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桜色の殺し屋  作者: と近
10/25

第10話  優しい時間と、私の居場所

学校は、私にとって完璧な舞台だ。


教室の窓から差し込む光が、私のふわふわとした桜色の髪を照らす。私は、ノートに几帳面に文字を書き込み、先生の質問には迷いなく手を挙げる。クラスメイトの誰かが困っていれば、そっと手を差し伸べる。


「ねえ、真白ちゃん、ここの問題、教えてくれない?」


そう言って差し出されたノートに、私は優しい笑顔で応える。


「いいよ。ここはね…」


みんなが思う「真白」を演じるのは、もう慣れたものだ。優等生で、愛らしく、少しドジな女の子。それは、私という人間を完璧に隠すための、最高の衣装だ。


制服のスカートの下に仕込んだナイフが、時折、太ももに当たる。その硬く冷たい感触が、私を現実へと引き戻す。


この教室の中にいる誰もが、私が夜になると、人の命を奪う「桜色の殺し屋」になることを知らない。


亮くんが、私の隣で、退屈そうに窓の外を眺めている。彼は、私がこの教室で演じている「真白」も、夜の街でナイフを振るう「真白」も、すべて知っている。


彼と目が合うと、彼は少しだけ笑って、教科書の隅に小さく落書きをする。


『真白、寝てる?』


私は、小さく首を横に振る。


この学校という空間は、私にとって、平穏でいられる貴重な場所だ。


「真白ちゃん、また明日ね!」


クラスメイトの声に、私はいつものように笑顔で手を振る。


放課後。


私は、亮くんに正体がバレたあの公園のベンチに座っていた。隣に座る亮くんの肩にもたれかかり、彼の優しい温かさに身を委ねていた。


「真白、眠いの?」


亮くんが、私の桜色の髪をそっと撫でる。


「…うん。亮くんの匂い、好き」


私の言葉に、彼は少し照れたように笑う。


私の左腕には、昨日負ったばかりの切り傷がある。亮くんは、その傷に気づいていない。


ここでは、私はただの真白だ。


亮くんの隣にいると、夜の街でナイフを振るう自分が、遠い昔の出来事のように思える。


「そういえば、来週、真白の誕生日だね」


亮くんが、私の耳元で囁く。


「うん」


「何か欲しいものある?」


私は、少しだけ考える。


「…亮くんが、私の隣にいてくれること」


亮くんは、私の言葉に、何も言わずに、ただ私を強く抱きしめた。


その温かさに、私は少しだけ、涙が出そうになった。


私は、愛しい両親を、そして優しい亮くんを、私の危険な日常に巻き込んでしまうことを恐れている。でも、彼らなしでは、私は生きていけない。


「亮くん…」


私は、彼の胸に顔をうずめる。


「ん?」


「…ありがとう」


私をこんなにも愛してくれる、この優しい時間を、私は守らなければならない。


この日常を守るために、私は、今日も夜の街へ出る。痛みと、血と、狂気に満ちた世界へ。


そして、亮くんは、ボロボロになった私を癒してくれる居場所なのだ。

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