ミニマリストなのに、幼馴染が忘れ物を認めない
朝6時00分。
俺は、いつものようにシンプルな部屋の中で目を覚ました。
が──。
「……またある」
部屋の隅に、見慣れた布が落ちていた。
黒のレース。昨日と同じ。
「……はぁ」
俺はそれを拾い上げ、寝転がったまま天井を見上げた。
ひなたは、今日こそは何も置いていかないと言っていたはずだ。なのに、どうしてここに下着があるんだ?
「なぁ」
「ん~……? 朝ぁ……?」
床に寝袋で寝ていたひなたが、俺の声でむにゃむにゃと目を覚ました。
「お前、これ」
「……?」
まだ寝ぼけ眼のひなたの前に、俺は黒いレースの下着を突きつけた。
すると──。
「えっ!? な、なにそれ!? え、えぇ!?///」
「お前のだろ」
「えっ、嘘、違うし! 知らないし!」
「じゃあ、なんで俺の部屋にあるんだ?」
「えっ……えぇっと……そ、それは……」
ひなたは目を泳がせながら、明らかに挙動不審な態度を取った。
「……なぁ、正直に言えよ。お前、わざと置いてってるだろ?」
「ち、違うもん! 忘れただけだもん!」
「……58回目なんだが?」
「た、たまたまだよ! そ、そういうこともあるって!」
「本当に?」
「ほんとほんと! あー、びっくりしたぁ……まさか、私のじゃない可能性もあるかもって思っちゃったよ……」
「俺の部屋に、お前の以外の誰が来るんだよ」
「そ、そうだけど! でも、わざとじゃないからね! たまたま、うっかり、ぽろっと落ちちゃっただけだから!」
全力で否定するひなた。
だが、明らかに不自然だ。
「……お前さ」
「な、なに?」
「いい加減、認めたらどうだ?」
「認めるって、何を?」
「わざと置いていってるってことを」
「ち、違うってば!!」
ひなたはバッと立ち上がり、俺から下着をひったくると、勢いよくポケットに突っ込んだ。
「これはただの忘れ物! 絶対にわざとなんかじゃないから! ね!?」
「……本当に?」
「ほんとほんと! じゃ、じゃあ今日はもう帰るね! またね!!」
そう言うと、ひなたはバタバタと玄関へ走り出した。
「おい、スリッパくらい履け」
「大丈夫大丈夫! じゃあね!!」
バタン。
ひなたは勢いよくドアを閉め、慌てて帰っていった。
「……絶対わざとだろ」
俺はため息をつきながら、乱れた寝袋を片付ける。
昨日は「物を置いていかない」と約束したのに、やっぱりこうなるのか。
「あれ……? そもそも何であいつが俺の部屋で寝ていたんだ?」
昨日は? 一人で就寝したはずだが……。
「駄目だ。思い出せない……」
ミニマリストのはずなのに、なぜか幼馴染の存在だけは減らせない。
そんな矛盾に、俺はまたため息をつくのだった──。