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ミニマリストだけどドライヤーっている?

 夏休み2週間目。問題が発生していた。金がない。


 訳あって、ひなたのカフェ巡りの支払いを全て俺がしているせいである。


「う〜ん。売るものなんてそもそも無いし、やっぱりバイトするしか無いかなぁ……」


「バイトするの?」


「そうだな……は?」


 振り向くと、俺の布団を勝手に敷いて、うつ伏せで足をばたつかせながらスマホを触るひなたの姿があった。


「うん?」


「何でいるんだよ。いつからいたんだ?」


「私のパンツを握りしめていた所から」


「そんなことは断じてしていない……おい?」


「ん?」


 布団の片隅に、何かが落ちている。いや、あれは明らかにパンツ。青と白のシマシマパンツだ。


「パンツをわざと置くな」


「え? いやぁあああ」


 ひなたはアヒル座りになり、ムンクの叫びのようなポーズを取った。


 ちなみに、凄い棒読みである。


「おい」


「なんで布団にパンツが落ちているの!?」


「お前が設置したんだろ?」


「そんなことしないよ! 誰のパンツなの!?」


「お前しかいないだろ」


「私こんな小学3年生みたいなパンツ履かないよ!」


「知らんがな」


 俺は落ちていたパンツを指でつまみ上げ、ひなたに突きつける。

 

「とにかく、証拠隠滅しとけ」


「えー、やだ」


「やだ、じゃねぇよ」


「だって私のじゃないもん」


「じゃあ誰のだよ」


「……颯斗の?」


「俺が履くわけないだろ!!」


「でも、私のじゃないもーん」


「じゃあメ◯カリでこれ売るぞ」


「えええっ!? ダメダメダメ!! 規約違反だよ!!」


「そっちかよ……」


 ひなたは慌てて俺の手からパンツを奪い取ると、大事そうに抱え込んだ。


「なんで必死なんだよ……」


「え? いや、これは……その、もしかしたら私のかもしれないし……」


「さっきまであんなに否定してたくせに」


「ま、間違えて持ってきちゃったのかも!」


「そんなことある?」


「あるの!! 女の子のパンツ事情を甘く見ないでよ!」


「……もういいから、さっさと持って帰れ」


「えへへ、じゃあありがたく回収させていただきます〜」


 ひなたはパンツをくるくる丸めてポケットに突っ込むと、何事もなかったかのように布団に寝転がり、スマホをいじり始める。


「……それで、お前は何故俺のTシャツを着てるの?」


「駄目?」


「俺はシャツも最低限しか持たないようにしてるから、勝手に着られると困る」


「今すぐ脱げと!?」


「下は着ているだろ?」


「ううん。さっき来る時に汗かいたから、洗濯機に入れた」


「お前の家からここまで1分もかからんだろ」


「いや、寝巻きだから。寝汗が結構ね……」


 そういえば、ひなたの長い黒髪は少しボサボサで、寝起きって感じではある。


「わかったよ」


「じゃあ、お風呂入るねー」


「着替えあるの?」 


「そうじゃ無いとお風呂入れないよ〜」


「じゃあ、Tシャツ返せよ」


「もう着ちゃったから……」


「まあ、まだ大丈夫だろ。Tシャツ返せ」


「……やだ。だって……汗が……その」


「何だよ」


「……ノンデリカシー」


 ひなたはそう言って、風呂場の扉を勢いよく閉めた。

 

###


 シャワーの音が響く。


 俺は布団に座り、スマホをいじりながら溜息をついた。


「……なんで俺の部屋に入り浸ってんだ、あいつ」


 まるで自分の家かのように当然のように風呂を使い、俺のTシャツを着て、俺の布団に寝転がる。


 最初は「忘れ物」程度だったのに、今や完全に「居座り」になりつつある。


「……まさか、このまま住み着く気じゃないだろうな」


 ──いや、ひなたならあり得る。


 何なら「もう住んでる」くらいの感覚でいる可能性すらある。


「……はぁ」


 俺はスマホを置き、部屋の隅に目をやった。


 ひなたが持ち込んだ荷物は、以前に比べて確実に増えている。


 化粧ポーチ、ヘアブラシ、着替えらしき袋、何故か置かれたスリッパ。


 ミニマリストの俺の部屋に、徐々に物が侵食してきている。


 ──このままではまずい。


 俺がそう思い始めた頃、風呂場の扉がガチャッと開いた。


「ふぅ〜、さっぱりした!」


 ひなたが出てくる。


 俺のTシャツは相変わらず彼女の体にゆるくフィットしていて、少し裾を引っ張る仕草が妙に自然だった。


「ねぇ、颯斗〜、ドライヤー貸して?」


「持ってない」


「……うそ?」


「本当だ」


「えっ、だって普通あるでしょ?」


「普通がどうかは知らんが、俺にとっては不要だからな」


「……いやいやいやいや、女の子にとっては必要だから!!」


「お前の部屋にあるだろ。帰って乾かせ」


「え〜、このまま帰ったら風邪ひいちゃうよ〜」


「知らん」


「じゃあ、乾くまでここにいるね♪」


「……」


 これ、絶対に帰る気ないだろ。


「ねぇ、颯斗」


「なんだ」


「お腹すいた」


「帰れ」


「やだ」


 ひなたは俺の布団に再びダイブすると、スマホをいじりながらゴロゴロ転がった。


「髪の毛痛むぞ」


「あ、◯mazonでドライヤー注文しとくね。7980円」


「おい、バカ! 辞めろ!」


 ──俺の部屋のミニマリズムは、確実に侵食されつつある。

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