Vチューバー
「君、1人?珍しいね〜」深夜の甲板で見送りのテープや涙の見送りの中、ボーッと離れる陸を見てるのは目立ったのか?
フード被ったマスクのいかにも怪しい男が声を掛けてきた。
三脚やカメラや保冷バッグや機材まみれの男だ。
「1人旅なんて珍しくないですよ、今時。
そちらも1人じゃないですか?」そう男の周りには誰もいない。
「でも、今ざっと見た感じやと僕らだけちゃう?」と男が後方を促す。
確かに人ごみを離れて暗がりでヒッソリ陸を見てるのは2人だけだ。
「なんですか?自殺でもするんじゃないかと心配してます?しませんよ。」デッキにもたれながら淳はうそぶく。
「そんならエエけど。深刻そうな顔してるから。」フードを取った男はマスクも外した。
思ったより若いハツラツとしたお兄さんだった。
『え〜っ、絶対私より一回りくらい下じゃないか?』淳は驚く。
「君〜どの島行くの?同じ島なら一緒に降りよな。」彼が手を差し出す。
「本当に死なないから!飛び込んだりしませんて!」言ったがあまり信用してないみたい。
手すりにもたれる淳の手を掴んで甲板中ほどまで引いた。
船の揺れで勢い余って男の胸に飛び込んでしまった。
そんなに大きくないのか?顔がキスする近さまで近づいて、
「うわわわわわっ〜!!!」と淳はまたデッキの手すりまで後ずさりする。
「ほら?飛ぶ気なくても揺れたら船から投げ出されるよ。危ないから。」ジャンクな関西弁のお兄さんが淳の手を引いた。
離岸したてなので、とにかく揺れる。
「まだ東京湾内なのに!」レインボーブリッジの下をくぐって、次はゲートブリッジが先に見える。
しばらく船が安定するまで関西弁のお兄さんは、淳の腰に手を回して2人は、2つの輝く橋を見あげながら遠ざかる東京の夜景を見つめた。
「もう…大丈夫だから…」淳は照れくさくなってお兄さんの肩を押して離れた。
「…あの機材は?」荷物いっぱいだったお兄さんが持ってないことに気付く。
「あっ…あーっ!!」機材達は甲板を転がって散らばってた。
淳も手伝って機材を集めた。
2人で顔を見合わせて笑う。
「もっと東京湾って大人しいかと思ってた…結構しっかり海…」淳が笑う。
「ホンマに」関西弁のお兄さんも笑った。
彼は木下優と言うらしい。
「へーっ、淳ちゃんは学芸員さんなんやあ〜」優は驚く。
「そういう仕事もあるんやなあ〜?」機材を流れない場所に置いて2人は話す。
「優くんは?」明らか年下だし、フランクなのですでにタメ口で淳も話す。
「僕?え〜っと、う〜ん、上手く言いにくいなぁ〜」と頭をかく。
「カメラマンとか?フリーの?」機材から何となく推測する。
「いや、いつもはこんなに持ち歩かへんねん。籠もる仕事やし。」機材が甲板を流れて傷んでないか?確認しながら優が話す。
「こもる?」淳が首をかしげる。
「う〜ん、そや!動画配信者とか分かる?」淳の顔をのぞき込む。
「うん、エミリンチャンネルとか見てるし〜
恐いゲームするのは恐いけど、人がしてるの見るの好きだからキヨさんとかガッチマンさんとか見てるよ。」淳がベッドで瀕死状態で見てる動画達の話をする。
「それでさ、漫画とかアニメの顔の人とかいない?」優が聞く。
「あっ、たまにいる!スゴいよね。たまに身体動く人とかいるよね。あれ、どうなってるの?」淳も見かけた事はある。
「そう、あれの中身の人なんだよ。僕。」優が自分を指さした。
「え〜っ、じゃあ、ゲームしたりトークしたり?」淳が笑って聞く。
「歌ったり踊ったりもするよ…」優がはにかんで答える。
「スゴいね!何でも出来ないといけないの?」淳はイマイチ分からないまま聞く。
「いや、人それぞれ。」優がなぜか照れながら話した。