第14話 終わりの始まり
その日は、私の誕生日だった。
私は、亮くんと二人で、ショッピングモールに来ていた。彼は、私の手を握り、少し照れたように微笑んでいる。
「真白、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
私は、彼の温かさに、胸が満たされていくのを感じていた。
だが、その平穏な時間は、突然、切り裂かれた。
ドォォン…!
轟音と共に、モールの一角で爆発が起こる。悲鳴が響き渡り、人々はパニックに陥った。
「真白、こっちだ!」
亮くんが、私の手を引き、慌てて非常口へと走ろうとする。
「…待って」
私は、彼の腕を掴み、その場に立ち止まる。私の耳には、悲鳴に混じって、銃声が聞こえていた。
これは、ただの事故じゃない。
テロリストだ。
「真白、早く!」
亮くんが、私を焦るように見る。だが、私は動けない。
ふと、遠くの通路に、見慣れた二つの顔が見えた。
父と、母。
彼らは、人混みの中で、お互いの手を強く握りしめ、怯えた顔で私たちを見ていた。
私の頭の中で、すべての思考が停止した。
なぜ、二人がここに?
私の中に、焦燥が広がっていく。彼らは、私の誕生日プレゼントを探しに来たのだろうか。
「真白…!」
亮くんの声が、私を現実へと引き戻す。
テロリストたちが、銃を乱射しながら、人々を追い詰めていく。
この状況、私がどうにかするしかない。
「亮くん、ここにいて」
私は、そう言うと、持っていたナイフを構え、テロリストたちのいる方向へと駆け出した。
私の大切な人たちを、絶対に傷つけさせない。
一人、また一人と、テロリストを無力化していく。彼らが私に放つ銃弾を、私は、もう痛みとして感じる余裕さえなかった。
ただ、彼らが両親と亮くんに近づくのを阻むことだけを考えていた。
「真白…!」
父が、私の名前を叫んだ。私は、彼らに向かって、力強く頷いて見せた。
「大丈夫」
アイコンタクトで、そう伝えた。
だが、私の身体は、すでに限界を超えている。
無理な動きで、全身の傷口が開き、激しい痛みが襲う。それでも、私は立ち止まることはできない。
テロリストの一人が、父と母に向かって、銃を構えた。
「やめろ…!」
私は、絶叫し、その男に向かって突進した。
男が、引き金を引く。
パンッ…!
乾いた銃声が響き、私の腹部に、熱い痛みが走った。
「真白…!」
亮くんの声が、遠くで聞こえる。
私は、その男を倒し、両親と亮くんの方を見た。
彼らは、悲痛な表情が浮かべているが、店員の誘導で安全な場所へと避難しようとしていた。
ああ…よかった。
その光景を見て、私の身体から、力が抜けていく。
私の意識は、ゆっくりと暗闇へと沈んでいった。