ミニマリストだけど、幼馴染に反撃された
「颯斗~、ちょっといい?」
俺の部屋にいつものように上がり込んできた幼馴染の橘ひなたは、ニヤニヤしながら俺の前に立った。
その笑顔には、妙な自信がある。
……嫌な予感しかしない。
「なんだよ」
「ちょっとね、気になることがあるんだよね~」
ひなたはスマホを片手に、画面をスクロールしながら俺の目の前に突きつけた。
「はい、ここ見て!」
「……は?」
そこに表示されていたのは──
『藤崎颯斗 忘れ物回収記録』
……は?
「お前……何これ」
「私が颯斗の部屋に忘れた物の記録!」
「記録!?」
「そそっ! でね?」
ひなたはわざとらしく咳払いをすると、満面の笑みで俺を見つめた。
「あれれ~? おかしいぞ~?」
なんか始まったぞ……。
「私がパンツを忘れた回数は58回。ブラは18回。レギンスは7回」
まずい……。
「それで私に届けられたのが……」
「パンツ52回。ブラ18回。レギンス7回。」
「……」
「あれれ~? おかしいぞ~? 足りないな~?」
「…………」
部屋に静寂が訪れる。
いやいやいやいや、待て待て待て待て、落ち着け!!
「……ど、どういうことだ?」
「それはこっちのセリフだよ、颯斗くん?」
ひなたはじりじりと詰め寄りながら、俺の目をじっと覗き込んでくる。
「ねぇ、颯斗……もしかしてさ……私のパンツ、隠し持ってない?」
「ぶふぉっ!?!?」
俺は思わず吹き出しかける。
そんなバカな!?
「お、お前何言って──」
「だって、どう考えても6枚足りないんだけど?」
「知らん!!」
「えぇ~? 本当にぃ?」
「当たり前だ!! 何のためにお前のパンツなんか隠し持つんだよ!!」
「それは……ほら、ねぇ……?」
ひなたがティッシュ箱を見た気がする。
「……な、なんだよ」
「もぉ〜女の子に言わせないでよ! オカズなんて!」
O⭐︎KA⭐︎ZU⭐︎
「お前!? 何を言っている!?」
「だからぁ〜私のパンツを颯斗はオ・カ・ズにしたんじゃないの〜」
「そ、そんな訳あるか! パンツは多分間違えて捨てたんだろ?」
「いやいや、ミニマリストの颯斗が、そんなずさんなミスをするとは思えないなぁ?」
「うぐっ……」
確かに、俺はミニマリストだ。物の管理は徹底している。
だからこそ、ひなたの忘れ物を見つけたら即刻回収して返却してきた。
「お前の家にあるんじゃねーのか?」
「もう確認済みだけど、無かったよ! 白のパンツ6枚が何故か無くなってるの。純白のパンツだけが明らかに減っているんだけど、颯斗しらなぁ〜い?」
「……知らないな」
「私の純粋な純白で純潔のパ・ン・ツの居場所、本当に心当たりなぁい? あ、もしかしてもう純潔じゃ無くなっているのかなぁ……?」
「な、な、何を言ってるんだ」
「純白を浴びて、純潔を失い、純粋な白さを失った、過愛想を受けた可哀想な私の可愛いパンツたちは何処かなぁ?」
「……洗濯機の裏とか探したの?」
「探したよ。でも、探す必要も無かったな。だって、颯斗の部屋に忘れてきた時から見てないし」
「お前……」
「私のパ・ン・ツが6枚足りなぁ〜い。……あれれ? おかしいぞ〜。最初にこの部屋に来た時には無かった物があるな〜」
どや顔で言うひなた。
まじかよ……。
ひなたは俺が家具屋で厳選して購入した小さい収納カゴに目を向けている。
「さぁて、どうする颯斗くん?」
「……知らん」
「じゃあさ、颯斗の部屋、今から徹底捜索しちゃう?」
「やめろ」
「何か出てきたりしてね~?」
「……あり得ないよ」
「ほんと~?」
半歩詰め寄って、俺に身体を寄せてきたひなた。フローラルな香りがした。
俺は詰りよられた分、後退するが、ひなたは追い込みをかける狩人のようににじり寄ってくる。そして、ついに部屋の端まで追い詰められた。背中が壁につく。
「ひ、ひなた……」
ひなたは俺の胸を人差し指でゆっくりなぞる。
「ねぇ? もうすぐ夏休みだよね?」
「そ、そうだな」
「私、行きたいお店が沢山あるんだけどなぁ……スイーツ巡りしたいんだよねぇ……チラッ」
「そ、そうか」
「チラッチラッ」
上目遣いで俺を見ながら、胸元に描かれたTシャツの楕円を何度も人差し指でなぞる。
「……まあ、たまにはいいかもな」
「でもでも、私あんまりお小遣いなくてー」
「……好きなもの頼めよ」
「夏休み遊びに来てもいいよね?」
「……イイヨ」
「夏休みの宿題やってくれる?」
「……ワカッタヨ」
「うん。忘れ物回収記録を消去します!」
そう言ってから、ようやく俺から離れたひなたは、顎に人差し指を当てて、首を傾げた。
「ねえ?」
「なんだ?」
「ミニマニストの男の子って、女の子のパンツを持つことはその理念に反しないの?」
「……もう辞めて」