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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

作者: 壱原 一

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


今まで上手くいきそうになる度、容姿やスタイルが劣るとか、品や知性が貧しいとか、貯蓄や稼ぎが乏しいとか、従順さや忍耐に欠けるとか、何かと難癖を付けて自ら夢を潰してきた。


一旦は惹かれて追い続け、実際に手に入り掛けた夢を、自ら手放してしまうのは大層うしろめたい。


無闇に他人の所為にしたくないが、する事なすこと否定されて育った根っからの自信の無さも影響しているかもしれない。


それが為に、夢を放棄した決断そのものさえ、何時までも苦い後味を残す。


だから夢を断つ時は、二度と振り返らずに済むよう、完膚なきまでに痕跡を消して、関係の深かった人達からも遠ざかり、あたかも再出発するかのように引っ越してしまう事すらあった。


喫茶店巡りが趣味で、自分の店を持ちたいとか、最高の可愛いを生み出せる、アクセサリー作家を目指すとか、誘われて行ったライブが凄く良くて、自分も地下アイドルに転身とか。


割と社交的な性分も手伝って、様々に巡り会って来た中で、今回、9回目を見たのは、特に思い入れの深かった、小説家になりたい夢だった。


直前の夢を消し去って、失意の底に居た自分へ、温かい活力を吹き込み、励まして前を向かせてくれた、魅力あふれる夢だった。


手を取り合って歩めていた期間は、歴代で最も長く、満ち足りていたように思う。


容姿やスタイル、品や知性、貯蓄や稼ぎ、従順さや忍耐も、十二分に兼ね備えていて、何の不足もなかった。


自分の追い求めてきた完璧な夢が、遂に手に入る至福の予感は、けれど当の夢によって粉々に打ち砕かれた。


最初に自分を裏切った忌々しい1人目の夢のように、あの夢も突如てのひらを返し、「今後つきあいを止めたい」と冷めた目で突き放す風に言った。


理想を押し付ける一方で、我が儘で鈍感で搾取的。


まだ言い連ねたかったようだが、頭に来すぎて遮ったので、もう永遠に聞けず仕舞いだ。


仕方なかったと思う。


けれど自分がよほど傷付いて無意識に描き出しているのか、または常識を覆すほど深く深く恨まれているのか、外で歩いている時、家で寛いでいる時、立ち現れては掻き消える、生々しいあの夢を見たのは、これで9回目だった。


思えば根気強く、執念深い質で、己の目標に挑み続けた結果、何やらの賞を獲ったと喜んでいた覚えもある。


あの夢ほど完璧に近い夢に、今後、出会えるだろうか。


またぞろ決断を悔やみそうになり、弱気な気持ちを叱咤して、背筋を正して笑みを作る。


今度こそもっと良い夢に会える。


初めましてと爽やかに声を掛ける準備をしながら、手始めに容姿やスタイルをさりげなく見分する。



終.

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