表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜色の殺し屋  作者: と近
9/25

第9話  すれ違いと嫉妬

埠頭での一件から、両親との間に、目には見えないけれど、確かな壁ができた。


父も母も、もう私の怪我について何も言わなくなった。ただ、私の帰りが遅くなると、いつもより少しだけ、リビングの明かりが長くついている。食卓での会話も、以前のように弾まなくなった。「今日の学校はどうだった?」という質問に、「いつも通り」と答えれば、それ以上は何も聞かれない。


彼らは、私が殺し屋であることを知ってしまった。だが、どう接すればいいのか分からず、戸惑っている。私もまた、彼らにどう接すればいいのか分からなかった。


そんな日曜日の午後、私は、亮くんと街でデートをしていた。彼は、私の手を握り、カフェに入る。何気ない、ごく普通の日常。だが、私の心は、この温かい時間に満たされていく。


「真白、これ、美味しいよ!」


亮くんが、私の顔を覗き込み、笑う。


私は、彼の屈託のない笑顔を見て、心から笑った。この笑顔は、両親の前では見せられない、私の素の笑顔だった。


その時、ふと、窓の外に、見慣れた二つの顔が見えた。父と、母だ。


彼らは、ウィンドウショッピングをしながら、通りを歩いている。そして、偶然、窓から私の姿を捉えた。


父は、私の、心の底から笑っている顔を見て、一瞬、立ち止まる。母は、私の隣にいる亮くんを見て、目を丸くした。


彼らは、私たちに声をかけることなく、ただ、通り過ぎていった。


その日の夕食時。


食卓には、重い空気が流れていた。父と母は、私に何も言わない。


「あの…」


私が口を開こうとすると、父が、私よりも先に口を開いた。


「今日、街で、お前と、知らない男の子を見かけた」


彼の声は、少しだけ、固く聞こえた。


「ああ、亮くんだよ。私の彼氏」


私がそう答えると、母が、少しだけ声を荒げた。


「あの時、真白は、私たちといる時よりも、ずっと楽しそうだった」


母の言葉に、私は、何も言えなかった。


「あの子は…お前の、その仕事のことを、知っているのか?」


父が、静かに尋ねる。彼の瞳は、私をまっすぐに見つめている。


私は、正直に答えた。


「うん。知ってるよ」


その言葉を聞いて、父と母は、再び黙り込んでしまった。


その夜、父と母が二人で話している声が、私の部屋まで聞こえてきた。


「あの子は…あんな危険なことをしているのに、なんで、あの子の彼氏は普通でいられるんだ…」


父の声は、困惑と、そして少しの怒りが混ざっていた。


「あの子は、その子の前では…」


母の声が、か細くなる。


「あの子は、その子の前では、本当の自分を見せられるのね…」


両親の間に流れる、静かな空気。その会話を聞いて、私は、初めて彼らの気持ちを理解した。


彼らの心の中には、嫉妬が渦巻いているのだろう。自分たちが知りえない真白の姿を、見知らぬ男の子が知っていることへの、戸惑いと、嫉妬。


私は、このすれ違いを、どう埋めたらいいのか分からなかった。


この日、私は、大切な人たちとの間に、また一つ、大きな溝ができたのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ