第2話 同窓の再会
ランプの灯りが、古い手帳のページを照らしている。大学時代から使い続けている革表紙の手帳。ページをめくる指が、一つの名前で止まった。
桐野圭吾。
東大法学部の同期。卒業後は建設省――現在の国土交通省に入省し、順調に出世していると風の便りに聞いていた。もう30年以上会っていない。
だが、この件を相談できる相手となると、彼しか思い浮かばない。
黒電話の受話器を取り上げる。今どき珍しい回転ダイヤル式。研究室に置いているのは、デジタル機器を嫌う彼の性分ゆえだ。
ダイヤルを回す。一回転ごとに、ジリジリという機械音。この音でなければならないのだ。
呼び出し音が三回鳴った後、低い男の声が応えた。
『はい、桐野です』
「夜分に申し訳ない。東大の蓮見だ」
一瞬の沈黙。
『……もしかして壮介か?』
声に驚きの色が混じる。
「ああ。本当に久しぶりだな、圭吾」
『三十年ぶりか。どうした、こんな時間に』
蓮見は言葉を選んだ。電話で話すには複雑すぎる内容だ。
「実は、相談したいことがある。できれば直接会って話したい」
『……よほどの事情のようだな』
桐野の声が真剣になった。
「教え子が一人、亡くなった。その死に方が尋常ではない。そして、彼が遺した資料も」
『分かった。明日の午後なら時間が取れる。場所は?』
「そちらに伺う。霞が関なら、私も行きやすい」
『2時に本省の喫茶室で。2階だ』
「ありがとう」
受話器を置いた後も、蓮見の脳裏には久坂部のメールがこびりついて離れなかった。
何かを封印するための巨大な蓋。
その言葉が持つ含意に、彼の背筋が冷たくなった。




