第24話 桜の下の再会
その日、亮くんと二人で、満開の桜並木の下に来ていた。
「真白、見て! すごく綺麗だよ!」
亮くんが、私の手を握り、満面の笑みで言う。彼の瞳に映る桜は、いつもよりずっと輝いて見えた。
だが、私の身体は、もう限界だった。
ボスになってからの激しい戦いで、私の身体は悲鳴を上げていた。痛みを感じなくなったことが、私をさらに無謀な戦いへと駆り立てる。無理をして来たお花見だった。
私は、彼の笑顔に、無理やり笑顔を返す。
だが、次の瞬間、私の視界がぐらりと揺れた。
「…真白?」
亮くんが、私の異変に気づき、心配そうに声をかける。
私の身体は、重力に逆らえずに、そのまま地面に倒れ込もうとする。
(ああ…ごめん、亮くん)
私は、そう思いながら、意識を手放しかけた。
その時だった。
「真白…!」
亮くんが、私の身体を、強く抱きしめて支えてくれた。
彼の腕が、私の背中に、肩に、優しく、だが力強く回る。
その瞬間、私の身体に、久々の「激しい痛み」が走った。
それは、まるで、凍り付いていた川が、一気に溶け出すような感覚だった。
銃弾を浴びた時の痛み。ナイフで切り裂かれた時の痛み。骨が軋む音。
私の身体に残る、すべての傷が、一斉に、私にその存在を訴えかけてきた。
「…痛い…!」
私は、声にならない叫びをあげる。
「真白!?」
亮くんは、驚きと、そして安堵の入り混じった顔で、私を見つめている。
私は、彼の腕の中で、震えていた。
痛み。それは、私の身体が、まだ生きていることを、私に教えてくれた。
「よかった…」
私の口から、安堵の溜息が漏れる。
「真白、大丈夫? 腕の傷が…」
亮くんは、私の腕の傷口から、再び血が滲んでいるのを見て、声を震わせた。
私は、彼の顔を見上げ、涙を流しながら微笑む。
「亮くん…私、痛みが…戻ってきたよ」
亮くんは、私の言葉に、何も言わずに、ただ私を強く抱きしめた。
桜の花びらが、ひらひらと、私たち二人の頭に降り注ぐ。
「ねえ、亮くん…」
私は、彼の胸に顔をうずめる。
「この髪の色、嫌い?」
私は、自分の桜色の髪を、彼の腕の中で少しだけ見つめた。
「どうして?」
「…血の色に似てるから」
私の言葉に、亮くんは、静かに首を横に振った。
「真白の髪は、桜の色だよ。春が来て、また新しい命が生まれる、そんな色だ」
彼の言葉は、私の心を温かくしてくれた。
「真白の髪の色は、真白が、また新しい真白として、生きていく色なんだ」
その言葉に、私の心は満たされていった。
私は、痛みを思い出した。そして、それは、私に、再び戦う力を与えてくれた。
私は、桜色の殺し屋として、これからも戦い続ける。
だが、その戦いは、もう、痛みへの渇望からではない。
私の愛する人たちとの、この温かい日常を守るために。
桜の花びらが舞い散る中、私は、亮くんの腕の中で、新たな自分として、歩み始めることを決意した。




