第7話 娘の異変
最近、両親が、私のことを少しだけ気にしているのが分かるようになった。
テーブルにつくたびに、父の視線が、私の腕や手元に留まる。母は、私が着替えている時、かすかにドアの外で立ち止まっているような気配がする。
「あら、真白、また転んだの?」
いつものように、母が心配そうに尋ねる。
「うん、ちょっとね」
私は、愛らしい笑顔で答える。だが、母の視線は、私の腕に貼られた絆創膏から動かない。
「最近、よく転ぶわね。気をつけなさいね」
母の声は、いつも通り優しい。しかし、その声の裏に、何かを探るような、探求の光が見える。
私は、彼女たちの不安を、これ以上煽りたくなかった。だから、私は、もっと完璧に、優等生で愛らしい娘を演じなければならない。
だが、夜の私は、その努力を、すべて無駄にしてしまう。
ある夜、私は、ターゲットを追って、荒れた倉庫街で戦っていた。相手は、力任せの男で、私のナイフを、金属バットで叩き落とした。私は、彼を倒すために、身体を盾にするしかなかった。
ガンッ!
鈍い音が響き、私の肋骨が軋んだ。激しい痛みが、私を現実へと引き戻す。
その夜、私は、全身に無数の打撲と、深い切り傷を負って帰宅した。
翌朝、制服に着替える時、鏡に映る自分の姿は、あまりにも痛々しかった。
私は、父と母の目を避けながら、そっとゴミ箱に、血の滲んだ包帯を捨てた。
「真白、少し話が…」
父が、私の部屋のドアの前で、声をかける。
「今、着替えてるから、ちょっと待って!」
私は、焦って、制服のボタンを留めた。血のついた包帯を隠すように、長袖のカーディガンを羽織る。
ドアを開けると、父と母が、心配そうな顔で私を見つめていた。
「どうしたの、二人とも?」
私は、いつものように、愛らしい笑顔を浮かべる。
だが、母の視線は、私の左腕から、わずかに見えている白い包帯の端に、釘付けになっていた。
「…なんでもないわ。ただ、あなたの顔色が悪そうだったから」
母は、そう言って、私に微笑みかけた。
「うん、大丈夫だよ」
私は、再び笑顔で応える。
だが、彼らの瞳には、私の知らない場所で、私が負っている傷への、どうしようもない不安と恐怖が浮かんでいた。
私は、彼らを安心させることができない。
この優しくて愛しい両親を、いつか、私の戦いに巻き込んでしまうのではないかと、私は、密かに恐怖している。
そして、その恐怖は、現実のものとなる日が、もうすぐそこまで来ていた。