第12話 終わりのない舞台
名声は、私に終わりなき戦いをもたらした。
かつてはただの暇つぶしだったものが、今や私の命をかけた戦いとなった。裏社会で私の名が知られるにつれ、私を倒して名を上げようとする者、私を雇いたいと望む者、私を危険視して消そうとする者…あらゆる思惑が、私に降りかかってくる。
その全てが、私の日常に影響を与え始めた。
授業中に、不審な視線を感じる。学校の外に、見慣れない男たちが立っている。亮くんとデートをしていると、何者かが後をつけてくる気配がする。両親の家を、遠くから監視しているような影も見た。
私の存在が、愛する人たちの生活を蝕み始めていた。
ある夜、亮くんと二人で、いつもの河原の土手道を歩いていた。
「真白、もう、やめようよ」
亮くんの声が、震えている。彼の瞳には、このところ戦い続けている私に対する、深い悲しみと不安が浮かんでいた。
「もう、真白が傷つく姿は見たくない。俺が守るから…」
彼の言葉は、私の心を揺さぶった。だが、それはあまりにも無力な言葉だった。
「亮くん、ダメだよ」
私は、明るい声で彼の言葉を遮る。
「私の周りには、もう普通の日常なんてない。私の存在そのものが、危険なんだ」
私は、そう言って、彼の手を強く握りしめた。
「私が、この戦いをやめて、普通の女の子に戻ろうとしたら、きっと、私を狙う奴らは、亮くんや両親に危害を加える。…私が、弱い存在だって思われたら、彼らは、私の一番大切な人たちを人質にする」
この戦いは、私が始めたことだ。だから、私が終わらせなければならない。
私は、愛しい人たちを守るために、「桜色の殺し屋」でいなければならないのだ。
「…私は、これからも逃げない。そして、やめない」
私は、亮くんの目をまっすぐに見つめる。
「君を守るために、そして両親を守るために、私は、この終わりのない戦いに身を投じる覚悟がある」
私の言葉に、亮くんは何も言えずに、ただ私を強く抱きしめた。
私の胸に顔をうずめる彼の体温が、私の心を温かくする。
愛する人たちを守るため、私は、永遠の戦いを生きる。それが、私の選んだ舞台だ。
私がボロボロになり、血まみれになるたびに、私は、愛する人たちの存在を、この痛みで再確認する。
私の生きがいは、もう痛みだけではない。
私の愛する人たちを守るという、この使命だ。