第23話 ボスと部下たち
組織のボスになってから、私の戦いは、以前よりもずっと苛烈になった。
痛みを感じなくなった私は、無茶な戦い方をすることが増えた。敵の攻撃を避けることなく、わざと身体で受け止め、その衝撃を利用して敵を倒す。彼らは、私の狂気的な戦いぶりに、恐れと畏怖を抱いている。
ある夜、競合組織との抗争後。
私は、血まみれの身体で、組織のアジトに戻った。私の桜色のふわふわな髪は、血で固まり、顔や身体には、無数の切り傷や打撲痕がある。
「ボス…ご無事ですか!」
部下の一人が、私に駆け寄ってきた。彼は、私のボロボロになった身体を見て、顔を青ざめさせている。
「大丈夫だよ」
私は、いつものように微笑んだ。だが、その微笑みは、彼らを安心させるものではなかった。
「ボス、なぜ、避けないのですか? あの時、あなたは、避けられたはずです…!」
別の部下が、私の右腕の、深く切り裂かれた傷を見つめながら、声を震わせた。
「そう? 別に、いいじゃない」
私は、何でもないように言う。だが、彼らは、その言葉に、さらに困惑した表情を浮かべた。
「ボス…! あなたは、ご自分の身体を、大切にしないのですか…?」
部下たちの視線が、私に突き刺さる。その瞳には、私を崇拝する気持ちと、そして、私を心配する気持ちが、複雑に混ざり合っていた。
「私は、痛みを感じないんだ。だから、どれだけ傷ついても、大丈夫」
私は、正直に話した。私の言葉に、部下たちは、顔を見合わせる。
「ボスは、痛みを感じない…?」
「はい。だから、大丈夫」
私が冷たい声でそう言うと、彼らは、顔を青ざめさせ、私から一歩、後ずさりした。
彼らが私を尊敬しているのは、私の圧倒的な強さだ。だが、私の強さは、もはや人間のものではなくなってしまった。
私は、彼らにとって、畏怖の対象であり、同時に、理解不能な存在になったのだ。
痛みを失ったことで、私は、人間らしさを失ってしまったのだろうか。
私の心を支配するのは、もう、痛みへの快楽ではない。ただ、愛する人たちを守るという、冷たい使命感だけだ。
「さあ、傷の手当をするよ」
私は、静かに彼らに告げる。
だが、彼らの目には、もう、私への畏怖だけではなく、深い悲しみと、そして、不安が浮かんでいた。