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東京の西に関する、いわゆる怪異の断章  作者: 藍沢 理
第6章 情報の拡散

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第2話 Xのスペース

Xスペース「西部の怪異を仏教的に考察する」


ホスト:@Vajra_bodhi123(金剛菩提)

リスナー:3,892名

録音時間:2:34:15

金剛菩提:


「みなさん、今宵は少し視点を変えてお話ししましょう。この東京という都市が、いかに強力な霊的結界の上に成り立っているか、ご存知ですか?」


リスナーA:

「パワースポットとか、そういう話ですか?」


金剛菩提:

「ええ。ですが、もっと巨大なスケールの話です。徳川家康が江戸に幕府を開いた際、天海僧正の助言のもと、都全体に『四神相応』の結界を張りました。古代中国の風水思想に基づく、最強の地勢です」


リスナーB:

「四神…青龍とか玄武とかの?」


金剛菩提:

「その通り。北に山を配し玄武となし、東に川を流し青龍となし、南に海や平野を開き朱雀となし、そして西に大きな道を走らせ白虎となす。江戸、すなわち東京は、北の富士山を玄武、東の隅田川を青龍、南の江戸湾を朱雀、そして西の東海道を白虎として設計された、完璧な呪術都市なのです」


リスナーC:

「それが、西部の湖と何の関係が? 最近の連続失踪事件も、その白虎と関係が?」


金剛菩提:

「まさしく。今回の怪異の中心地、奥多摩の湖。あれは、四神の結界の西――白虎の方角に打ち込まれた、巨大な『楔』なのです。白虎が司るのは『道』。人や物資、そして現代で言えば『情報』の流れです。その流れを清浄に保つための要石が、奥多摩にあった。しかし、その楔が今、内側から腐り始めている」


リスナーD:

「腐り始めている…?」


金剛菩提:

「白虎の力が弱まり、道が穢れ、水底に封じられていた『情報』が漏れ出しているのです。失踪者たちが見せる奇妙な症状…水への異常な執着、皮膚に浮かぶ地図のような幾何学模様、水音から声が聞こえるという幻聴…あれらは皆、汚染の初期症状です」


リスナーE:

「汚染、ですか」


金剛菩提:

「『それ』は純粋な情報体。物理世界に干渉するには、人間の脳という生体CPUを『器』として乗っ取る必要がある。失踪者たちは、器としての適性を見出され、呼び寄せられているのです。彼らが遺す奇妙なメモや図形は、汚染された情報が脳から漏れ出した痕跡に他なりません」


リスナーF(新規参加):

「失礼、途中参加ですが、私、仏教学者です。その情報体というのが、先日あなたが言及していた『水底金剛』のことですか? そんな経典、聞いたことがありませんが」


金剛菩提:

「表の経典にはありません。江戸時代、ある事件の後に幕府が焚書にした『異端経典』にのみ記されています。水底金剛とは、白虎の道を逆流し、情報を汚染する情報生命体。ダムの水圧ごとき物理的な封印では意味がない。本当の封印は、四神の力を利用した巨大な呪術装置と、人々の『忘却』だったのです」


リスナーG:

「その呪術装置とは?」


金剛菩提:

「かつて小河内村に伝わっていた『縛地神楽』。あれこそが、四神の力を借りて土地そのものを縛り、情報を封じ込めるための儀式でした。しかし、ダム建設と共にその神事は途絶えた。守り手も、その意味も忘れ去られてしまった」


リスナーH:

「なぜ、今になってその封印が…?」


金剛菩提:

「白虎の道、つまり現代の情報網…インターネットが、忘却という封印を破壊したからです。我々がこうして語り、記録し、拡散する行為そのものが、汚染を東京の中心部へと引き寄せている。白虎の道を逆流して…」


リスナーI:

「じゃあ、このスペース自体が…ヤバいんじゃ…」


金剛菩提:

「しかり。我々は皆、怪異の拡散に加担している。そして『それ』は、より効率的な拡散と処理のため、最適な『器』…つまり、散逸した情報を収集し、再構築できる能力を持つ者を探している…」


リスナーJ(警告音と共に参加):

「おい、このスペース監視されてるぞ! 俺のIPアドレスに不正アクセスの形跡が!」


金剛菩提:

「予想通りです。白虎の道を逆流してきたのでしょう。新たな器が見つかったのかもしれない…もはや手遅れ…」


[突然の大音量ノイズ]

[複数の参加者が同時に切断]


残された参加者K:

「金剛菩提さん? 誰か聞こえる?」


[応答なし]

[スペースは自動終了されました]

[録音データは破損しています]


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