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ミニマリストって物欲は無くても性欲はあるんだね⭐︎

「ミニマニストって、結婚したらお嫁さんにもミニマニズム強制するの?」


「その時になってみないと分からないな」


 夏休み初日、午前9時11分、天気は快晴だった。


 俺は幼馴染の橘ひなたと並んで駅前のアーケードを歩いている。


 ひなたは白いノースリーブのブラウスに、淡い水色のフレアスカートという夏らしい爽やかな格好をしていた。

 肩からかけた小ぶりなショルダーバッグはシンプルなデザインながらも、どこか上品な雰囲気を漂わせている。

 足元は軽やかな白いサンダルで、歩くたびにペディキュアを塗った指先がちらりと覗く。


 一方の俺は、黒のTシャツにベージュのハーフパンツという、限りなく無駄を省いたシンプルな格好。

 鞄すら持たず、ポケットにスマホと財布を突っ込んだだけの完全装備だ。


「……なんだ? ジロジロ見て」


「いや、颯斗って本当に“らしい”服装するよね」


「お前が派手すぎるだけだろ」


「どこが派手なの!? むしろシンプルかわいいでしょ?」


「……まぁ、派手ではないか」


「でしょー? 下着はね〜」


「言わんでいい」


 そんなたわいもない会話を交わしながら、俺たちは目的のカフェへと向かっていた。


「……肌、出し過ぎじゃないか?」


 俺は何気なくひなたの服装を見ながら言った。


「えー? 別に普通じゃない?」


 ひなたは自分の肩を指でつつきながら、軽く首をかしげる。

 確かにノースリーブのブラウスは品のあるデザインだけれども、普段Tシャツやパーカー姿のこいつを見慣れているせいか、やたらと露出が多く感じる。


「普通……か?」


「そうそう、むしろ颯斗が気にしすぎ! ……もしかして、意識しちゃった?」


「するわけない」


「ふーん?」


 ひなたはニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくる。


「ほら、赤くなってる〜」


「なってない」


「なってるってば。そんなに見たかったら、もっとしっかり見てもいいよ?」


「冗談は顔だけにしろ」


「ひどっ!?」


 わざとらしくショックを受けたふりをしながら、ひなたは小さく笑った。


「まぁ、颯斗がそんなこと言うってことは……私、ちゃんと女の子として見てもらえてるってことかな?」


「…………」


「ふふ、黙っちゃった。効いてる、効いてる」


 めんどくさいことになりそうなので無視して歩き続けると、ひなたは肩をすくめながら俺の横に並んだ。


「でもさ、颯斗ってほんと分かりやすいよね。興味ないことには一切反応しないくせに、ちょっとでも意識したらすぐ分かる」


「そんなことはない」


「あるある。たとえば――」


 ひなたが俺の腕にそっと触れた。


「……ほら、ちょっとびくってした」


「してねぇ」


「してたってば〜。ほら、もう一回触ってみよっか?」


「やめろ」


 俺が手を払うと、ひなたはくすくす笑いながら前を向いた。


「他にも、白いパンツとか――」


「やめろ!」


「トラウマになったの? ていうか、私のパンツ見慣れているのにこの程度の露出でドギマギするのおかしくない?」


「ドギマギって何だよ。……ただ、日焼けに弱そうな真っ白な肌だから、心配してやっただけだよ」


「白いパンツに白い肌が好きなんだね。白好きすぎない?」


「もう、辞めて!」


 俺がそう言うと、ひなたはまたくすくすと笑った。


 ###


 駅近の落ち着いた雰囲気の店だった。あまり大きい店ではなかったが、休日は列ができる人気店らしい。今日は運良く空いており、すぐに入店できた。俺は目についた店内の窓際の席に座る。


「ここ先にカウンターで注文だよ」


「先に言えよ、大恥かいたわ」


 俺はカウンターにいるひなたの隣に歩み寄る。


「何にする?」


 手元の注文表を見せてくれる。……結構高いな。


「俺はアイスコーヒーかな」


「んー、私はアイスカフェラテとプリンとチーズケーキ!」


 注文を済ませると、すぐに飲み物を用意してくれた。それを持って、窓際の席に戻る。

 席に座ると、ひなたはストローの袋をくるくると指で弄びながら、じっと俺を見てきた。


「……なんだよ」


「さっきの話の続き、聞きたいなーって」


「続き?」


「結婚したら、お嫁さんにもミニマニズム強制するの?」


「だから、その時になってみないと分からないって言っただろ」


「でもさ、颯斗ってほんとに徹底してるじゃん?  もし私がお嫁さんになったら、私の服とか全部捨てられちゃうのかなって思って」


「…………」


「それとも、好きな人の持ち物なら許せたりする?」


「……お前が本当に大切にしてるものまで捨てろとは言わない」


「え?」


「俺がミニマリストなのは、俺自身の生き方の話だ。お前に強制するつもりはない」


 俺がそう言うと、ひなたは少し驚いたような顔をして、それからふっと微笑んだ。


「じゃあさ、それってつまり……」


「……何だよ」


「颯斗と一緒にいてもいいってこと?」


「……例え話だ」


 言葉に詰まった俺を見て、ひなたは小さく笑うと、ストローをくわえてアイスカフェラテを一口飲んだ。


「ふふっ、焦ってる焦ってる」


「……別に」


「でもさ、颯斗がそう言うなら、ちょっと安心したかも」


「何がだよ」


「だって、颯斗って本当に余計なものを持たない主義でしょ? 一緒にいたら住んだらちょっと嫌だなって思ってたから」


「……そうか」


「でも、私が大事にしてるものは捨てなくていいって言ってくれたし……」


 ひなたは、カフェラテの氷をストローで軽くつつく。


「結婚してあげてもいいわよ?」


「何で急に上から目線なんだよ」


「……ま、今は考えなくていいか!」


 ひなたは明るく笑いながら、カフェラテをまた一口飲んだ。


 俺も黙ってアイスコーヒーに口をつけた。


 氷がカランと音を立てる。


 夏の日差しが窓の外で揺れていた。


「ねえ、ミニマニストにとって、お嫁さんはいらないものじゃ無いの?」


「……子供は欲しいからな」


「へぇ……物欲は無くても性欲はあるんだね⭐︎」

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