ミニマリストだけど幼馴染の機嫌が悪いせいで部屋を散らかしてくる
俺の部屋には何もない。
ベッドもなければ、余計な家具もない。あるのは布団と最低限の生活必需品だけ。
……だったはずなのに。
「おい、ひなた。なんで俺の部屋にこんなに物が増えてるんだ?」
床には俺のじゃないクッションが転がり、更に無造作にひなたのヘアゴムやスマホ、謎の小物が散らばっている。挙げ句の果てには、コンビニの袋まで放置されていた。
「別に〜? ちょっとここに置いただけ〜」
ひなたは布団の上でだらしなく寝転がり、スマホをいじりながら適当に返事をする。
「ちょっとってレベルじゃないんだが」
「颯斗ってさ、ほんっと何にもない部屋だよね。つまんなくない?」
「つまるとかつまらないの問題じゃなくて、必要ないから置いてないだけだ」
「ふぅ〜ん?」
ひなたはスマホをいじる手を止めると、唐突に部屋に一つだけ備えられた棚の扉を開け始めた。
「おい、何してんだ」
「別に〜? ちょっと部屋の整理でもしようかなーって♪」
「俺の部屋を勝手に散らかすな」
「じゃあ、私の機嫌を直してくれたらやめてあげる」
ひなたは俺を睨むでもなく、どこかふてくされたような態度でそう言い放つ。
「……は? お前機嫌悪いのか?」
「分かってなかったの!?」
「知らんわ」
「はぁ……颯斗ってほんと鈍感だよね」
ひなたは大きくため息をつきながら、ついに俺のクローゼットまで開けようとし始めた。
「おい」
「ムッスゥゥ」
「いや、怒るのはお前じゃなくて俺の方だろ」
「……ちっ」
ひなたは舌打ちしながらクローゼットの扉を閉め、また布団に寝転がる。
「で? 何が不満なんだよ」
「……別に?」
「いや、別にって態度じゃねえだろ」
「……」
ひなたはスマホをポチポチしながら、何かを考えている様子だったが──やがて、ぼそっと呟いた。
「……美月さんと仲良さそうにしてた」
「……は?」
「昨日、ゴミ出しのときに話してたでしょ? 美月さんと」
「いや、話すだろ普通に」
「ふ〜ん?」
ひなたの視線が妙に冷たい。
「それで? 何を話してたの?」
「いや、ゴミの分別ルールがどうとか……」
「それだけ?」
「それだけだ」
「ふ〜〜ん?」
ひなたはまたスマホをいじり始めたが、明らかに機嫌が悪いのが分かる。
──つまり、俺が美月さんと話してたのが気に入らなかったらしい。
「……お前、まさか嫉妬してるのか?」
「は!? ばっ、バカじゃないの!? そ、そんなわけないでしょ!!」
「いや、どう見てもそうだろ」
「そ、そんなわけ……ないもん……」
ひなたは俺から目を逸らしながら、ポイッとヘアゴムを投げ捨てる。
「だから散らかすな」
「はぁ!? これくらいでミニマリストぶるな!!」
「いや、ぶるとかじゃなくて俺の部屋だからな」
「だったら、もう私の部屋にすればいいじゃん」
「意味が分からん」
「颯斗が悪い!!」
「俺が悪いのか!?」
そう言うや否や、ひなたは俺の布団の上でゴロゴロと転がりながら、また小物をあちこちに放り出す。
「おい、やめろ。片付けるの俺なんだからな?」
「片付けたくないなら、そのままにすれば?」
「そういう問題じゃない」
「だったら、私の機嫌を直せばいいんじゃない?」
「……はぁ」
結局、俺はひなたの機嫌を直すためにアイスを奢らされることになった。
──そして、帰ってきたときにはさらに俺の部屋が散らかっていた。
「なぜ増えている」
「私の部屋も、そろそろミニマリスト化しようかな〜って♪」
「それでなぜ俺の部屋に物を増やす」
「捨てるのやだから、ここに置いておくの」
こいつ……本当にただの嫌がらせじゃねえか。
「……おい? パンツ落とすな!」
「きゃあああああ! 何で私のパンツがこんなところに4枚もあるの!?」
俺のミニマリスト生活は、今日も波乱に満ちていた。