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東京の西に関する、いわゆる怪異の断章  作者: 藍沢 理
第1章 関東某所での怪異

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第2話 日記 4月7日

 会社の昼休み、同僚の高浜から奇妙な話を聞いた。


「最近さ、関東の西の方でハイキング客が次々と行方不明になってるらしいよ」

「山での遭難?」

「それがさ、おかしいんだよ。無事に発見された人たちが、みんな同じこと言うんだって」


 高浜は声を潜めた。


「みんな口をそろえて『水の音が呼んでいた』って」


 背筋が冷たくなった。四日前から聞こえる、あの水音のことを思い出す。しかし高浜には何も言わなかった。


 仕事を終えて帰宅する途中、いつも通る公園に差し掛かった。小さな公園で、中央に噴水がある。普段は子供たちで賑わっているが、今日は妙に静かだ。


 足を止めた。


 噴水の周りに人が立っている。五人、いや六人。全員が噴水に向かって立ち、じっと水面を見つめていた。老人、主婦、学生、会社員。年齢も性別もバラバラだが、全員が同じ姿勢で微動だにしない。


 近づいてみる。彼らの顔は無表情だ。目は開いているが、焦点が合っていない。そして――。


 喉の奥から、奇妙な音が聞こえた。ゴボゴボという、水が逆流している音。六人全員の喉から、同じ音が響いている。噴水の水音と重なって、不協和音を奏でる。


 公園から逃げ出した。振り返ると、彼らはまだ同じ姿勢で立っている。夕陽に照らされた噴水の水が、血のように赤く見えた。



 家に帰ってパソコンを開く。「関東西部 失踪事件」で検索すると、予想以上の件数がヒットした。ここ一ヶ月で、実に二十三件。報道されているのは氷山の一角らしい。


 気になる記事を見つけた。地方紙のウェブ版。


『失踪者に共通する奇妙な証言。「湖に帰る」と言い残し姿を消す』


 湖? 関東西部に大きな湖があったかとパソコンで地図を開く。いくつかダムはあるが、特に目立つものはない。


 ふと、窓の外を見た。


 噴水の前に立っていた六人のうちの一人が、アパートの前に立っていた。主婦らしき女性だ。こちらを見上げている。いや、正確にはこちらを「見て」いるわけではない。焦点の合わない目で、ただ上を向いているだけだ。


 カーテンを閉めた。


 耳鳴りがひどくなってきた。水音も大きくなっている。部屋の中なのに、川のせせらぎに囲まれている感覚だ。


 眠れない夜が続く。


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