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桜色の殺し屋  作者: と近
22/25

第22話  失われた感覚

私は、痛みを感じなくなった。


最初は何かの間違いかと思った。銃弾が肩を貫通しても、ナイフが腹部を切り裂いても、何も感じない。血が流れ、身体はボロボロになっていくのに、心は、ただ静かだった。


それは、私にとっての絶望だった。


痛みは、私を私たらしめるものだった。痛みに歓喜し、痛みに生を実感していた。そして、痛みは、私が愛する人たちを守った、最高の勲章だった。


だが、その感覚が、もうない。


私は、愛しい人たちを守るために、戦い続けている。だが、その戦いの代償として、一番大切なものを失ってしまったような気がした。


「…私、自分が、自分じゃないみたい」


ある夜、私は、亮くんと両親の前で、そう呟いた。


「どういうこと?」


亮くんが、心配そうに尋ねる。


「私、もう、痛みを感じないんだ。どれだけ傷つけられても、何も、何も感じない」


私の言葉に、彼らの顔は、悲しみに歪んだ。


「大丈夫だよ、真白は真白だ」


亮くんは、そう言って、私の手を握ってくれた。


だが、私は、もう、彼の言葉を信じることができなかった。


次の日、私は、学校で健太と美咲にもすべてを話した。


「…私、もう痛みを感じないんだ」


私の言葉に、美咲は、その場で泣き出してしまった。


「そんな…真白ちゃん…」


健太は、何も言わずに、ただ私の腕をじっと見つめている。私が以前、彼らを庇って撃たれた腕。その腕には、今でも、はっきりと傷跡が残っている。


「…柔道の技、かけてみてもいいか?」


健太が、真剣な顔で尋ねる。


「え?」


「痛みを感じられるように、俺が技をかけてみる」


私は、彼の言葉に、少しだけ希望を見出した。


放課後、私たちは、誰もいない柔道場にいた。


「いくぞ、真白」


健太は、私の腕を掴み、柔道の技をかける。その技は、骨を軋ませ、肉を締め上げる。


だが、私は、何も感じなかった。


「もう一度!」


健太は、何度も何度も技をかけた。


私は、彼の顔を見て、何も感じない自分に、絶望した。


もう、戻れない。


「…ごめん、健太。やっぱり、ダメみたい」


私の言葉に、健太は、技を解いた。


「痛みは、戻らないかもしれない」


健太は、そう言って、私の顔をじっと見つめる。


「でも、真白は真白だ」


「…え?」


「痛みを喜ぶ、ヤバい奴だった。でも、俺たちを守ってくれた、真白だ」


彼の言葉に、私は、涙が溢れるのを感じた。


「痛みを感じなくても、お前は、俺たちのために戦ってくれた。そして、これからも、俺たちを守ってくれる。その事実は、何も変わらない」


健太の言葉は、私の心を温かくしてくれた。


私は、痛みを失った。


だが、私は、真白を失ってはいない。


私は、愛する人たちを守るという、私の使命を、決して忘れることはない。


痛みを感じなくても、私は、これからも、桜色の殺し屋として戦い続ける。それが、私の選んだ道だから。

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