第4話 情報統制
「申し訳ないが、これ以上君に協力する時間はない」
桐野の言葉は、有無を言わせない響きを持っていた。
蓮見教授は身を乗り出した。
「しかし、私の教え子が命を懸けて――」
「分かっている」
桐野は手で制した。
「失踪者はすでに、公表の5倍を超えている。パニックを避けるため、我々は必死なんだ」
桐野は立ち上がり、窓の外を眺める。穏やかな午後の霞が関。日本。その平穏を守ることが彼の仕事だ。
「報道管制も限界に近い。地方紙には怪死事件の記事が載り始めている。ネットでは様々な憶測が飛び交っている。もし真実が露見したら――」
「社会不安どころではないな」
「インバウンドへの影響、不動産価値の暴落、そして何より、説明不可能な現象への恐怖がもたらす混乱。我々はそれを防がねばならない」
桐野は振り返った。その顔には、国交省トップとしての責任の重さが刻まれていた。
「すまない、壮介。君の気持ちは分かる。だが、今の私にできることは限られている」
蓮見は立ち上がりかけたが、桐野が制した。
「ただし――」
桐野は、一枚の名刺を差し出した。
「彼なら、力になってくれるかもしれない」
名刺には「陸上自衛隊 特殊作戦群 伊吹健人 三等陸佐」とあった。
「自衛隊?」
「災害派遣の名目で、すでに現地周辺に展開している。表向きは土砂崩れへの警戒だが、実際は『W-7』への対処部隊だ」
「自衛隊が動いているのか」
「正確には、ある特殊な任務を帯びた部隊だ。詳しくは彼に聞いてくれ」
桐野は握手を求めた。
「気を付けろ、壮介。君の教え子が証明したように、あれは人間の理解を超えた何かだ」
桐野の手は、微かに震えていた。




