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東京の西に関する、いわゆる怪異の断章  作者: 藍沢 理
第6章 情報の拡散

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第4話 編集者の憂鬱

 高林泰三は早めに帰宅していた。


 彼はUSBメモリの中身を確認した後、気になってネット上の情報を追い続けていた。2ちゃんねるのオカルト板、Xでの考察スペース、そしてYouTubeの検証動画。どれも断片的ながら、真実の一端を掴んでいるように見えた。


 特に気になったのは、2ちゃんねるの「多摩の土竜」というコテハンだ。3年前から警告していたという。そして「地質屋」の湖底データ解析。深度200メートルの穴――久坂部准教授の報告と一致する。


 結局徹夜してしまい、彼は寝ずに出勤するはめになった。



 朝。編集部は通常通りの喧騒に包まれていた。締切に追われる編集者たち、電話の呼び出し音、プリンターの稼働音。いつもの日常がそこにあった。


 昼休み、編集部の片隅にあるテレビスペースで騒ぎが起きた。


「おい、これ見ろよ!」


 誰かが声を上げる。高林も席を立ち、人だかりの後ろから画面を覗き込んだ。


『速報 人気スピリチュアル系配信者 自宅で死亡』


 画面には、昨夜Xスペースで「金剛菩提」として配信していた男性の顔写真が映っていた。本名、年齢、そして死因不明という情報。


「この人、昨日すごい人数集めてスペースやってたよな」

「ああ、途中で切れたやつ」


 同僚たちが話している間に、画面が切り替わった。


『速報 YouTuber「真相!怪異ファイル」運営者 変死』


 今度は若い男性の写真。登録者100万人を超えたばかりのYouTuber。最後の動画で「現地に向かう」と予告していた人物だ。


 高林の顔が青ざめた。


 そして、追い打ちをかけるように、次の速報が流れる。


『全国で7名が同様の手口で殺害 警察が関連を捜査』


 アナウンサーの声が編集部に響く。


「本日午前、北海道、青森、千葉、愛知、大阪、広島、福岡の7都道府県で、それぞれ1名ずつ、計7名が遺体で発見されました。被害者の年齢は23歳から67歳、性別も職業もばらばらですが、全員が胴体を切断された状態で――」


 高林は、めまいを感じた。


 7という数字。そして全国に散らばる被害者。これは無差別殺人ではない。何か意味がある。何かに選ばれた者たちだ。


 スマートフォンを取り出し、2ちゃんねるにアクセスする。昨夜見たスレッドは、跡形もなく消えていた。Xで「金剛菩提」を検索しても、アカウント自体が存在しない。YouTubeの動画も、チャンネルごと削除されている。


 情報が、消されている。


 いや、情報を発信した者たちが、消されている。


「まずい……」


 震える手でスマートフォンを操作し、担当作家のリストを開く。新進気鋭の女性ホラー作家、朝霧(あさぎり)(しずく)。彼女には、これまでの資料をすべて渡し、新作の執筆を依頼していた。


 ――記録として残すために。


 電話をかける。呼び出し音が続くが、出ない。


 メッセージを送る。既読にならない。


 嫌な予感が、確信に変わっていく。


「すみません、ちょっと外出してきます」


 上司に告げて、編集部を飛び出した。


 朝霧雫のマンションは、神楽坂から電車で20分ほどの住宅街にある。築5年の小綺麗なワンルームマンション。セキュリティもしっかりしている。


 インターホンを押す。応答がない。


 管理人室を訪ね、事情を説明する。作家が締切前に連絡が取れなくなることは珍しくない。管理人も心得たもので、マスターキーを持って一緒に部屋へ向かってくれた。


 305号室。


 ドアの前に立った瞬間、高林は異変を感じた。


 ドアの隙間から、微かに潮の匂いが漂ってくる。


 海から離れた東京の住宅街で。


 管理人がマスターキーを差し込む。


 その瞬間、高林の脳裏に、昨夜見た情報の断片がフラッシュバックした。


 封印。忘却。そして拡散する情報。


 彼らは皆、真実に近づきすぎた。

 そして今、自分も――。


 ドアが、ゆっくりと開いた。


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