幸せな生活
舞台はエリオット帝国
エリオット帝国のグレンリベット伯爵家の長女ディアは12歳になり王都でのデビュタントを控える。
子煩悩な父ジェームズと木登りと剣術が好きな娘と弱気な弟に頭を悩ませる母ミリア、お姉様が大好きな弟のカレン、執事のギルバートが登場します。
グレンリベット領は辺境にあり美しい川に小鳥のさえずり、緑あふれる領地である。
「お姉様ー!どこに行ったの?!僕と遊ぶって約束したじゃないか!」
「おや、カレン坊っちゃま。どうされましたか?」
「お姉様がいないんだ。遊ぶ約束をしたのに」
「お嬢様なら先程広場の方に走っていかれましたよ。今度こそ木の頂上まで登るとかなんとか...」
「ほんと?広場に行ってくるー!ありがとう、ギルバート!」
執事のギルバートはおもちゃや絵本を沢山抱えながら走って広場に向かうカレンをみて微笑ましそうに見送った。
「あー!お姉様!やっとみつけた。僕と遊ぶって約束忘れたんですか」
「おはよう、カレン!」
そう言いながら木の上からジャンプをして綺麗に着地をし、カレンに微笑む少女こそ後の王妃となるディア・グレンリベットであった。
「ごめんね。カレンはいつも起きるのが遅いから木登りをしてからカレンの部屋に向かえばいいと思っていたの。」
「いつもは遅いですけど今日はお姉様との約束があったからはやく起きたんですよ!」
「そうだったの。それは悪いことをしたわ お詫びにキャンディをあげるわね」
「僕がそんなキャンディ1つで許すとでも、、」
悪態はついてるもののキャンディを頬張りカレンの機嫌はとっくに直っていたようだった。
「と、ところで!また木登りなんかしてお母様に怒られますよ」
「バレなければ怒られないわ。カレンなにして遊ぼうかしら」
カレンはこの時キャンディは口止め料だったことを悟ったがこの姉に何も言っても無駄かと弱冠8歳にして諦めを覚えていた。
「いっぱい持ってきましたよ!ぬいぐるみもあるし絵本もあります!」
「ならお姉様が絵本を読んであげる。どれがいいの?」
「これ!」
「囚われのお姫様?いいわよ。
ある時、家族と幸せに暮らしていた王女がいました。王女はとてもとても美しかったため求婚する人が後をたちませんでした。そんなある日、王女は悪魔に攫われてしまいました。王様は王女を救ったものに褒美をやると言いましたが、悪魔を怖がりだれも助けに行きませんでした。王様はいても立ってもいられず、1人で王女を助けに行きましたが、あと一歩という所で悪魔に殺されてしまいます。王女は絶望し黒い涙を流すと悪魔の魔力を飲み込み魔女となってしまいました。父の亡骸を抱え王城に帰ると、王が行方不明になったことで母と弟は反逆軍に殺されていました。王女は国中を闇に包み一人誰もいない王城で泣き続けました。」
「カレン、あなたこんな絵本が好きなの?少し趣味が偏りすぎじゃない?」
「お姉様ちがうんですよ、この絵本には続きがあって」
「2人ともー!何をしているんだい?」
「「お父様!!」」
ディアとカレンは絵本をよそに父であるジェームズに向かって走りジェームズは二人を受け止め抱きかかえた。
「今、お姉様に絵本を読んでもらっていた所なんです!」
「そうかそうか。カレンが珍しく早起きだと思ったらディアと予定があったんだな」
「お父様まで僕がいつも早く起きてないみたいに言って」
「その通りではないの?」
からかうようにディアはにやっとカレンの方をみるとカレンは恥ずかしそうに頬を膨らませる
「2人とも仲が良くて母様は朝から嬉しいわ」と後ろから声が聞こえてくる。
「「お母様!!」」
「ギルバートから2人が広場で遊んでいると聞いてせっかくなら家族4人でピクニックでもしないかと思ってな!」とジェームズが言うとディアとカレンは目を輝かせて大喜びし、その様子をみていた使用人たちまで微笑み日曜日の朝にふさわしいのんびりとした幸せな休日のはじまりであった。
グレンリベット領には象徴となる大木がありそこからは街を一望できるためディアはこの景色が大好きだった。
「ここは何度来ても素晴らしい場所ですね」
「そうだね。お姉様はよくここにきて木にのぼ」
カレンが口を滑らせかけた瞬間隣からディアの鋭い眼光と共にカレンの口にパンが押し込まれる。
「ははは2人は本当に仲がいいね」
ジェームズが呑気に笑っている隣で母のミリアは目を細めディアを見つめながら笑っていた。
「そういえばそろそろデビュタントのシーズンだ。ディアは今年で12歳になるし一度王都に行かなければならないね。」
「別に私は王都に行かなくてもこの領地で自然と共に過ごせればそれでいいんです。お茶会もダンスも好きじゃないし。」
「ん〜その気持ちは分かるんだけどね。皇帝陛下から直々にお声がかかってるんだ。デビュタントさえ出れば後は領地で静かに暮らすこともできるし一度行ってみないかな。それにディアは可愛いからきっと王都で噂になるぞ!ドレスも用意してアクセサリーも必要だなあとは、」
「あなた、可愛い娘を自慢したいからといってやりすぎは禁物ですよ。ディア、あなたの気持ちは尊重してあげたいけれど、デビュタントは貴族として生まれた以上参加しなければなりません。新しいお友達もできるかもしれませんし、そんなに悪いことばかりではないと思いますよ。」
「お母様がそこまで言うなら考えてみます。」
「そうとなれば、ディアはデビュタントまでにマナーやダンスなど学ぶことが多くありそうですね。木登りなんてやっている暇はありませんよ。」
「き、木登り?そんなの最近はやってませんよあはは」
「ディア、服に土がついてますよ。」
「お姉様ぼくのせいじゃ」
「カレンあなたもあなたですよ。姉が木に登っているところみて止めないとは」
「活発でいいじゃないか!!父様も木登りしてみようかな〜なんて!」
「あなた!」
「「あはははは」」
ディアの運命が12歳のデビュタントの日に大きく変わることをこの時はみな知る由もなかった。