第4話 ボロボロな私を、君の前で
放課後、亮くんと二人で帰路についていた。いつもの道ではない、少し暗い裏道を二人で歩いていた時だった。
「おい、そこのガキども」
路地裏の奥から、数人のチンピラが姿を現す。彼らの顔は、傲慢さと下劣さで歪んでいる。
「なんだ、このガキ。金持ってんのか?」
一人が、亮くんの肩を掴んだ。その手が、彼の制服を強く握りしめる。
「離しなさい」
私の声が、一瞬で冷たくなる。
「あ? なんだ、コイツ。可愛い顔して、生意気な」
チンピラは、私を小馬鹿にするように笑った。
「…亮くん、私の後ろにいて」
私は、亮くんの前に立つ。
「真白…」
亮くんは、私のいつもとは違う雰囲気に、戸惑っているようだった。
「大丈夫だから。…私の、仕事だから」
私がそう言うと、亮くんは何も言わずに一歩、後ろに下がった。彼は、私の正体を知っている。だから、何も言わない。
チンピラの一人が、私の頬に触れようと手を伸ばす。
「あんまり、顔に傷つけないでくれる?」
私は、その手を素早く掴み、そのまま捻り上げる。男は、情けない悲鳴をあげた。
「な、なんだ、こいつ…!」
残りの男たちが、一斉に私に襲いかかってきた。私は、懐に隠していたナイフを取り出し、それを彼らの前に突きつけた。
「さあ、遊ぼうか」
私の口元は、歓喜で歪んでいた。
一人の男が、私に殴りかかってくる。私は、その拳を避け、ナイフの柄で男の腹部を強く打った。男は、苦悶の表情を浮かべてその場にうずくまる。
「くそっ…!」
もう一人が、私に向かって蹴りを放つ。私は、その蹴りを腕で受け止めた。
ゴッ…!
鈍い音が響く。腕に激痛が走る。だが、その痛みは、私を陶酔させた。
亮くんが見てる。
彼が、私の戦う姿を見ている。
私は、男の足を払い、その隙にナイフを男の肩に突き立てる。男は、悲鳴をあげて倒れた。
「…あは、もっと、もっとだよ!」
私は、挑発するように、残りのチンピラたちに向かって笑った。
「この女、ヤバいぞ!」
チンピラたちは、恐怖に顔を歪ませる。私は、彼らの恐怖を煽るように、ニヤリと笑った。そして、二人の男に同時に向かっていく。
一人が、私の顔に拳を叩き込む。
グシャ…!
鼻から血が流れ、激しい痛みが顔中に走る。
ああ、最高だ…!
私は、この痛みに快感を覚えながら、男の脇腹にナイフを突き立てる。男は、血を噴き出しながら倒れ込んだ。もう一人の男が、私に体当たりしてくる。私は、壁に叩きつけられ、肩の骨が軋む音が聞こえてきた。
もう、ボロボロだ。
服も破れて、体中が傷だらけだ。
だが、私の心は満たされていた。亮くんが、私のこんな姿を見ている。私の弱さも、強さも、醜さも、全部。
「…もう、やめてくれ…」
チンピラの一人が、震えながらそう言った。
私は、彼らの前に立つ。
「…亮くんに、手を出したら、どうなるか、わかった?」
私の言葉に、チンピラたちは黙って頷いた。
「じゃあ、もういいよ」
私は、血のついたナイフを地面に落とした。チンピラたちは、私から逃げるように、路地裏から走り去っていった。
静寂が戻る。
「…真白」
亮くんが、私のそばに駆け寄ってきた。
「大丈夫…?」
彼の瞳には、心配と、そして少しの戸惑いが浮かんでいた。
私は、血まみれの顔で、亮くんに微笑む。
「うん。大丈夫。…君の前で、こんな姿になれて、なんだか嬉しいな」
亮くんは、何も言わずに、私を抱きしめた。彼の温かい体温が、私の傷ついた体を包み込む。
この日、路地裏の片隅で、私たちは互いの存在を、再び確認し合った。