短パン
1周歩いても20分掛からない小さな島である。
鬱蒼とした木々を抜けてすぐに山頂の社に着いた。
「エエなあ〜この雰囲気。
ああ〜撮影したかったなあ〜」優が凹んでいる。
その姿もほくそ笑みながら淳は撮影する。
島に着いたのでジーパンも脱ぎ捨てて、今は短パン一丁である。
この太もものスカスカ感がたまらない!
風も股から入ってきて爽快だ。
こんな姿でこんな風景の中を歩けただけで、もう島に来た目的が達成された気分だ。
美術館では下着にガードルにパンツスーツだ。
脚立を使う事も多いのでパーティーラインが出るとすかさず館長から指摘される。
本当に失敬なんだが、あちらは誘ってるのか?的な発言をしてきて
はあ?となってしまう。
だからガードルはどんなに暑くても履かなくてはいけないのだ!
「あ〜っ、うぜぇ」思い出すだけで鬱陶しい。
短パンでしゃがんでもとやかく言われない。
パンツ見えても騒ぐ方がバカなのだ。
夏なんだから涼しくさせてくれよ!本当に!
「何、ニヤニヤしてんの?」優が指摘する。
「ううん、短パンはやっぱり気持ちいいなあ〜と思って。」淳が笑う。
「島なんだから当たり前やん。変なの。」優は年下なせいか変な勘ぐりしてこなくて楽だ。
淳がしゃかんで携帯撮ってるから、多分パンツ見えてるだろうが何も気にしてない。
「アートの島とかインスタでは騒いでたけど、港に1個モニュメントあっただけやな。
まあ、有名な斑点のカボチャやったけど。」優が思い出したように話す。
確かにデカいのあったが、優とケンカするのに忙しくて見落としてた。
「アンタ、アレを撮影しに来たんじゃないの?良かったの?撮影しなくて?」淳が聞く。
「ああ〜僕はインスタグラマーちゃうし。
それよりこの島の伝承や因習に興味があって来たの。
まあ、さっそくカメラ取り上げられたけど…」優が凹む。
「この社の欄干見てや。神様がおるで。」優が指差す。
欄干に雲に乗った神が浜辺に降りてくる彫刻がされてる。
それを海の魚達が歓迎している。
「これはイルカや!多分ずっと昔からこの島はイルカと共存しながら生活してたんや。」優が説明する。
「ハワイなんか行かなくても東京でイルカと触れ合えるのに、全然宣伝して来なかったんだね〜この島は。」
なんか不思議な感じかする。
「多分、奈良の鹿みたいなもんで、ここのイルカは神の使いみたいな扱いなんかもなあ〜
ドロフィンタッチも厳禁やし。
だから観光資源にはされたくないんやろ。」
優が説明する。
「そうか!だからリゾート開発もイルカには触れてないのかもね。
アート推しだけど、騒いでるのはリゾート開発とインスタグラマーだけみたい…現地来たら。」淳もインスタグラムを見て来たのだが、現地来たら全く違うなあ〜と感じる。
厳かで静かな宗教的な空気がある島だ。
まあ、だからインスタは盛り上がってるが、島にそんなに人は降りなかったはずか!
ヘリの音がする。
「さあ、観光客が来るぞ〜まあ、モニュメント撮影して満足して帰るだろうが。」優がちょっと嫌味っぽく笑う。
淳もモニュメント見て写メるためだけに三蔵島に来たのだが。
結局まだ1個しか見てない。撮影もしてない。