第19話 ボスの日常
組織のボスになった私の日常は、以前と比べて大きく変わった。
朝、学校へ行く前に、私専属の運転手が黒塗りの車で家まで迎えに来てくれる。車の中では、昨夜の組織の動向や、競合組織の情報が書かれた分厚いレポートに目を通す。
「ボス、昨夜、東の組織が我々の縄張りに手を出してきました。いかがいたしますか」
運転手は、私の顔色をうかがうように尋ねる。
「…そう。じゃあ、今日の放課後に行くから、彼らのアジトの場所を教えて」
私がそう言うと、運転手は、少しだけ驚いた顔をした後、すぐに「承知いたしました」と深く頭を下げた。
彼らは、私がまだ女子高生であることを知っている。だが、私の言葉に、誰も反論しない。私の桜色のふわふわな髪と、愛らしい制服姿の裏に、どれだけの暴力と狂気が潜んでいるか、彼らはよく知っているからだ。
学校では、私はいつもの「優等生の真白ちゃん」に戻る。
授業中、亮くんが、私の隣で教科書に落書きしてくる。
『真白、最近なんかすごいね』
私は、小さく笑った。
休み時間。亮くんと二人で、屋上でお弁当を食べていた。
「真白、最近なんか、すごい車で学校に来るけど、あれどうしたの?」
亮くんが、面白そうに尋ねる。
「ああ、あれね」
私は、水筒のお茶を一口飲む。
「私、組織のボスになっちゃったんだ」
私の言葉に、亮くんは、一瞬、目を丸くした後、大声で笑い出した。
「ははは! 真白、何言ってるの! ボスって!」
彼の笑い声が、屋上に響く。
「いや、マジで」
私が真剣な顔をすると、亮くんは、笑いを止めて、私の顔をじっと見つめる。
「…あ、本当?」
「うん」
私が頷くと、彼は、少しだけ考え込んだ後、再び笑い始めた。
「真白、ボスとか、似合わないよ! だって、真白、可愛いじゃん」
「可愛いボス、ってことで、いいんじゃないかな」
私は、彼の言葉に、少しだけ微笑んだ。亮くんは、私が裏社会のボスになったことを、面白おかしい冗談として受け入れている。その軽さが、私には何よりも心地よかった。
夜の顔。
私の前に、組織の幹部たちが集まる。彼らは、皆、屈強な男たちで、私を畏怖の眼差しで見つめている。
「我々は、あなたの指示を仰ぎます」
彼らが、一斉に頭を下げた。
「…じゃあ、今後のことだけど」
私は、彼らに、今後の組織の方針を静かに告げる。私の声は、いつも通りの、優しい声。だが、彼らは、その声に、絶対的な服従と、そして、畏敬の念を感じているようだった。
そして、その日の夜。私は、東の組織のアジトに乗り込み、たった一人で彼らを制圧した。
ボロボロになり、血まみれになった私を見て、部下たちは、さらに私への忠誠を誓った。
「…我々のボスは、やはり、この方だ」
彼らの視線は、熱狂に満ちている。
ボスになった私の日常は、昼は愛らしい優等生、夜は血にまみれた暴力の女王。この二つの顔を使い分けながら、私は、愛する人々の平穏を守るために、戦い続ける。