第21話 やむを得ない変化
学校のチャイムが鳴り響く。授業の終わりを告げるその音は、私にとっての次の舞台への合図だ。
「真白ちゃん、今日の放課後、カラオケ行かない? 新しい曲が入ったんだって!」
美咲が、明るい声で私に話しかけてくる。その隣では、健太が少し照れくさそうにしながらも、私の返事を待っている。彼らの誘いは、まるで甘い誘惑のようだ。
「ごめんね、今日はちょっと用事があって…また今度、誘ってくれる?」
私は、いつものように愛らしい笑顔で応える。カラオケに行けないのは、嘘じゃない。今日の放課後、私は組織の幹部たちと重要な会合がある。
桜色の殺し屋として、私は裏社会で名を馳せ、その頂点に立ってしまった。だが、組織のボスとなってからは、私の戦いは、以前よりもずっと激しく、そして過酷なものになった。
私を倒して名を上げようとする者、私の権威に挑む古株の幹部、そして、私を排除しようと目論む競合組織のボスたち。毎日、私の命を狙う刺客が絶え間なく送られてくる。
常に限界を超えて戦い続ける中で、私は、やむなく戦闘スタイルを根本的に変化させることにした。
かつては、優雅な舞踏とでも呼ぶべきものだった。敵の攻撃を巧みにかわし、受け流し、時にわざと傷を負って、痛みに快楽を感じていた。それは、ある種の自己満足に近いものだった。
だが、今は違う。
私には、もう、そんな余裕はない。一瞬の油断が、組織の崩壊、そして愛する人々の危機に直結する。
私の身体は、常に満身創痍だ。一晩寝ただけでは、傷は癒えない。体力の消耗は激しく、少しでも無駄な動きをすれば、すぐに限界が来る。私は、無駄な傷を負うことをやめざるを得なくなった。
私は、敵の攻撃を、すべて受け流すという技術を極限まで高めた。
相手が銃を構えれば、その銃口を、最小限の動きでそっと逸らす。ナイフを振り上げれば、その刃を、私の皮膚を傷つけることなく、敵自身へと向かわせる。
それは、まるで、相手の動きを私自身の動きに変えてしまうかのような、達人の技だった。
私が積極的に攻撃する必要は、ほとんどない。彼らは、私を倒そうと必死になればなるほど、その勢いと焦りによって、自滅していく。不本意ではあるが、この受動的な戦闘こそが、私の生存戦略となった。
そして、敵が私に触れることすらできなくなった最後の一瞬、私は、彼らの心臓を正確に、一撃で狙う。
私の身体は、もう限界だ。意識も、いつ途切れてもおかしくないほどの疲労が蓄積している。
それでも、私は戦い続ける。
両親や亮くん、健太や美咲の、この平穏な日常を守るために。
私は、今日も、血にまみれた舞台に、一歩踏み出す。