あの惨劇の場所で
今回から新章開幕ってヤツです。まあ前回までは序章だったのでこれからの章は中々長く続きます。ストーリーが遂に動き始めるんですわ。
今日もいつものように目覚める。5月にもなると暑い日がちらほらと現れ、スラックスにワイシャツ一枚で十分だ。平日の仕事といえば徒歩でのパトロールか本部で要請を受けたときの待機。新人は大抵パトロール任務につく。例に漏れず僕も今日初めてパトロールをする。休日でも一部のハンターは出動の待機はしなければいけないから、GWに思いっきり休めた僕は幸せ者だろうか。とりあえず着替えて準備をしたら、言われた時間の通りにパトロールに出発する。ハンターは基本的に複数人での行動を義務付けられているから、僕は一条と出発した。朝の出勤の時間、人々には連休明けの憂鬱を感じる。いわゆる五月病というものか。そんなものを横目に見ながら、僕たちは町の中の異変を探す。特に、人っ気の無いところや墓場、廃ビルなんかには特に出やすいらしい。街中で思いっきり刀は所持できないから、見つけたら通報して応援が来るまで素手でやんなきゃいけないのがどうにも面倒くさい。霊気はもうみんな扱えるけど、それでも武器があった方がいいのは確かなことだ。色々見回っても特に何もない。いや、まあそれが一番良いというのは当然だが。
「五月病で人々の気が重くなるというわりには、幽霊のゆの字もでねえな。」
「たしかに、人の感情に左右されて幽霊が湧くとか、そんな説もありましたよね。仮にその説が正しいとして、出やすいとしたら...。」
「学校か、オフィス街だろうな。俺らが任されてる範囲の、学校、オフィスビル、あとは廃校とかかな。でも、死者の怨念で生まれてくるって説も有力視されてたよな...。」
「じゃあ、この地域で1つめちゃくちゃ怪しいところありますよ。」
「どこだよ、そこ。」
「もうここだよ。この辺の今年の成人式会場の広場。」
「おい、ここって...。」
「そう。死神事件の現場。懐かしいですね。吐き気がします。ここで大量の二十歳をぶっ殺させられまくったんですから。」
「なるほどな。死者の怨念が貯まるなら亡くなった場所、さらに人数が多い方が出やすいというわけか。」
「あくまでも、説ですけどね。」
そうこう話していると、背中の方から突然嫌な気配がして、後ろを振り返る。
「おい、どうした?幽霊でもいたか?」
「いや、気のせいだと思います。トラウマでもあるんで、そのせいですかね。」
再び前を向くと、そこには神秘的な気配漂う、九尾の狐がそびえていた。
「出ましたね。幽霊。応援読んでもらえますか?」
「わかった。ただ、襲ってくる気配がまるでしないぞ...。」
「妖怪、九尾ですかね。仮想幽霊でしょう。」
「人間に協力的なのか...、こちらの動向をうかがっているのかだよな。」
一条が応援を呼び、僕がゆっくりと刺激しないように近づく。
「待っていたぞ。死神。」
あと10歩で届くというところで、九尾が話し始めた。
「こんにちは。九尾さんでいいのかな。僕に用があって待っていたんですか?」
「ああ。私はある者の遣いでここで待機を命じられていた。ただし、貴様に用があるのはその者だ。」
「その者って?あと、用とは一体なんですか?」
「悪いがその者についてこれ以上私が喋るのは禁じられている。ヤツにかけられた術のせいで話したその時に私は死ぬ。そして私はあなた達と共に人を救いたいと考えている。」
「ソイツはありがたいことですね。それじゃあ、一旦ここで待ってもらって、人が来るのでその人に保護してもらってください。」
「いや、そういうわけにはいかない。なぜなら私はこの広場から出られないのだから。」
「じゃあ、一体どうやって...。」
「私が私でなくなればいい。幽霊は特定の人間に取り憑くと進化を始め、意思は保たれるが別の存在になる。いわゆる進化をするのだ。ただし、1度人間に取り憑くとその人間が死ぬまで離れられない。」
「じゃあ、あなたが僕に取り憑けばいいんですか?」
「死神、私はお前には取り憑けない。なぜならお前は既にその体に取り憑いているからだ。お前は特殊なんだ。本来人間に取り憑いても、人間の意思は死なずに同じ体に共生するという状態が基本なのだが、お前には死神の意思のみが残っている。なぜならお前は死なないからだ。肉体の持ち主の脳のみが死亡し、お前だけがその体で生きている。」
「この体、僕のじゃあなかったんだ。悪いことしちゃったかな。持ち主さんに。」
「九尾、俺に取り憑け。それなら問題はねえ。」
「ああ。元よりそのつもりだ。私が取り憑いても耐えられる体はお前だ。ただし、私が人に取り憑くのはちと面倒だ。それを受け入れられるか?」
「何でもやってやるよ。何すればいい?」
「お前1人で、私と戦え。十分に戦えば、私はお前に取り憑ける。」
「わかった。黒崎、離れてろ。」
「はーい。わかりました。」
そうして、素手の一条と九尾が戦いを始める。体術で攻撃を避けながら、パンチやキックを繰り出す。やはりさすが九尾の狐といったところか。ほとんど効いていないようにみえる。九尾は遠距離からの炎の攻撃や、爪や牙を使う攻撃をするも、一条の高い素の身体能力に、霊気で強化した足や体でことごとく避けていく。広場にはまるで障害物と呼べるものはなく、九尾の遠距離攻撃は中々厄介なようだ。遠距離からの攻撃を避けながら、一条が近づいて攻撃をしても、爪と牙の攻撃も油断はできない。攻防が続くと、一条に異変が見られた。九尾は全く別の所にいるのに、ずっと何もないところを攻撃している。
「一条さん!九尾はそんなところにいないです!」
僕が呼びかけると、一条は我に帰ったかのように、ハッと九尾の方をみる。
「幻影の術だよ。昔から狐は人を化かすと言われているだろう?」
「クソッ!」
九尾は一条の遠くまでおり、何か大きなタメをしていた。一条が全速力でヤツに近づく。
「紅蓮の術!」
一条の足元が突然盛り上がり、溶岩のようなものが噴水のように一気に吹き出てきた。間一髪で一条は身を転がしかわす。彼らはお互いに見合い、再び近接戦闘を始める。いつもの幽霊とはまるで違う九尾。一条と九尾との戦いは、まだまだ続いていく。
これまた読んでいただきありがとうございます。望月コウタロウです。今回より新章、「神話伝説」が始まりました。黒崎スダチ君たちに数々のピンチが来たり来なかったりでまあ色々あると思うんでどうぞ評価やレビュー、ブックマークをしていただいて次回以降の話も読んでいただけるとありがたいです。




