第20話 最悪の遭遇
放課後、クラスメイトの健太と美咲と三人でコンビニに立ち寄った。健太はゲーム雑誌を、美咲は新商品のスイーツを手に取り、楽しそうに話している。
こんな、なんてことない日常。
私の桜色のふわふわな髪が揺れる。いつもの、優等生の私。
だが、その日常は、突然、終わりを告げた。
「動くな! 金を出せ!」
マスクを被った男が、鋭利なナイフを突きつけ、レジの店員を脅している。もう一人の男は、拳銃を構え、客たちに銃口を向けている。
健太と美咲が、恐怖に顔を青ざめさせる。
私は、すぐに状況を把握した。この程度のチンピラ、私にとっては取るに足らない相手だ。
だが、私は躊躇した。
私の正体を、健太と美咲に知られるわけにはいかない。特に、美咲は、私を「可愛くて優しい真白ちゃん」として見てくれている、大切な友達だ。
せめて二人を庇おうと、私が一歩前に踏み出すが、健太が私の腕を掴んだ。
「真白、やめろ! 無茶だ!」
彼の声が、私の耳に届く。私は、彼の手を振り払おうとした。
その瞬間だった。
パンッ…!
乾いた銃声が、コンビニの中に響き渡る。
私の右腕に、熱い痛みが走った。男が、威嚇のために撃った弾丸が、私の腕を貫通したのだ。
「真白…!」
健太と美咲の絶叫が聞こえる。
仕方ない。
このままでは、二人も危険だ。私は、左手で制服のスカートの下に隠していたナイフを取り出し、男たちに向かって突進した。
「な、なんだ、コイツ…!」
男たちは、驚きと恐怖に顔を歪ませる。私は、右腕からの激しい出血を気にすることなく、片腕だけで彼らを制圧していく。
ナイフを振るい、銃を蹴り飛ばし、男たちの急所を突く。それは、いつもの戦闘よりも、ずっと荒々しいものだった。
「…もう、いいでしょ」
私は、倒れ伏す男たちを見下ろす。彼らは、もう動けない。
外から、パトカーのサイレンの音が聞こえ始めた。
「早く、行くよ!」
私は、呆然と立ち尽くす健太と美咲の手を掴んだ。
「…真白、その腕…」
美咲が、私の血まみれの右腕を見て、声を震わせる。
「大丈夫だから。…警察が来る前に、ここから離れよう」
私たちは、コンビニの裏口から走り出し、少し離れた路地裏まで逃げた。
息を切らし、壁にもたれかかる。健太と美咲は、まだ混乱した様子で、私と私の血まみれの右腕を交互に見つめている。
私は、息を整え、ゆっくりと二人に顔を向けた。
「ごめん。二人には、知られたくなかった」
私は、いつも付けている優等生の仮面を脱ぎ捨て、すべてを話すことに決めた。
「私の本職は…殺し屋なんだ」
私の言葉に、美咲は、信じられないという顔で私を見つめている。だが、健太は、何も言わずに、ただ私をじっと見つめていた。
「…やっぱりな」
健太が、静かにそう言った。
「え?」
美咲が、驚いて健太を見る。
「さっき、真白が動くのを一瞬ためらった時、俺、気づいたんだ。…真白は、俺たちに正体がバレるのを恐れてたんだろ?」
健太の言葉に、私は、何も言えなかった。彼の言う通り、私は、正体がバレることを一番に恐れていた。
「…そう。その通りだよ。私は、裏社会で桜色の殺し屋って呼ばれてる」
私は、正直に答えた。
「そんな…嘘でしょ、真白ちゃん…」
美咲の瞳が、恐怖と混乱に満ちている。彼女の頭の中では、普段の優しくて可愛らしい私の姿と、血にまみれた殺し屋という二つのイメージが、激しくぶつかり合っているのだろう。
「嘘じゃない。…私の両親も、彼氏も、みんな知ってる。そして、みんな、受け入れてくれた」
私は、健太と美咲の、戸惑う瞳をじっと見つめた。
「もし、このことが、誰かに知られたら…私の大切な人たちが、危険に晒される。だから、二人には、このことを、絶対に秘密にしてほしい」
美咲は、まだ震えていたが、健太は、私の言葉に、ゆっくりと頷いた。
「わかった。…俺は、真白の秘密は、絶対に守る」
健太の力強い言葉に、美咲は、少しだけ顔を上げた。
「…私も。真白ちゃんは、私の大切な友達だもん。…絶対に、誰にも言わない」
美咲は、そう言うと、震える手で、私の手を握ってくれた。
その手は、温かくて、私を安心させてくれた。
私は、大切な友達に、私の本当の姿を、ありのまま見せることができた。