
「欲しい」
「使うのか?」
「色々試してみたい」
魔剣以外、アシュルの欲しい物を購入しダンカンから魔剣だけ回収した。
アシュルにそのまま役立ててもらおう。
「満足した」
「また必要があったら言ってくれ」
装備を作っている所は見たこともないし出来たと聞いたこともない。
新しい挑戦でもするのかな?
「兄さん、ダンジョン行けなくてごめん」
「気にするな、工房で作業してくれていたんだろ?責めないよ」
「上手くいったらプレゼントする」
魔剣を使った魔法具の作成か?
あまり期待せずに待つとしよう。
「あ」
「どうした?」
「今動いた気がする」
アシュルはお腹をさする。
保護封印しているからそんなわけはない。
俺も手を当てたが払いのけられた。
「触らないで」
ほんとに、デレる要素が見つからない。
「おかえりなさいませ」
屋敷に戻るとメイドが出迎えてくれた。
「風呂に入りたいんだ、沸かしてくれるか?」
「わかりました、手紙が届いています」
渡された封筒は赤い、裏を見ると王族の紋様の入った蝋で封がされていた。
「…あまり関わりたくはないんだけどな」
「捨てる?」
「そう言うわけにもいないだろ」
中を改める。
……
やっぱり面倒ごとかもしれん。
「なんで書いてある?」
「明日全員で城にこいってさ」
「ん…作業したかったのに」
「仕方ないな、明日はみんなで城に行くか」
今の代の王は温厚派と聞くし、住む場所も提供してくれたくらいだ、悪いようにはならないだろう。




