夕餉
夕餉の時間となり、1階の居間に降りる。
2人の食事は当たり前みたいに同じテーブルに向かい合わせで用意されてた。
「あの…なんで…?」2人同時に質問する。
「私らは今の間に食堂の片付けしたり風呂入ったりするから忙しいのよ。
後は2人で給仕したり、お酒は冷蔵庫に入ってるから
勝手に出して飲んで。
扉のメモに書いといてくれたら精算するから〜」とおばあちゃんはお風呂へ。
おじさんは台所の片付けに追われている。
食べ終わったら、流しにそれ専用のオケがあるので軽く流して漬けて置くように書かれていた。
おばあちゃんがお風呂から上がってから洗い物するようだ。
2人だけで民宿を回せるように工夫されてる。
なので、食事中は優と淳でお互いのお世話係兼話し相手になるしかないようだ。
『どうしょう…動画見てしまうと…』声聞くとあのアニメのキラキラ騎士が浮かんでしまって、
前にいる普通の男の子とのギャップで自然と顔が!
「…どうしたん?顔が気色悪いで?」優が心配そうに顔を見る。
「ゴメン!なんか自然と顔が…」淳は顔を背けた。
優の箸が止まる。
「…見たな?」優がにらむ。
「ゴメン…つい…」後ろを見ながら顔がくずれる。
「ああ〜、どうせ旅先だけやし。関わりそんなに無いと思って!言わな良かった〜!」頭を抱えて後悔した。
「まあ、気にしないで!私も忘れる努力するから!ねっ?」と言いながらビールを優のコップについであげる。
まだ、顔はヘラヘラしたままだが。
「あ〜っ、嫌だ〜っ!忘れてくれ〜!」と半泣きの顔になりながらビールを一気に飲んだ。
優はお酒に弱かった。
それに淳に飲ませて忘れさせなきゃいけないのに自分が飲んで現実逃避してしまった。
淳は全く酔わない体質だ。
お酒でストレス発散できれば、もう少し楽だったかも?
まあ田舎なのでお酒飲みに行っても帰りは車を運転しなきゃいけない。
田舎の男は平気で車運転する奴が多いが、淳はそれもなんか気に食わない。まだ中国人が使う白タクの方がマシだと思う。
都会のお兄さんの優は綺麗に沈んでいる。
確かお風呂はご飯の前に入っていたので、このまま居間に寝かせておいても良いが…
おじさんは片付けが済むと車で自宅に帰って行った。
多分近くに家族で住んでるのかも?
おばあちゃんはお風呂から上がって洗い物を済ますと自室にこもったようだ。
田舎なので玄関は当たり前のように鍵は掛かっていない。
テーブルを拭いてふきんを洗い流しに掛けておいた。
全部説明文が貼ってあるので助かる。
後は大きな男をどうやって2階に上げるか?
優の頬を軽く叩く。
「ねえ、ここで寝ちゃダメだよ?迷惑なるから上に行こう?」と声を掛けたが「はなかやまなは…」と言っただけでまたイビキをかいてる。
「さあ、行くよ!」体格差はそんなに無い。多分体重もそんなに変わらない気がするので肩に担いでみた。
いつも美術品を担ぐ事もあるので重い物は慣れてる。
学芸員は人が思う以上に肉体労働だ。
結構軽い。やはり若いから無駄な脂肪が少ないのだろう。
階段下までは何とか運べた。
少し休憩してから両脇に手を入れた。
「さあ、頑張って〜騎士アフロディア!」身体が一瞬ビクッと反応した。
忘却の国に攻め込まれて姫様を奪われているらしい。姫様がすべてを忘れて魔王の花嫁にされる前に助け出すのが騎士アフロディアの使命なのだ。
しかし、騎士は夢の中だ。
「ほら!頑張らないと姫様奪還できないよ!」力を込めて引き釣りあげた。
途中で止まるとズルズル落ちていくので一気に引っ張り上げた。
「ハア〜ッ!」もう疲労困憊で2階の廊下に倒れて一歩も動けない。
まだお風呂に入ってないので行きたいけど、もう絶対ムリだ!
ここまで上げておけば、もう部屋まで運べなくても良いだろう。
部屋の襖を開けて廊下に寝かして、淳も自分の部屋へ入ろうとした時、足がもつれて倒れそうに。
さすがに60kgをこんだけ移動させたら、もう足腰もヘロヘロだ。
何とか片足で踏ん張って倒れるのを免れた。
が、何か柔らかい…その中がグリグリと塊がある…丸いボールみたいな…
「ギャアアアアアアアーーーーッ!」この世のものと思えない悲鳴が民宿に響いた。